最大の難所
クロエは一足早く中央都市近郊の荒野に来ていた。あれから一ヶ月が経過し、マシロ達は来るのかと内心不安で一杯だったが顔には出さなかった。
(……仮に来なくても私は私の責務を果たすだけ。マシロに見せる事でマシロの覚醒を促したかったんだけどな……)
握りこぶしを作って力を入れる。 地面から浮いて、空中へ移動し、滞空する。マシロ達の魔力を感じたからだ。クロエが口角を吊り上げた瞬間、マシロが瞬間移動で現れる。マシロの両隣にはライズとラスクがいた。大方、この二人のどちらかの瞬間移動だろう。
三人は総じて空中に浮遊しているクロエを見ていた。
不安の色を隠せない目、怒りの篭った目、何を考えてるか分からない目と三者三様だった。
「おい! こんな所に連れてきてなんの用だ!返答次第じゃただじゃ済まさんぞ」
ライズがクロエに向かって怒鳴るように喋る。クロエは呆れたように嘆息をこぼす。
「弱い犬程良く吠える……弱者の証拠だ。
第一、二度も私に完膚なきまでボロボロにされてるって言うのにまだ実力差も分からないの? それか実力差を感じない程の馬鹿か。そのどちらかだよ」
クロエの容赦ない言葉はライズを激昂させるのには充分だった。
「〜〜〜〜っ!! 殺す! "炎竜の……」
「みっともないぞライズ。今日はそんな事しに来たんじゃないんだろ?」
すんでの所でラスクが止める。ラスクに止められたライズは渋々応じた。
「やれやれ、私は別に良いんだけど? "奴" が来るまでの時間稼ぎになるし」
「"奴"?」
クロエの言葉にラスクが聞き返す。クロエはラスクを一瞥すると言葉を続けた。
「私が倒さなければならない" 敵" だよ。
先に言っとくけど私でも倒せるかどうか分からない。ま、全力は尽くすけどね」
「クロエちゃん……。無理しないでね」
マシロが心配した様子でクロエを見やる。
そんなマシロにクロエは笑顔をうかべ、
「大丈夫。心配しないで良いよマシロ。私は絶対に勝つ。約束する」
親指を立てながらマシロにウインクをした。
クロエは背後に向き直り、全身から殺気を全方位に放つ。
「離れてた方が良いよ。 そんな近くじゃあ戦闘に巻き込まれて死ぬから。そろそろ "奴" が来る」
後ろを振り返らずにマシロ達に言い聞かせる。クロエの殺気に圧され、ラスク達は言う事を聞くしかなく、クロエとの距離を取った。
クロエから見て前方に巨大な影が見え始める。それはゆっくりとした速度でクロエの方向に近づいてきていた。体が徐々に見えてくる。銀色の鱗に巨大な翼、鋭い爪と牙、クロエの四倍はあろうかと言う巨躯、それは何処からどう見ても竜だった。 しかもただの竜ではない。醸し出す雰囲気が他の竜と一線を画していた。
「来たな……。私が相手だ」
クロエが好戦的な態度を見せ、口角を吊り上げる。一方、ラスクとライズ、マシロの三人は竜の大きさに唖然としていた。見てるだけでもラスクとライズは冷や汗が止まらなかった。 マシロはあの竜と戦うクロエの背中を見る。 小さな身体であの巨大な竜と戦うクロエを想像すると胸が痛んだ。
(私には応援する事しか出来ない。クロエちゃん、頑張って!)
ギュッとスカートを握り締める。クロエの無事をひたすらに願って。
「馬鹿げてる……あの竜は明らかに普通じゃない。いくらクロエが強くてもあんなのは無謀過ぎる!!」
ライズが戦慄に染まった声で言う。若干声が震えていた。ラスクも同様なのか唾を飲み込む事しか出来なかった。
竜はクロエを確認すると、息を吸い込んで異常な音の咆哮を上げる。空間が震え、殺気と共に馬鹿でかい音量が全身を襲う。
「相手にとって不足はない。文字通り全力で相手をしてあげる」
クロエは竜の咆哮に物怖じせず凄絶な笑みを浮かべた。




