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来客

 中央都市からかなり離れた辺境の荒野でクロエは数体の魔物を同時に相手をしていた。

 辺りには無数の魔物の死体が転がっておりどれも原形をとどめてなかった。肉片になった魔物、体の半分が抉り取られた魔物、地面に縫い付けられた魔物と様々だった。


「はぁ……はぁ……、っ、くそっ」


 右手に剣を持ち、肩で息をしながら魔物の様子を伺う。四〜五体の魔物に囲まれているのに対しクロエは一人。どうみても多勢に無勢だった。

 竜が二体、キメラが一体、ガーゴイルが二体と言った魔物と対峙している。



「ちっ、めんどくさいっ! "剣戟爆破"」


  ガーゴイル二体を標的に定め、詠唱破棄で魔法を放つ。クロエの頭上に魔法陣が展開し、その魔法陣から大量の剣が放出されあっという間にガーゴイル周辺の地面を埋め尽くす。

 クロエはそれを見定めると手を翳す。

 地面を埋め尽くす程の剣が一斉に発光したのも束の間、それらが大爆発を起こした。砂塵と爆炎が辺りに拡散し熱気に包まれる。


  クロエが発動した"剣戟爆破"は剣の範囲爆発の魔法だ。範囲が狭ければ狭い程威力は跳ね上がる。逆に、威力は落ちるが広範囲に展開する事で敵の一掃も可能といった優れた魔法だった。


「……っ!?」


  ガーゴイルに意識が行っていたためキメラの攻撃を躱すのが遅れてしまう。キメラの爪撃はクロエの右腕に直撃し鮮血が飛び散った。

 クロエは痛みに顔を歪ますが直ぐさま反撃にうってでる。キメラの片腕を掬い上げるように切り上げ、蹴りを喰らわす。

  キメラはバランスを崩すが倒れなかった。キメラが倒れなかった事を歯噛みし、竜の爪撃を宙返りで躱す。


「くっ……! はぁ、はぁ……。

 "インフェルノ"」


  空中でインフェルノの展開させ、インフェルノを剣に纏って斬撃にしてそれを放った。

 その一撃はキメラの顔面に直撃し、瞬く間に炎がキメラの全身に燃え広がった。途端にキメラは甲高い鳴き声を上げて悶絶し、程なくしてキメラは絶命した。


「はぁ、はぁ……っ、あと、二体!」


  竜二体を睨みつけると空中を蹴って加速し、竜の頭頂部に剣を振り下ろす。が、硬いのか甲高い金属音を響かせる。クロエはその反動で距離を取る。するともう一体の竜の口から炎が漏れ出す。口内に溜めた炎でクロエを焼き尽くす気らしい。

  吐き出されたそれはクロエに直撃すると辺りを火の海にしたが、次の瞬間にはインフェルノが炎の吸収を始めていた。


(こいつらを相手にするには少し魔力が足りない。さっきの連戦でほぼ使い果たした。

 インフェルノが精一杯だ。それに、炎だけじゃ相性が悪い)


「"紅炎・波状の炎牢"」


  透き通った紅色の炎が波打つ牢に変化する。それは竜一体を閉じ込めると一層波打ち、出ようともがく竜の攻撃を無効化していた。

 炎を吸収し終わったクロエは左腕に吸収した炎を高密度に圧縮させた状態で纏わせる。

 それを炎牢に閉じ込められた竜に向けて投擲した。莫大な炎の奔流となって辺りを飲み込み、竜の咆哮にも似た断末魔が響く。


「次でラストっ……! っ、しまっ─────」


  竜が尾を振り回して攻撃してきた。クロエの満身創痍の身体では避ける事すら出来ずに、脇腹にモロに喰らい、地面に叩きつけられる。


「がはっ!?」


  肺の空気が吐血と共に全て出てしまい、クロエは呼吸が出来ずにいた。咳き込んでいるがその間にも竜はクロエに近づいて来ていた。


「グルルル……グオオオオオオオオオオッ!!!」


  竜の咆哮が辺りに木霊する。空気を震わせ、鼓膜を破かんばかりの音量だった。

 クロエはふらつきながら剣を杖代わりにして立ち上がる。


「あんたで最後なの……いい加減に倒れなさい!"術式炎装・インフェルノ零"」


  天を突く程の火柱がクロエを包み込む。衝撃波が波紋のように広がり熱気と共に全方位に拡散する。火柱が螺旋を巻きながら段々と小さくなっていき最終的にはクロエの炎装に還元される。


「これで終わりよ……"煉獄・溶ケ始メタ世界"」


  クロエが魔法を発動させるとそれに呼応するようにあちこちから火柱が上がり、クロエと竜を囲むように形成されていく。火柱は互いに合わさって炎の壁になっていく。全ての火柱が繋がって炎で包まれた巨大な空間が完成した。それは急速に圧縮・凝縮していき竜の巨躯ですら炎と共に圧縮された。

  小さな、しかし濃密な炎の塊となったそれをクロエは片手で掴んで空高く放り投げる。

 軌道が頂点に達した時、それは圧縮されたエネルギーが押し出すようにして爆発を起こした。その爆発を見ながらクロエはヘナヘナと地面に座り込む。


「やっと、終わった。……不老不死に再生能力があると言っても流石にこの数じゃあ……ね」


 クロエは首と身体を回して後方を見やる。

  死屍累々の凄惨とも言える光景だった。

 クロエが相手をした魔物の数は凡そ二百。

 それこそ死に物狂いで魔物を殲滅させたのだ。 座り込むのも無理は無かった。


「つっ、魔力が無いと立つのもやっとだね」


  やはり剣を杖代わりにしてフラフラと立ち上がる。そしてゆっくりと歩き出したのだった。


「さて、魔力が戻るまでしばらく休むかな」


  荒野を抜け、中央都市近郊の近くの森まで来たクロエは大木にもたれるように座る。黒のスカートを履いていたが人の気配も魔物の気配も無いので少し足を広げていた。息の乱れは最早無く、少し身体がふらつく程度だった。


「ふぅ……。流石にあの数はキツかったな。何度腕が飛ばされた事か。この身体に感謝ね。出なければ半分も行かずに殺されてただろうから。 服、血生臭いから洗わないと。

 "レインシャワー" "ホープフレア"」


  クロエが人差し指を一本上げると水がクロエの首から下を覆って、間を置いて四散し、直後に淡い光を纏った炎がクロエの身体を包み込み、服の水を蒸発させた。ひと段落つくとクロエは嘆息をつく。森の一方向を睨んで殺気を辺りに充満させる。


「こそこそ動くの止めて欲しいんだけど?

 バレてないとでも思ってるの?」


  声を低くさせ、明らかな敵意と殺意を持って森に隠れている人物に警告を含めて言葉を吐き出す。



「バレてないと思ったんだけど流石に鋭いな」


  大木から顔を出したのはラスクだった。ラスクは大木に寄りかかっているクロエに近付くが一定の距離が開いていた。クロエがラスクを凝視し、静かに口を開いた。


「で、私に何か用かしら?ラスク・デーナントさん。ま、大方予想はついてるけどね」


「ああ……クロエの予想通りかどうか分からないがマシロちゃんについてちょっと聞きたい事があってね」


 ラスクの言葉を聞くとクロエは不機嫌そうに眉をひそめる。


「やっぱり。言う気はないわ。言わせたければ力づくで……今はチャンスよ? 私弱ってるし」


「いや、戦う意思はない。 それより俺、君に名乗ったかな? 何故俺の本名を言える?」


「愚問だね。調べさせてもらったんだよ。

 まぁ、そうね。戦うのも今は面倒くさいし敵意が無いなら別に居ても構わないよ」


「じゃあそうさせてもらおうか」


  ラスクは微笑むとゆっくりと膝を曲げる。クロエと向かい合うような形だった。


「綺麗な金髪だなぁ。毎日手入れはしてるの?」


  ラスクの質問にクロエは目を丸くすると盛大なため息を一つついた。


「はぁ? 何それ? ……ま、手入れは欠かして無いよ。しかし女の子にそんな事聞くなんてね。デリカシーの欠片も感じ無いわ。

 魔力が完全に回復してれば今頃あなたは消し炭になってたわよ。発言に気をつける事ね」


  呆れて物も言えなかったクロエはどこか辟易していた。


「そうやってマシロにも手を出してるんじゃないでしょうね?もし出してたら許さないわよ」


  強気の口調で行くがラスクは首を振って軽くいなす。その態度が不服だったのかクロエは舌打ちを鳴らす。


「ふん……女漁りも大概にしとかないといつか死ぬよ? で、他に聞きたい事は?」


  明らかに御機嫌斜めなクロエだったがラスクに次を促す。


「マシロちゃんは何者なんだ?」


「……私とマシロは運命共同体。

 言ってる意味分かる? そうね、あと一つ言うならマシロはこの世界の運命を握っている者……かな」


  クロエの答えに今度はラスクが目を丸くする。しかしあくまで平静を装う。


「運命共同体か……。それにこの世界の運命を握ってるってどういう意味だい?」


「残念だけど言えるのはここまで。本来ならマシロに言うつもりの内容なんだし。部外者のあなたがしゃしゃり出るのもどうかと思うけど?それにそれをマシロに言うつもり?あなたが言ったって無意味に等しいよ。

 私が言わなきゃ意味が無いんだから」


  肩を竦めて首を横に振るクロエ。最後にラスクを嘲笑うような薄気味悪い笑みを浮かべた。


「酷いな……。しかし益々謎が深まるなぁ……」


  困ったような笑みを浮かべるラスクをクロエは鼻を鳴らして一瞥する。


「別に酷くないわよ。どうせこの会話もすぐに忘れると思うわ」


「忘れる? どういう意味だ?」


  クロエの意味深な言葉に思わずおうむ返しで返す。


「そのままの意味。そんな事も分からないの? まぁいいわ。 マシロの事はおしまい。今度私が直々に伝えに行くから。その時にでも分かるよ」


  スクッとクロエが立ち上がる。立ち上がる拍子にクロエのパンツが見えた。赤色でフリルとレースで着飾ったパンツだった。


(パンツは黒じゃないんだな……)


  名前にちなんで下着も黒に統一して欲しかったラスクであった。そんなラスクにきがついたのかクロエが不意に後ろを向く。


「次見たら素粒子レベルまで分解するから覚悟してね」


  恐ろしい程の笑みだが目は笑ってなかった。ラスクはそれに恐怖したのか首を縦に振る。


「短い余生、精々謳歌する事ね。じゃあね〜」


  そう言ってクロエは手を振ってラスクの前から飄々と姿を消した。


  中央都市近郊の森を出たクロエはすっかり良くなった身体を伸ばすと地面を蹴って空に向かって跳躍する。


(……さぁて、いつマシロに言うかだね。

 これからが大変そうだ)

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