第9話 閑話・魔法少女
【防衛局公認・関東&広域連携魔法少女グループ(※魔法障壁保護済)】
画面の上に踊る、緑と白を基調としたメッセージアプリ風の画面。
このグループチャットは、防衛局と契約する魔法少女たちが日常の愚痴から討伐情報の共有、装備の貸し借りまでをフランクにやり取りする、いわば「魔法少女たちの溜まり場」だった。
妖精の管理システムと強固な魔法プロテクトによって外部からの覗き見は絶対に不可能。さらに名前の偽装もできないため、ここではランカーも一般層も、基本的には等しく「ちょっと特別な女子たち」として雑談に興じている。
魔法少女チェリーアーマー:
ねえみんなー! 今日の討伐任務おつかれさま〜! 埼玉エリアのクラック、無事に収束したよ! 応援来てくれたプリズムスターちゃんマジ感謝!!
プリズムスター:
チェリーちゃんもお疲れ様〜! えへへ、ギリギリ間に合ってよかった!
それにしても今日のクラック、上位ビーストが3体も混ざっててマジでヤバかったよね……Ⅳ号級なんて相手にしたの久しぶりかも
魔法少女チェリーアーマー:
ほんとそれ!! 救援要請出してから絶望してたんだけど、“あの人”が急に現れて一瞬で終わったから腰抜かしたわ……
雷撃少女ヴォルテック:
あー、噂の件か? 現場にいたやつらから報告受けてるぞ。
「また」出たんだろ……? あのサイコロリ野郎(幼女)。
魔法少女チェリーアーマー:
そう!! 傀儡の女王様!!
凄まじい勢いで上空から巨大なぬいぐるみ達降ってきたと思ったら、ビースト3体が瞬殺されて一瞬で片付いちゃった……!でね、私、余波で肩の装甲持ってかれて血が出ちゃってたんだけどさ……プレシア様、無言で近づいてきて私の肩に糸を「チクチク」って通してくれたの!
プリズムスター:
きゃーーーー!! マスタードール様の直接縫合!!
噂には聞いてたけど、本当に痛みゼロで傷口塞がるんでしょ!?
魔法少女チェリーアーマー:
そうなの!! 跡形もなくキレイに治った!
相変わらず「ゴミが散らばってて不快だわ」みたいな冷たい氷灰色の目で一瞥されただけだけど、ツンデレにも程があるでしょ……!
あの不愛想だけど絶対に死人は出さないスタイル、マジで推せるわ。
爆炎のアリア:
ふんっ、まあ腕が良いのは認めざるを得ないけどさー。
不法占有の違法魔法少女を狩るときも容赦なさすぎるでしょ。先月の闇ルート摘発のときなんて、違法魔法少女3人を糸でグルグル巻きにして防衛局の玄関前に不法投棄してったらしいじゃん。
ぷち★はむ:
あはは、それニュースで見た!「贈り物が届きました」って貼り紙してあったやつでしょ?ww
魔法少女☆ルミナス:
やっぱり本物の天才ランカーは格が違うよねぇ。
本人は「お人形遊びの邪魔」とか言ってそうだけど(笑)
プリズムスター:
最近の傀儡の女王様、本当に凄すぎるよね……!?
前までは防衛局の召集命令も、本当に緊急な時と気が向いた時以外はスルーして自分の任務地に引きこもってたのに、ここ数日は本州全域の救援要請に片っ端から爆速で入ってきて怪物を片付けてるって……!
からくり工作員:
噂によると、ここ3日間で討伐したクラックの数が上位ランカーの月間規定数を余裕で超えてるらしいぞ。防衛局の広報部がちゃっかり特設ページ作ってたわ。
『天階階位8位、真の覚醒!』とか書いてあった(笑)
魔法少女チェリーアーマー:
いやマジで助かるんだけど、実際に遭うとやっぱりちょっと怖いのよ!
今日なんてビーストを刻み終えたあと、青いお目々で虚空を見つめながら「これでお姉さまに……もっと完璧な私を……」とか呟いててゾッとしたもん!! お姉さまって誰!? 傀儡様にお姉様なんていたっけ!?
雷撃少女ヴォルテック:
おいおい、あの「人間嫌い」「他の魔法少女はおもちゃ扱い」で有名だった傀儡の女王がねぇ……。
でもまあ、現場の救援率が上がってるのは事実だし、怪我したやつの欠損治療まで完璧にこなして去っていくんだから文句は言えねぇよ。ツンデレが極まりすぎて一周回ったのか?
花舞うヴェール:
でもでも! 治験枠で傀儡の女王様の糸の治療を受けた一般人の方々のファンクラブまでできてるらしいですよ〜! 難病が治ったとかで『聖女様』って呼ばれてるみたいです! 治験の倍率、数倍になってるのだとか……!
からくり工作員:
妖精さんたちは「魔法治療は将来的なリスクが未知数だから軽率に応募するな」って注意喚起出しまくってるけどな。殺到しすぎるとパニックになるし。オタクの応援は魔法少女の力になるから良いんだけど、加減しろバカ!と言いたくもなる。
魔法少女チェリーアーマー:
とにかく今の傀儡の女王様は完全無欠のスーパーヒーローだよ! 配信の同接もえげつないことになってるし!
鏡界の観測者:
……ふふ。お賑やかね、みんな。
魔法少女チェリーアーマー:
ひえっ!? ????
鏡界の観測者様!?!? ランク9位の!? えっ、本物!?
プリズムスター:
嘘、ミラージュ様だ……! グループチャットに顔を出すのなんて半年ぶりくらいじゃないですか!?
からくり工作員:
マジかよ、裏仕事でいつも忙しそうな観測者様が降臨されたぞ……。
ぷち★はむ:
ひえっ!?!?!? ぎ、銀鏡のサクヤ様!?!?!?
えっ、本物!? 9位のミラージュ様がチャットにいる!?
魔法少女☆ルミナス:
こんばんはぁぁぁ!!ミラージュ様!!
まさかランカー様がこんな末端の雑談部屋にいらっしゃるなんて……!
爆炎のアリア:
チッ、珍しい奴が顔出してんじゃん。
裏仕事専門の暗部様が、こんな一般チャットで何の用だよ。また不都合なログの監視か?
鏡界の観測者:
相変わらず攻撃的ですね、アリアさん。
いえ、たまたま情報通信のデータフローを監視していたところ、マスタードールの名前が頻出していたもので、少し覗かせていただいたまでですよ。
彼女の最近の突出した活動実績は、防衛局上層部でも大きな話題になっていますから。
ぷち★はむ:
やっぱり上層部でも話題になってるんですね!
傀儡の女王様、何か心境の変化でもあったのかな……?
鏡界の観測者:
さあ……。私の方でも彼女の行動パターンを解析してみましたが、特定の思想や組織的な動機は見当たりませんでした。
ただ……そうですね。彼女の最近の戦い方や配信での立ち振る舞いを見ていると、まるで『誰か特定の個人に見せつけるため』に舞っているかのような、奇妙な意図を感じます。ただ、積極的に動いてくれているお陰で溜まっていた裏の案件にも着手できるようになってきました。
魔法少女☆ルミナス:
えっ!? 「見せつけるため」……!?
まさか、プレシア様に意中の人が出来たとか!?
爆炎のアリア
はあ!? あの人形オタクのサイコ女児にか!? あるわけねぇだろ!
あいつが興味あるのはビスクドールと、自分の糸で操る玩具だけだっつーの!
雷撃少女ヴォルテック:
裏の案件って……また違法魔法少女の始末とかですか、ミラージュさん?
鏡界の観測者:
さあ、どうでしょうね? 鏡の裏側の秘密よ。
ただ……違法魔法少女といえば、最近は私が手を下す前に「何者か」に先を越されるケースが増えているの。
魔法少女チェリーアーマー:
えっ!? ミラージュ様より先に!? 誰ですかそれ!?
鏡界の観測者:
……防衛局の公式データベースにも一切載っていない存在。
闇ルートで流通した怪物のコアを追っていた違法グループが、突如として壊滅させられる事件が多発しているの。現場に残されているのは、核を抜き取られ、頭部が消失した怪物の残骸と……昏倒した違法魔法少女たち。
プリズムスター:
え……違法魔法少女を殺さずに、助けて放置して去ったってことですか……?
鏡界の観測者:
そういうことになるわね。そしてその現場からは、魔法少女特有の『魔力反応』がほとんど感知されない。まるで、ただの人間が素手で異界の化物を屠ったかのように。
花舞うヴェール:
あ……! もしかしてそれ、地下掲示板で囁かれてる『あの噂』ですか……!?
雷撃少女ヴォルテック:
あー! あれだろ!? 『黒星』って呼ばれてる都市伝説みたいなやつ!
魔法少女チェリーアーマー:
知ってる知ってるー!! 闇のクラックハンターみたいな噂でしょ!?
黒いロングコートを着てて、帽子を深く被った小柄な女の子! 魔法も使わずに紐みたいな武器と格闘術だけでクラックをひとりで清掃して、核だけ持っていっちゃうっていう! コート姿が超絶カッコいいって界隈でバズってた!
からくり工作員:
俺も聞いたことあるぞ。変身バンクもなければ魔力光もない。なのに高位のビーストを瞬殺するらしい。一部の非合法魔法少女の間じゃ「黒い死神」とか「孤高の救世主」って呼ばれて崇められてるとか。
プリズムスター:
魔法少女じゃないのに、ひとりでクラックに入って戦ってるってこと……? そんなこと人間ができるの……!? 怖すぎる……
魔法少女☆ルミナス:
私も知ってる!変身バンクもないし、魔法の光も出ないのに怪物を倒せるなんて、防衛局のデータベースにも登録されてないし、絶対に野良のプロか、隠蔽された実験体だよ!
爆炎のアリア
ハッ、くだらねぇ。
どうせどこかの非合法組織が作った違法兵器か、ハッカーが流したフェイク動画だろ。魔力反応がないのに怪物と戦えるわけねぇじゃん。
第一、本当にそんな奴がいるなら、防衛局の暗部が放っておくわけないだろ? なあ、ミラージュ?
鏡界の観測者:
……ふふ。どうでしょうね。
一応、私の『鏡面位相』を用いた情報網でも、その『黒星』に関する目撃証言や、クラック内部の異常な破壊痕跡のデータはいくつか回収されています。動画や画像はすべてノイズが混じり、不可視の位相干渉で防ぐような高度な隠蔽が施されていますが……“実在する”ことだけは確かです。
ぷち★はむ:
えええええっ!? 本物の暗部ランカーのミラージュ様が「実在する」って言った!?!?
魔法少女☆ルミナス:
キャー! マジだったんだ!!
じゃあその『黒星』って何者なんですか!? 防衛局の敵なんですか!?
雷撃少女ヴォルテック:
マジかよ……天階階位のランカー並みにヤバい奴が、防衛局のあずかり知らないところで勝手に暴れ回ってるってことか?
鏡界の観測者:
ええ。上層部も彼女の存在を警戒し始めているわ。もし彼女が防衛局に敵対する存在なら、極めて危険な脅威になり得る。……けれど、今のところ一般人や正規の魔法少女に危害を加えたという報告はゼロ。それどころか、偶然居合わせた初心者の魔法少女を庇って戦ったという目撃証言すらあるわ。
魔法少女チェリーアーマー:
キャー! なにそれ尊い……!!
正体不明、孤高の強者、でも実はめちゃくちゃ優しくて巻き込まれた人を庇ってくれる黒コートの少女……!? アニメの主人公かよー!!
花舞うヴェール:
お名前は……『黒星』様とお呼びすればいいのでしょうか? 誰も本名を知らないなんて、すごくミステリアスで素敵です……! 憧れちゃいますね……!
プリズムスター:
もし会えたらサインもらいたいレベルだけど、近づいたら攻撃されちゃいそうで怖いよ〜!
からくり工作員:
まあ、関わらないのが一番だな。万が一遭遇したら下手に攻撃しないで防衛局に通報するのが正解だろ。
雷撃少女ヴォルテック:
だなー。ランカー級の怪物がうろついてると思えばいい。怪物との戦いは横に置いておいても、違法魔法少女との戦いに長けてるってことは、元魔法少女《OB》の可能性も考えられる。
傀儡の女王:
雑魚の癖に、気安くあのお方の名を口にしないで
魔法少女チェリーアーマー:
ひえあああッ!?!?
傀儡様ーーーーッ!?!?!?
プリズムスター:
ごごごごめんなさい!! チャット見てらっしゃったんですか!?
爆炎のアリア:
なっ……お前、チャット通知切ってるんじゃなかったのかよ!?
雷撃少女ヴォルテック:
おいおい、マスタードール……! 「雑魚」はねえだろ!
傀儡の女王:
少しでも悔しいと思うなら、そう呼ばれないように自分の力を磨いては如何かしら?
あのお方は、ただの都市伝説などではないわ。
これ以上、あのお方の名を出して戯言を抜かすなら……貴女たちの口を糸で永遠に縫い合わせるわよ。
魔法少女チェリーアーマー:
(ひ、ひえぇぇぇ……やっぱり傀儡様怖すぎるよおぉぉ……! )
からくり工作員:
(……待て、マスタードールって、もしかして直接『黒星』と会ったことがあるのか……? この熱量、普通じゃないぞ……)
鏡界の観測者:
……あら、傀儡の女王。
あなた、あの『黒星』について……何か私たち以上の特別な情報をお持ちのようね?
傀儡の女王:
貴女に教える義理はないと思わない?観測者。
あのお方のお姿、その手に残る冬空のような温もり、私を庇ってくださった絶対的な背中……それらを知る権利があるのは、その為だけに生まれ変われる私だけよ。
花舞うヴェール:
(か、庇ってもらったんだ……!やっぱり黒星様、優しい方なんだ……!)
鏡界の観測者:
ふふ、なるほど。出会ってしまったのね。
……なら、ひとつだけ警告しておいてあげるわ。彼女の正体や背景を探ろうとして、あまり深入りしすぎないことね。彼女の情報は、私たち防衛局すら把握しきれていないの。
傀儡の女王:
忠告は無用よ。私には『クマのルル』や『ウサギのミミ』、それに『マリオネットのメル』が居るし、クロトもいるわ。それでも、ダメだったなら
――こんな世界壊れてしまえ
傀儡の女王 が退室しました
魔法少女チェリーアーマー:
た、退室された……。息止まるかと思った……
プリズムスター:
すごかったね……マスタードール様、完全に『黒星』様に心を奪われちゃってる感じだったよね……?
雷撃少女ヴォルテック:
あいつ……相変わらず重すぎるだろ感情が!
でも、これでマスタードールが最近狂ったように実績挙げてる理由が分かったな。『黒星』に見初められたいからかよ!
からくり工作員:
推し活のスケールが天階ランカーレベルで草も生えん。でもまあ、そのおかげで私たちの生存率が上がるなら万々歳か。
花舞うヴェール:
ふふ、恋する魔法少女は強いですね〜! 応援したくなっちゃいます!
鏡界の観測者:
……ふふ。狂信もここまで来れば見事なものね。
さて、私もそろそろ戻るわ。みなさん、黒星の件はくれぐれも警戒を怠らないようにね。特に、ひとりで現場にいる時に遭遇したら……決して敵意を見せないこと。
魔法少女チェリーアーマー:
はーい! ミラージュ様もありがとうございました〜!
プリズムスター:
お仕事がんばってください!
鏡界の観測者 が退室しました
魔法少女チェリーアーマー:
ふぅ〜、今日は上位ランカーふたりも降臨して超濃いチャットだったね!
よし、私も傀儡様や黒星様に負けないように、明日のパトロール頑張るぞ〜!!
プリズムスター:
おー! えいえいおー!
爆炎のアリア:
……チッ、わけわかんねぇ。アタシも落ちるわ。
ルミナス、ぷち、夜の巡回気つけろよ。
爆炎のアリア が退室しました。
ぷち★はむ:
は、はいぇ……巡回いってきますぅ……(震え声)
魔法少女☆ルミナス:
もしかしなくても、明日の引継ぎはプリズムちゃんたちだね。また明日よろしくねー!




