閑話
【SNS / 大手ニュースプラットフォーム投稿・リアルタイムログ】
■ ニュース公式アカウント:防衛省魔法対策局「湾岸第4区における空間ノイズと映像トラブルについて」
【お知らせ】本日未明に湾岸第4区で発生した特定事象につきまして、一部SNSで流出している映像は、現場自動防衛システムの干渉による著しい空間位相乱反射です。一部で囁かれている「海外からの非公認戦闘員」等の存在は確認されておりません。市民の皆様におかれましては、デマ情報の拡散にご注意いただき、冷静な対応をお願い申し上げます。
■ ユーザー反応(X / 旧Twitter等)
@news_watcher_jp(公式認証バッジ / ニュース系コメンテーター)
防衛局の公式発表が出ましたね。映像の乱れは位相エネルギーの干渉による誤認とのこと。一方でネット上では、映像内で確認された「縄のついた刃物(縄鏢?)」の形状から、海外由来の戦闘員ではないかという噂が広がっています。公式以外の活動は厳罰対象ですので、静観が賢明です。
@luna_magical_official(天花寺ルナ・公式応援アカウント)
ルナちゃん、昨夜もお疲れ様でした!✨
ノイズのせいで配信が途切れちゃって心配したけど、無事で安心しました!
ネットで言われてる中華系の怪しい『黒星』なんかに負けず、これからも笑顔で頑張ってください!ずっと応援してます!
@manga_illust_taro(イラストレーター / フォロワー12万人)
例のノイズ映像、一瞬だけ映る黒コートの少女が使ってた武器、中国の暗器「縄鏢」ですよね……!?ネットで速攻『黒星』ってコードネームついてて草。漢字表記の不吉さと中華暗殺者感があってめちゃくちゃデザイン刺さったのでファンアート描きました!
※あくまでフィクションのファンアートです!公式の魔法少女システムを応援しています!
@military_magical_lab(ミリタリー・魔法戦術考察クラスタ)
【考察】『黒星』仮説についての検証。
使用武器が魔法デバイスではなく、旧時代の暗器(縄鏢)に極めて酷似。
魔法少女特有の光子エフェクト(加護粒子)が一切観測されない。
奇妙な赤黒いエフェクト(不確定)が微かに観測されている。
初の「海外製・違法魔法少女」説、あるいは国家間協定の外側にいる闇の工作員説。少なくとも、現行の魔法少女たちとは根本的に異なる力を動いているのは確実と思われる。
@kanagawa_saiba_law(弁護士 / ネット誹謗中傷対策)
【注意喚起】SNS上で、特定の魔法少女や防衛局関係者に対する過度な攻撃・侮辱的な投稿が見受けられます。
「黒星」等の未確認存在を引き合いに出した公式組織への誹謗中傷やデマの拡散は、名誉毀損・業務妨害罪に問われる可能性があります。発言には十分ご注意ください。
■ 匿名掲示板(5ちゃんねる / 魔法少女・都市伝説スレッド)
【中華暗殺者?】黒星★4【黒いコートの幽霊】
112:名無しさん@お腹いっぱい。
SNSの方は相変わらず綺麗事ばかりだな。開示請求が怖いから誰も本音書けないの草。セルリアンの配信が途切れる直前、明らかに圧されてたじゃん。
115:名無しさん@お腹いっぱい。
>>112
表じゃ「公式のシステムエラー」ってことにしてるけど、まとめサイトは完全に『黒星』の正体説で持ちきりだぞ。魔法少女ユニットを横目に、大体10秒で怪物を地面に埋め立てて去っていく黒コートの少女。名前の「黒星」も誰がつけたか知らんがハマりすぎてる。
120:名無しさん@お腹いっぱい。
縄鏢とかいう渋すぎる暗器使ってる時点で、公式魔法少女とは趣が違いすぎるだろ。非公式な魔法少女って噂もあるし、中国かどっかの裏組織が送り込んだ刺客説好き。
128:名無しさん@お腹いっぱい。
待て、Xで『ヘイシン(黒星)の出現位置マップ』作ってる有志(@phantom_tracker)の投稿見たか?過去の出現地点、全部「旧政府の廃墟施設」のライン上に並んでるらしいぞ。
135:名無しさん@お腹いっぱい。
>>128
マジか。じゃあ次の出現予測地点も割り出せるってことか?
誰か現地にカメラ仕掛けに行こうぜwww
142:名無しさん@お腹いっぱい。
>>135
やめとけ。あそこらはマジで結界の外側だし、本当に違法クラックが開く場所だぞ。素人が行ったら死ぬ。
つか、その目撃マップのデータ、出来すぎじゃね? 誰かが誘導してねえか?
■ 雑居ビル地下・五味のジャンク屋
無数のモニターが淡い青光を放ち、刻一刻と更新されるSNSのタイムラインと掲示板のログが、滝のようにスクロールしていく。五味は古びたパイプ椅子に深く腰掛け、安酒のグラスを傾けながら、喉の奥でケッケッと下品に笑った。
「見ろよ、クロセ。表のSNSじゃ火消しで大忙しだ。お前が使ったあの物騒な縄鏢のせいで、ネットじゃ『初の海外魔法少女』だの『中華の暗殺者・黒星』だの、面白おかしい尾ひれがついて大バズりだぞ」
カウンターの端。黒瀬 澄は、冷えた缶コーヒーの缶を静かに手の中で転がしていた。カチ、と小気味よい音を立ててプルタブを引き抜く。
「……『黒星』ですか」
黒瀬の澄んだ声には、熱量も、怒りも、誹りすらも含まれていなかった。コーヒーを一口含み、冷ややかな声音で言葉を続ける。
「彼らはただ、自分たちの無力さと理解不能な現象を覆い隠すために、分かりやすい物語を消費しているだけでしょう。魔法少女という光の物語か……ヘイシンという闇の物語か。私という存在の真実には、誰一人として興味などありません。勿論、それが悪いとは言いませんが」
「相変わらずドライだなあ。だが、その物語を利用して、お前を狙い撃ちにしようとしてるガキもいるぜ」
五味は画面の一角――『ヘイシン目撃マップ』を拡散しているアカウントのIP解析ログを指で突いた。
「表のSNSで一般人のフリをして、綺麗に整えられた考察を流す。オタクどもがそれに食いついて自発的に拡散させる……見事な誘導だ。このマップが指し示してる次の出現予測地点、どこか分かるか?」
黒瀬は缶コーヒーをゆっくりと一口含み、深く被ったフードの影から、冷やかに紅紫の瞳を静かに巡らせた。
「……三十年前に閉鎖された、旧政府系・異次元位相総合研究所の地下遺構」
静寂が、ジャンク屋の空気を凍りつかせる。黒瀬は残りのコーヒーを飲み干すと、空き缶を静かにゴミ箱へ落とした。ガトン、と乾いた音が落ちる。
「罠であれ、網であれ……関係ありません。そこに私の探すものがあるのなら、ただ踏み越えるだけです」
黒瀬はポケットに両手を突っ込み、暗がりへと静かに足を踏み出した。ネットを揺らす『黒星』の熱狂とは何一つ交わることのない、冷たく硬質な死の気配だけを残して。




