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【完結】比翼の乱世:老虎と鸞鳥の契り  作者: 深山 凛
◆第一章◆

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第06話

俺の腕の中にすっぽりと収まりながら、鸞は白く細い指先を動かし、新たな赤い絹糸を編み込んでいた。

滑らかな手つきで形作られていくのは、先ほどの二つよりもさらに复杂に交差した、どこが始まりでどこが終わりなのか分からない、迷路のような結び目だった。



「……今、編んでいるそれは?」



俺が低く尋ねると、彼女は編みかけの組紐をそっと両手で包み込み、恥じらうように瞳を揺らした。



「これは、盤長結(ばんちょうむすび)……。始まりも終わりもない、永遠に途切れない絆を意味する結びです。……貴方への、永遠の愛を祈って」



永遠。

そのたった二文字が鼓膜を震わせた瞬間、分厚い玄衣を突き破り、とうに冷え切っていたはずの俺の心臓のど真ん中へ、甘く焼け焦げるような熱が真っ直ぐに突き刺さった。


実の母にすら化け物と忌み嫌われ、泥の地獄を這いずり回るしかなかった俺のひどく汚れた魂を、彼女はそんなにも純粋で無垢な祈りによって、この世に繋ぎ止めてくれようとしていたのか。

彼女の深く、静かな想いを突きつけられ、俺の中で理性を縛り付けていた鎖が音を立てて断ち切られる。

内に飼い慣らしていた猛虎の独占欲が、全く別の熱を帯びた。



「あっ……老虎……っ」



堪えきれず、俺は彼女の手から編みかけの組紐をそっと抜き取り、そのまま細い身体を己の胸の中へと引き寄せた。

小さな吐息が漏れた瞬間、俺は剣だこで硬くざらついた指先を、白粉のいらない彼女の透き通るような頬へとはわせる。

彼女の柔らかな肌が、俺の無骨な指の熱に触れてかすかに震えた。

見上げる琥珀色の瞳は微かに潤み、紅を引かなくても鮮やかに色づいた唇が、俺だけを求めて無防備に開かれている。



「……鸞」



掠れた声でひそやかに囁き、彼女の柔らかな後頭部を大きな掌で包み込む。

そのまま、俺は吸い込まれるように、その唇を深く塞いだ。



「……んっ」



皮膚一枚の切ない接触から、互いの吐息が混ざり合う。

重なり合った唇の隙間から、先ほどまで彼女が飲んでいた花茶の清涼な香りが流れ込んできた。

俺は少し開いた彼女の唇を食むように吸い上げていく。


花茶の甘さと、彼女自身の持つ甘露のような味わいが混ざり合い、思考が白く灼け飛ぶような感覚に陥った。

俺は彼女の細い腰をさらに強く抱き寄せ、息継ぎの隙間すら与えないほどに、角度を変えて何度も、何度も唇を重ね続ける。


彼女が小さな手で俺の広い背中にすがりつき、衣をきつく握りしめる。

ドクン、ドクンと、重なり合った胸の奥で、互いの命の音が一つに溶け合ってゆく。

俺の内に巣食っていた戦場の冷気や、血の呪縛が、腕の中にいるたった一人の女の純粋な熱によって、ドロドロに融かされていった。



(鸞だけは、絶対に誰にも渡さない)



俺の魂を繋ぎ止める命綱は、この世でお前ただ一人だ。

その柔らかな口内を貪るように塞ぎながら、俺はこの絶対的な光の海へと、ただ甘く、どこまでも深く溺れていった。


静かに唇を離し、俺たちは額を重ね合わせたまま、互いの乱れた鼓動を落ち着かせるように浅い息を繰り返した。

わずかに乱れた彼女の黒髪の隙間から、夕暮れの赤い光が水榭の板間へと長く伸びてきている。

俺の胸にすがりつく鸞の小さな手の中には、先ほどの複雑な結び目が、確かな形を成して握られていた。

始まりも終わりもない、永遠の愛を意味する『盤長結』。



「……仕上げてくれ」



掠れた声で促すと、彼女は潤んだ瞳をゆっくりと瞬かせ、微かに震える指先で最後の糸を引き絞った。

鮮やかな赤い絹糸が、きゅっと小さな音を立てて強固な結び目を固める。

俺はその小さな両手ごと、完成したばかりの盤長結を己の大きな掌で包み込んだ。

ざらついた剣だこのある皮膚に、絹の滑らかな感触が擦れる。



「鸞。……この結び目は、俺の魂をお前の元へ縫い止める楔だ」



「これから先、俺がどんな血と泥の地獄を歩むことになろうと……鸞……俺は必ず、お前のいる場所へと還ってくる。これがお前へと還る、俺の命綱だ」



「老虎……」



彼女の目から、真珠のような涙がひと粒、白粉のいらない頬を伝って零れ落ちた。

彼女は俺の大きな手を自身の頬にすり寄せ、壊れそうなものを抱くように、そっと目を閉じた。



(ああ……この光だけは、俺が絶対に守り抜く)



災厄の子という母の呪いも、背後に迫る簒奪者の影も、今の俺にはもう恐れるに足らない。

彼女のこの純粋な祈りがある限り、俺は彼女を庇護する絶対的な盾となり、どんな修羅にでもなれる。


夕陽が館を赤々と染め上げ、水榭の中はすべてを溶かすような甘い残照に包まれていた。

ただお互いの体温だけを感じ合う、完全な充足。

だが、水面を染めるその美しい赤は、どこか忍び寄る戦火の血の色をひそやかに暗示しているかのようにも見えた。

冷たい夜の風が、水面を揺らして足元を通り抜けていく。



(どうか、この静かで温かな時間が、永遠に続けばいい)



腕の中の柔らかな温もりをさらに深く抱き締めながら、俺はただ強く、声なき祈りを天へと捧げるばかりであった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


*ちょこっと雑談*

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また明日19:00にお会いしましょう!

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