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【完結】比翼の乱世:老虎と鸞鳥の契り  作者: 深山 凛
◆第三章◆

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第41話

帝都・洛華(らくか)を吹き抜ける風はどこまでも白く、乾いた土埃を孕んで舞い上がっていく。


遥か南に位置する瑞々しい水の故郷――南苑州(なんえんしゅう)の湿った土の匂いやたゆたう河の湯気など、この巨大な石造りの城門には微塵も存在しない。

眼前に立ち塞がる天を突くような灰色の城壁と、砂埃を巻き上げて往来する軍馬の猛々しいいななきだけが、ここが新たなる大渭国(いこく)の冷徹な権力の中心地であることを否応なく告げていた。

重厚な鉄の甲冑が激しく擦れ合う、硬質で冷たい金属音が響く。

俺――陰識(イン シキ)は、瞬きすら忘れた硝子のような瞳で、遥か晶陵(しょうりょう)から一ヶ月もの長い旅路を経て近づいてくる馬車の一群を静かに見据える。傍らには、皇帝の絶対的な腹心の耿翼(コウ ヨク)が微動だにせず直立していた。


じっと佇む耿翼の横顔は、石の彫像のように強張ったままである。

かつて温暖な南苑州にて郭氏の長男誕生という残酷な報せに血が滲むほど拳を握り締め、極寒の渭北(いほく)にいる皇帝へ向けて俺が叩きつけたあの絶縁状。それを己の手で中継するほかなかったこの男の額には、今、冷たい汗が玉となって滲み出している。

微かに開いた唇から漏れる吐息はひどく浅く、重い官服の背がじっとりと濡れてゆく様を、俺の視線は静かに捉え続けた。


やがて、厳重な兵士の警衛に囲まれた馬車の車輪が軋む音を重々しく響かせ、城門の敷石へと滑り込んでくる。

ゆっくりと分厚い木扉が開き、降り立ってきたのは我が陰家を支える厳格なる母と、文人肌の弟である陰歆(イン キン)、そして俺の妻である管春華(カン シュンカ)。さらに、故郷で我が家が預かっていた劉寧(リュウ ネイ)の姿もそこにはあった。




「――お母様、皆、よくぞご無事で」




歩み寄る俺に対し、母は長旅の疲労を微塵も表に出すことなく、凛と伸びた背筋を正したまま小さく顎を引く。

その直後、耿翼が音を立てて豪奢な官服の裾を翻し、一歩前へ進み出た。皇帝の代弁者として、そして劉寧の婚約者として身を固く強張らせたまま、陰家の面々の前に深く頭を下げる。




「皆様、南苑州からの長い道中、大過なく都へ到着されましたこと、皇帝陛下に代わり心より歓迎いたします。陛下は今でも、皆様をかけがえのないご家族であると仰っております。長きにわたり長公主殿下をお護りいただいたことへの深い感謝と……これまでの数々の不義理に対する詫びの印として、せめて都で心安らかにお過ごしいただけるようこちらの屋敷をご用意されました。どうか、お納めください」




震えるその声には、皇帝がいまだ陰家を家族として想う切実な誠意と、平伏せんばかりの謝罪の念が込められている。

だが、手厚い出迎えに対して陰家の誰も口を開こうとはしなかった。ただ都の乾いた風だけが吹き抜けてゆくばかり。我々は誰一人声を荒らげることなく、城門に差し向けられていた厳重な馬車へと静かに乗り込み、皇帝側が用意したという邸宅へとそのまま運ばれていった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!


*ちょこっと雑談*

さらりと識の奥さん、管春華(カン シュンカ)が登場!

南苑州出身の、目立たないけど堅実で穏やかな女性です。


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また明日19:00にお会いしましょう!

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