第95話 盤上と盤外
ブラノールが謁見室から退出すると、重い扉が静かに閉じられた。
玉座に残された女帝の口元には、まだわずかな微笑が浮かんでいる。
勇者の無事でも、亀裂の封鎖でも動かなかった表情を変えたのは、小さき獅子の成長を伝える報告だった。
女帝は誰もいなくなった謁見室へ目を向ける。
「聞いていたのであろう、天秤」
返事はなかった。
代わりに、玉座の足元から影が広がり始める。
黒い影は床を覆い、柱を呑み込み、謁見室の壁と天井まで塗り潰していった。
やがて、すべての光が消える。
そこには、床も天井も存在しなかった。
上下すら定かではない暗黒の中に、女帝だけが立っている。
正面へ、一つの人影が現れた。
長い髪と、色の薄い肌。
身体を覆う黒い衣服。
人間の男にも女にも見える顔に、澄んだ金色の目が浮かんでいる。
片方の目の奥には、小さな天秤の紋様が刻まれていた。
姿だけを見れば、人間と変わらない。
だが、その身体から呼吸は聞こえず、脈動も感じられない。
人の姿を借りているというより、暗黒そのものが一時的に人の輪郭を作っているように見えた。
契約者と契約物。
本来なら分かれているはずの二つの境界は、すでに存在しない。
深淵へ到達した果てに、人間であることを終えた存在。
天秤宮の契約者だったものが、金色の目を女帝へ向ける。
「久しいな、牡牛」
「お前にとっての久しいが、どれほどの時間を指すのか分からぬがな」
天秤は答えない。
その視線が、女帝の奥にある何かを量るように動く。
「神の駒が、また一つ亀裂を閉じた」
「勇者のことか」
「そうだ」
天秤の声には、喜びも安堵もなかった。
「この世界の神は勇者を選び、次元の先にいる魔王は魔族を送り込む。互いの駒を奪い合い、失った分を新たな駒で補う。終わりのない盤上だ」
「くだらぬ遊びだ」
「それでも、盤が壊れれば世界へ影響が及ぶ」
女帝が目を細める。
「お前が動けば、次元の先にいる魔王など、瞬く間に消せるだろう」
「可能だ」
天秤は迷うことなく答えた。
「だが、私が一方へ傾けば、別の均衡が崩れる。封じられた獣たちもまた、動き始めるだろう」
「魔王より、そちらが重要か」
「比べるものではない。魔王は盤上にいる。獣は、盤そのものを喰らう」
暗黒の奥で、何か巨大なものが動いたように見えた。
だが、次の瞬間には何の気配も残っていない。
「ゆえに私は量り続ける。神にも、魔王にも与しない」
「十二宮もか」
「十二宮は、初めからあの盤に置かれた駒ではない」
勇者と魔族。
この世界の神と、次元の先にいる魔王。
その争いから外れた場所に、十二宮の契約者たちは存在している。
女帝――牡牛は腕を組む。
「それを確認するために、私を呼んだのか?」
「違う」
天秤の金色の目が、わずかに細められる。
「なぜ、盤外にいる獅子を、神の駒へ近づけた?」
女帝の口元へ、先ほどと同じ微笑が戻る。
「セフィリアと出会ったのは、あの子が選んだ結果だ」
「帝国を離れる日に依頼を与え、第四席に鍛えさせた力を魔族へ向けさせた。それを偶然と呼ぶのか?」
「偶然とは言っておらぬ」
「ならば、牡牛。お前が獅子を盤上へ近づけたのだ」
「私は道を示しただけだ」
女帝は悪びれることなく答えた。
「あの依頼を断り、そのまま王国へ帰ることもできた。亀裂の周囲へ着いたあとも、後方へ留まることはできた」
「獅子が断らないと知っていた」
「ああ」
即答だった。
「あの子は、亀裂の向こうに敵がいると知りながら、自分だけ背を向けることはできぬ。頼まれた場所を守ると決めれば、何が現れても退かぬであろう」
「それを利用したのか」
「信じたのだ」
「言葉を変えただけだ」
「結果は同じでも、意味は違う」
天秤は沈黙した。
その表情に変化はない。
「なぜ、そこまで獅子を育てる?」
「決まっている」
女帝の微笑が、少しだけ深くなる。
「いつか、あの子と全力で闘うためだ」
「そのためだけに、魔族まで利用したのか」
「私が魔族を呼んだわけではない。目の前へ現れた獲物を、あの子へ任せただけだ」
「獅子が死ぬ可能性もあった」
「その程度で死ぬのなら、私の前までは届かぬ」
冷たい言葉だった。
だが、女帝の目には、レグルスが死ぬ可能性を考えていなかった者の確信があった。
「お前の欲望も、いずれお前自身を呑み込む」
「お前のようにか?」
天秤の輪郭が、わずかに暗黒へ溶ける。
「私は必要なものを得た。それだけだ」
「すべてを量ろうとした果てに、契約物と一つになった。今のお前を、人間と呼ぶ者はいないであろう」
「人間である必要がなくなった」
平坦な答えだった。
「お前は違う。幾代もの記憶と力を継承しながら、牡牛は今も人間の側へ留まり続けている」
「それが、私たちの選択だ」
「それなのに、獅子には境界の先を歩ませるのか?」
女帝はすぐに答えなかった。
歴代の牡牛が継承してきた力と記憶。
そのすべてを受け取りながら、最後の一線だけは越えなかった。
どれほど強くなろうとも、どれほど長い記憶を持とうとも、一代ごとの牡牛は人間として生き、人間として死ぬ。
「だからこそ、見たいのだ」
女帝が口を開く。
「あの子が人の境界を越えるのか。それとも、人のまま、その先へ至るのか」
「境界の先に、人間のまま立てる場所などない」
「お前は、そうであったのだろう」
「例外は存在しない」
「それを決めるのは、お前ではない」
女帝は暗黒の先を見据える。
「あの子自身だ」
天秤の金色の目が、女帝から外れる。
その視線は暗黒を越え、遠く離れた何かへ向けられているようだった。
「獅子の刃が、神の駒の光を記憶した」
女帝の眉が、わずかに動く。
「勇者の力をか?」
「使えるようになったわけではない。力を奪ったわけでもない。ただ、その形を自らの内側へ刻んだ」
「面白い刀になったものだ」
「面白がることではない」
天秤の声が、初めてわずかに低くなる。
「盤外にあるはずの獅子の刃が、盤上の力へ触れた。今は小さな変化にすぎない。だが、それが次の位階へ至る鍵となる可能性はある」
「ならば、量り続ければよい」
「均衡が崩れるとしてもか?」
「崩れる前に動くのが、お前の役目であろう」
女帝の答えに、天秤はしばらく沈黙する。
「獅子が境界を越え、獣へ至るのなら、私はあれを量る」
それは警告だった。
獅子であろうと、十二宮の契約者であろうと、世界の均衡を崩す存在となれば、天秤は見逃さない。
「その時は、私が先にあの子の前へ立つ」
「止めるためか?」
女帝は笑う。
「闘うためだ」
天秤は何も答えなかった。
人の輪郭が崩れ、暗黒の中へ溶けていく。
最後まで残っていた金色の目も、ゆっくりと閉じられた。
同時に、暗黒の空間が消える。
帝国宮殿の謁見室。
玉座には、先ほどと変わらない姿で女帝が座っていた。
閉ざされた扉の向こうから、宮殿を行き交う者たちの足音が聞こえてくる。
女帝の身体には呼吸があり、胸の奥には確かな鼓動がある。
「人のまま、その先へ至るか」
確かめるように呟く。
「見せてもらうぞ、小さき獅子」
女帝の口元には、再び微笑が浮かんでいた。
王国騎士団の魔導艇が帝都を離れてから、数時間が過ぎていた。
俺は客室の窓際へ座り、流れていく雲を眺めていた。
船体を包む術式が風を遮っているため、窓の外では雲が激しく流れていても、内部へ大きな揺れは伝わってこない。
向かい側にはセフィリアが座っている。
二人の従騎士は前方の操縦室に近い席で、魔導艇の状態を確認していた。
ブラノールも、今は操縦室にいる。
突然、腰の獅心が小さく脈打った。
一度だけ。
魔力を流していないにもかかわらず、黒鞘の奥から鼓動が伝わってくる。
『レグルス』
セレスの声が意識へ響く。
『今、何かがこちらへ触れたわ』
「何か?」
思わず、小さく声へ出す。
「どうしました?」
セフィリアがこちらを見る。
「いや。獅心が、急に脈打った」
「魔力を流したのですか?」
「何もしていない」
俺は黒鞘へ手を添える。
だが、二度目の鼓動は返ってこなかった。
「昨日、私が触れた時のようなものですか?」
「それとも違う。今のは、一度だけだ」
「不思議ですね」
セフィリアが、俺の腰にある黒鞘を見つめる。
「何かを伝えようとしたのでしょうか」
「分からない」
『見られていたような感覚だったわ』
セレスの声が続く。
『でも、どこから見られていたのかまでは分からない。今はもう、気配も消えている』
セレスにも分からないものを考えても、答えは出ない。
俺は獅心から手を離した。
「もう、何ともないのですか?」
「ああ。いつもどおりだ」
「そうですか……」
セフィリアは少し残念そうに黒鞘から目を離す。
「何か起きることを期待していたのか?」
「少しだけ」
「危険なことかもしれないぞ」
「それは困ります。でも、獅心が何を伝えたかったのかは気になります」
「刀が何かを伝えるとは限らない」
「名前を呼べば反応する刀ですから」
否定できなかった。
『あなたより、あの子の方が刀のことを理解しているかもしれないわね』
セレスの声を聞き流し、再び窓の外を見る。
眼下には、帝国の穀倉地帯が広がっていた。
遠くまで続く麦畑と、真っすぐ伸びた街道。
その景色が、魔導艇の速度に合わせて後方へ流れていく。
「レグルスさん」
「何だ?」
「もう一つ、聞いてもいいですか?」
「刀のことか?」
「今度は、レグルスさんのことです」
セフィリアが少しだけ姿勢を正す。
「どうして、そこまで強くなろうとするのですか?」
すぐには答えられなかった。
「急にどうした?」
「昨日の戦いを思い出していたんです」
セフィリアの視線が、俺の腰にある獅心へ向けられる。
「レグルスさんは、騎士団長でも、勇者でもありません。西側を守るように頼まれただけの冒険者でした」
「ああ」
「それでも、自分より強い魔族の前へ一人で立ちました」
「一人じゃない。周りに冒険者がいた」
「でも、あの魔族と戦ったのはレグルスさんです」
セフィリアは視線を上げる。
「逃げようとは思わなかったのですか?」
「逃げれば、あいつがセフィリアのところまで行っていただろ」
「そうかもしれません」
「なら、逃げる理由はない」
「怖くはなかったのですか?」
「勝てるかどうかは分からなかった」
最初の抜刀は、黒い鱗に受け止められた。
力も速さも、それまで戦ってきた魔族とは違っていた。
それでも、勝てないと決まったわけではなかった。
「怖くなかったとは言わない。でも、やると決めたあとに考えることじゃない」
「やると決めたあと……」
セフィリアが、その言葉を小さく繰り返す。
「刀を持ったきっかけは、家族だ」
「ご家族ですか?」
「祖父に教わった。父も刀を使う。兄や姉も、俺よりずっと先を歩いていた」
姉が使うのは刀ではない。
それでも、魔法と術式において、その背中が遠かったことに変わりはない。
「最初は、追いつきたかっただけかもしれない」
「今は違うのですか?」
「ああ」
俺は腰の獅心へ目を向ける。
「刀を持ったきっかけは、自分で選んだものじゃなかったのかもしれない。でも、今も振り続けているのは、俺が決めたことだ」
「どうして振り続けるのですか?」
「どこまで届くのか、知りたいからだ」
「届く……?」
「今の俺には斬れないものが、まだいくらでもある」
あの魔族の黒い鱗を斬った時に得た手応え。一閃の、その先。今もなお遠い、兄や父、祖父の背中。
「届かないなら、届くまで振る。それだけだ」
「それだけ、と言えるのがすごいと思います」
「そうか?」
「普通は、届かないと分かれば諦めるものです」
「諦めたら、そこで終わるだろ」
セフィリアは一度だけ瞬きをする。
それから、どこか困ったように笑った。
「やっぱり、レグルスさんは強いですね」
「昨日も言ったが、強いのは俺より上にいくらでもいる」
「戦う力だけの話ではありません」
「それ以外に何がある?」
「そういうところです」
何を指しているのか分からなかった。
セフィリアは窓の外へ顔を向ける。
雲の切れ間から差し込む光が、その横顔を照らした。
「私は、勇者に選ばれることを望んでいたわけではありません」
静かな声だった。
「選ばれた時は、怖かったです。急に力を与えられて、魔族と戦うことを求められて……自分が勇者だと言われても、すぐには受け入れられませんでした」
「断ることはできなかったのか?」
「できたのだと思います」
セフィリアは少し考えてから答える。
「少なくとも、誰かに無理やり剣を握らされたわけではありません。でも、私が断ったあとに魔族が現れて、誰かが傷つくかもしれない。そう考えたら、本当に断るという選択ができたのかは分かりません」
勇者であることを選ばされたのか。
自分で選んだのか。
セフィリア自身にも、その境目は分からないのだろう。
「それでも、今も戦っている」
「はい」
セフィリアが自分の右手を見る。
亀裂を閉じるため、勇者の光を放っていた手だ。
「勇者に選ばれたことは、私の意志ではありません。でも、この力で戦うことは、私が決めました」
「なら、それでいいだろ」
セフィリアがこちらを見る。
「簡単に言いますね」
「複雑に考えれば、答えが変わるのか?」
「……変わらないと思います」
「なら、決めたとおりにすればいい」
セフィリアはしばらく俺を見ていた。
やがて、柔らかく笑う。
「はい。そうします」
『似た者同士かもしれないわね』
セレスの声が意識へ響く。
「誰と誰がだ?」
思わず答える。
「何の話ですか?」
セフィリアが首を傾げる。
「何でもない」
「先ほども、同じことを言っていませんでしたか?」
「気のせいだ」
「そうでしょうか」
セフィリアは納得していないようだった。
それでも、それ以上尋ねてはこなかった。
前方の扉が開き、ブラノールが客室へ入ってくる。
「間もなく、帝国と王国の国境を越える」
窓の外へ目を向ける。
広大な穀倉地帯が途切れ、その先へ深い森林と蛇行する川が見え始めていた。
「王都への到着は?」
セフィリアが尋ねる。
「このまま問題がなければ、日が沈む前には着く」
「思っていたより早いな」
「この艇は長距離の高速移動を目的に造られている。通常の輸送艇とは速度が違う」
ブラノールの視線が俺へ向けられる。
「王都へ着いたあとは、ギルドへ向かうのか?」
「はい。帝国で受けた依頼の報告も届くと聞いています」
「今回の働きについては、私からも王国ギルドへ報告しておく」
「ありがとうございます」
「正当に評価されるべき働きを伝えるだけだ」
ブラノールは短く答え、セフィリアへ視線を移した。
「セフィリアは、到着後すぐに王城へ向かう。今回の亀裂について、国王への報告が必要だ」
「分かっています」
「魔力が戻り切っていないことも報告しろ」
「それも必要なのですか?」
「当然だ。隠して、すぐに次の任務へ向かうつもりか?」
「そのつもりはありません」
「なら、正直に話せ」
「……はい」
セフィリアがわずかに肩を落とす。
その姿は勇者というより、師に注意された弟子に見えた。
ブラノールは操縦室へ戻る。
入れ替わるように従騎士の一人が飲み物を運んできた。
王国の国境を越えてから、景色は少しずつ見慣れたものへ変わっていった。
帝国ほど広く整えられてはいない街道。
森の中へ点在する小さな村。
川沿いに広がる畑と、その周囲を囲む石壁。
帝国へ向かう時には陸路と魔導列車を使った。
上空から見る王国は、地上を歩いていた時とは違って見える。
日が西へ傾き始めた頃、遠くに王都の外壁が見えた。
幾重にも連なる石造りの壁。
その内側に広がる建物の屋根。
中央には、王城の尖塔が夕日に照らされている。
「見えてきました」
セフィリアが窓へ近づく。
「あれが王都です」
「知ってる。俺も王都にいたからな」
「そうでしたね」
「忘れていたのか?」
「レグルスさんが帝国に馴染んでいたので、少しだけ」
「数か月も離れていない」
『その間に、ずいぶん変わったけれどね』
セレスの言うとおりだった。
王都を離れた時、俺の刀は折れていた。
体術も、命脈を巡る魔力円環も知らなかった。
今は違う。
見えている街並みは変わらなくても、そこへ戻る俺の方が変わっていた。
魔導艇が高度を下げ始める。
王都の外壁近くに設けられた発着場で、誘導用の術式が淡い光を放っていた。
低い駆動音を響かせながら、船体がゆっくりと着地する。
乗降口が開くと、王国騎士たちが先に外へ降りていった。
俺も荷物を持ち、久しぶりに王国の地面へ足をつける。
「レグルスさん」
後ろからセフィリアに呼び止められた。
「どうした?」
「私は、このまま王城へ向かいます」
「ああ。ブラノールから聞いた」
「レグルスさんは、ギルドですよね?」
「そのつもりだ」
少し離れた場所で、従騎士たちがセフィリアを待っている。
ブラノールは発着場の責任者と話をしていた。
セフィリアは一度そちらを見たあと、俺へ向き直る。
「また、お会いできますか?」
「同じ王都にいるんだ。会おうと思えば会えるだろ」
「では、次に会った時は手合わせをお願いします」
「手合わせ?」
「はい」
セフィリアの視線が、獅心へ向けられる。
「今度こそ、レグルスさんがこの刀で戦うところを、最初から最後まで見たいです」
「見るだけでは済まないぞ」
「分かっています」
セフィリアが腰の剣へ手を添える。
「私も剣を使う者ですから」
勇者としてではなく、一人の剣士としての目だった。
「分かった。機会があればな」
「約束ですよ」
「依頼が終わったら刀を見せる、という約束より重くなっていないか?」
「気のせいです」
セフィリアが小さく笑う。
「セフィリア。行くぞ」
ブラノールに呼ばれ、セフィリアが振り返る。
「はい!」
返事をしたあと、もう一度こちらを見る。
「では、また」
「ああ。またな」
セフィリアは二人の従騎士と合流し、ブラノールとともに王城へ向かっていった。
俺も荷物を背負い直す。
『選ばれたことと、自分で選ぶことは違う、か』
セレスの声が意識へ響く。
「セフィリアの話か?」
『あの子だけの話ではないわ』
「どういう意味だ?」
『さあ。自分で考えたら?』
「急に言い出したのはセレスだろ」
『それくらい、王都のギルドへ着くまでに考えられるでしょう』
セレスはそれきり黙ってしまった。
勇者に選ばれたセフィリア。
獅子宮へ足を踏み入れ、今も刀を振り続ける俺。
始まりをすべて自分で選べる者はいない。
それでも、どこへ進むのかは自分で決められる。
少なくとも、俺はそう思っている。
俺は獅心へ手を添え、久しぶりの王都へ一歩を踏み出した。




