第8話 帰還
光が視界を埋め尽くした。
足元の転移陣が輝き、身体が浮き上がるような感覚に包まれる。
思わず目を閉じた。
次の瞬間――。
「……うおっ!?」
硬い地面の感触。
レグルスは慌てて身を起こした。
見慣れた青空が広がっている。
暖かな風。鳥の鳴き声。
地下遺跡にはなかった匂い。
「戻ってきた……?」
周囲を見回す。
そこは崩落事故が起きた採掘場の近くだった。
遠くにはベルグラードの城壁も見える。
間違いない。
地上だ。
「生きて帰れたわね」
セレスが嬉しそうに言う。
「お前、途中から随分気楽だったよな」
「死ぬとは思ってはいないからね」
「俺は何回か死ぬと思ったぞ」
「それはお前が弱いからよ」
「うるさい」
思わず苦笑する。
だが不思議と嫌な気分ではなかった。
地下遺跡での戦い。
ゴブリン。
ゴブリンシャーマン。
獅子の間。
どれも数日前のこととは思えない。
ほんの少しだけど、自分が変わった気がした。
「とりあえず町へ戻るか」
「賛成よ」
セレスも即答だった。
どうやら本も疲れるらしい。
歩き始めて一時間ほど。
ベルグラードの門が見えてきた。
見慣れた街並み、石造りの建物。
露店の呼び込み。
行き交う人々。
当たり前だった光景が妙に懐かしく感じる。
門番がこちらを見る。
そして。
「おい!」
門番が声を上げた。
「レグルスじゃないか!?」
「え?」
「生きていたのか!」
門番が驚いた顔で駆け寄ってくる。
周囲の人々もざわつき始めた。
レグルスは首を傾げる。
「そんなに騒ぐことか?」
「崩落事故だぞ!」
門番が呆れた顔をする。
「お前、三日も行方不明だったんだぞ!」
「三日?」
思わず聞き返す。
体感では一日程度だった。
「捜索隊まで出たんだ」
「マジか……」
少し申し訳なくなる。
その時だった。
「レグルス!」
聞き慣れた声。
振り返る。
人混みをかき分けるように走ってきたのは一人の少女だった。
金色の髪。
青い瞳。
見慣れた顔。
勇者エリシア。
「本当に生きてた……!」
勢いのまま胸を叩かれる。
思ったより痛い。
「痛っ!」
「心配したんだから!」
「悪かったって!」
エリシアは怒ったような顔をしていた。
だがその目は少し潤んでいる。
本気で心配していたのだろう。
レグルスは頭を掻いた。
「ごめん」
その様子を見ながらセレスが小さく呟く。
「青春ね」
「黙れ」
「図星か」
「黙れ」
二度目だった。
エリシアには聞こえていないらしい。
レグルスは内心で助かったと思った。
その後。
簡単な事情説明を終えたレグルスは自宅へ戻ることになった。
一人暮らしの小さな家。
久しぶりのベッド、久しぶりの天井。
「帰ってきたな……」
全身から力が抜ける。
地下遺跡では常に気を張っていた。
今ならすぐ眠れそうだった。
その時だった。
視界の端に光が走る。
『帰還を確認』
『継承者認証完了』
『ステータス機能を解放します』
レグルスが飛び起きた。
「は?」
空中に文字が浮かぶ。
誰にも見えない。
だが確かに存在している。
淡い金色の光。
そこには。
見たことのない項目が並んでいた。
『個体名:レグルス・クレハルト』
『黄道十二宮契約者』
『獅子宮適合者』
『称号 ネメアの獅子』
そして。
その下には。
【基本行為】
【切る】
【突く】
【叩く】
【弾く】
という文字が並んでいた。
レグルスの心臓が大きく脈打つ。
これが。
継承者だけに見える世界。
本当の成長の証だった。
そして物語は。
ここから本格的に動き始める。




