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第7話 獅子の間

静かな通路を歩き続けていた。

システムが示す淡い光の線。

それだけがレグルスを導いている。


「なあ」

歩きながらレグルスが口を開く。


「なに?」

セレスの声が返る。


「この遺跡、本当に出口へ繋がってるんだろうな」


「知らないわ」

即答だった。


「おい」


「私は案内役じゃないわ」

とケラケラと笑う。


レグルスは思わずため息を吐いた。

だが、そのやり取りのおかげで少し緊張が和らぐ。

地下遺跡へ落ちてからずっと張り詰めていた。


戦闘もあった。

命の危険もあった。

それでも前へ進むしかない。


生きて帰るために。

しばらく歩き続けた時だった。


通路の先に光が見えた。


「……?」


レグルスは足を止める。


自然光ではない。

白く淡い光。

部屋の中から漏れ出している。


慎重に近付く。


そして。


「広い……」

思わず呟いた。


巨大な空間だった。

円形の大広間、天井は見えないほど高い。

無数の柱が並び、床には複雑な紋様が刻まれている。


その中心。


一際大きな石碑が立っていた。

そして石碑の上には。

巨大な獅子の紋章。


「獅子……」


レグルスが見上げる。

不思議なことに初めて見るはずなのに懐かしさを感じた。

胸の奥が熱くなる。


『認証を確認』


突然システムの声が響く。


『獅子宮関連施設を確認』


『適合率上昇』


レグルスが目を見開く。


「獅子宮?」

その単語に反応したのはセレスだった。


「待って」

いつになく真剣な声。


「今なんて言ったの?」


「獅子宮だ」


「……」

セレスが黙り込む。


数秒、いや十秒以上。


「おい?」


「ありえないわ」

ようやく返ってきた声は震えていた。


「獅子宮なんて伝説の話よ」


「伝説?」


「黄道十二宮のひとつよ」


レグルスは石碑を見る。

獅子の紋章は淡く光り続けていた。


「お前、知ってるのか?」


「少しだけね」

セレスは低く呟く。


「だが詳しくは知らないわ」


「なんだそれ」


「本当に知らないのよ」

珍しく困ったような声だった。


その時。

石碑の前に一冊の本が置かれていることに気付いた。

風化しかけた古い書物。

レグルスは慎重に手を伸ばす。


本を開く。

そこには文字が刻まれていた。


『後の継承者へ』


その一文から始まっていた。

レグルスは息を呑む。急いで続きを読む。


『この記録を読んでいるということは、君もまた資格を得たのだろう』


『だが今は多くを語れない』


『黄道十二宮はまだ終わっていない』


『我らは滅びていない』


そこまで読んだところで文字が途切れていた。


まるでそれ以上は読ませないように。


「なんだよこれ……」

レグルスは眉をひそめる。


意味が分からない。

だが一つだけ分かった。

継承者は自分だけではない。


そして。


今もどこかに存在している。


『継承者記録を確認』


『情報保存完了』


システムが告げる。


同時に広間全体が淡く光り始めた。

床の紋様が輝く。

魔法陣。


レグルスは咄嗟に身構えた。


「セレス」


「見れば分かるわ」


「転移陣か?」


「多分ね」


石碑の前。

巨大な円陣が輝いている。


その中心からは外の空気が流れてくるような感覚があった。


地上、そんな予感がした。


レグルスはしばらく黙り込む。

ここを使えば帰れるかもしれない。


だが同時に。

遺跡の奥にはまだ何かが残されている気もした。


「どうするの?」

セレスが聞いてくる。


レグルスは少し考えた。


そして笑う。


「決まってる」


帰る。

今はまだ弱い。

この遺跡の全てを探索できるほど強くない。


だからこそ。

生きて帰る。

強くなって。

また来る。


石碑の獅子を見上げる。

不思議とそんな気持ちになった。


『転移陣起動条件達成』


『帰還機能を解放します』


光が強くなる。

レグルスは一歩前へ踏み出した。

そして知らない。

地上へ戻ったその瞬間。

彼だけに見える新たな世界が待っていることを。


継承者だけが見ることのできる――

本当の成長の証が。


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