第6話 継承者の資格
ゴブリンシャーマンが崩れ落ちる。
その瞬間、遺跡全体が微かに震えた。
「……なんだ?」
レグルスは剣を構えたまま周囲を見回す。
新たな敵かと思った。
だが違う。
天井が崩れるわけでもない。
魔物が現れる気配もない。
代わりに、シャーマンの身体が淡い光となって空中へ溶けていった。
ゴブリンたちと同じ現象。
だが規模が違う、光は一つの流れとなり、レグルスの胸へ吸い込まれていく。
「うおっ!?」
慌てて後ろへ下がる。
しかし何も起こらない。
痛みもないし、身体が熱くなるわけでもない。
ただ頭の奥に声が響いた。
『条件達成』
『初回上位個体討伐を確認』
『継承者権限を一部解放します』
無機質な声。
黄道十二宮システムだ。
レグルスは眉をひそめた。
「権限?」
『情報制限中』
『現在開示可能範囲を超過しています』
「いや、説明してくれよ」
思わず突っ込む。
すると数秒ほど沈黙が流れた。
まるで考えているかのように。
そして。
『説明を簡略化します』
『契約者の成長を確認しました』
『継承者資格を認証しました』
「ますます分からん」
レグルスは頭を抱えた。
そんな彼を見て、小脇に抱えていた本が小さく震える。
「ぷっ」
聞き慣れた女性の声。
セレスだった。
「お前、本当に面白いな」
「笑うな」
「だって仕方ないだろ。古代の遺産が必死に説明してるのに、お前が理解できてないんだから」
「理解できる方がおかしいだろ」
「それもそうね」
ケラケラと笑う声。
不思議と緊張が和らいだ。
レグルスは肩の力を抜く。
そういえば、遺跡へ落ちてからまともに会話していなかった。
「セレス」
「なに?」
「継承者ってなんだと思う?」
少しの沈黙。
珍しくセレスはすぐに答えなかった。
「……知らない」
「お前でも?」
「全部知ってるわけじゃないわ」
本の表紙が僅かに揺れる。
「ただ一つだけ言えるのは」
「?」
「この遺跡は普通じゃないわ」
その声は真剣だった。
レグルスも自然と表情を引き締める。
「普通じゃない?」
「上位ゴブリンがいることもそうよ」
セレスは続ける。
「それに、黄道十二宮システムなんて代物が眠っていたの」
「……」
「少なくとも人間が最近作ったものじゃないわね」
古代文明。
失われた技術、伝承でしか聞いたことのない話だ。
レグルスは遺跡の奥を見つめた。
暗闇が続いている。
何かがある
そんな気がしてならなかった。
その時だった。
『探索対象を確認』
再びシステムの声。
レグルスの視界に淡い光が浮かぶ。
細い線。
まるで道を示すように、通路の奥へ伸びている。
「これは……」
『推奨進路を表示しています』
レグルスは目を見開いた。
「道案内?」
『契約者支援機能』
『現在限定解放中』
「便利だな」
「便利すぎて逆に怖いと思うわね」
セレスが呟く。
レグルスも同意だった。
だが今は利用しない理由がない。
地上へ帰る手掛かりが欲しい、生きて帰るために。
レグルスは刀を鞘へ納めた。
「行くか」
「どこへ?」
「決まってる」
光の線の先を見る。
遺跡の奥。
未知の領域。
そして恐らく出口へ繋がる道。
レグルスは歩き出した。
一歩。
また一歩。
その背中を光が照らす。
彼はまだ知らない。
この先で見つけるものが、自分の運命を大きく変えることを。
そして。
百年以上を生きる継承者たちもまた、かつて同じ道を歩いたことを。
静かな地下遺跡の奥へ、レグルスは進み続けた。




