第5話 魔法使いを斬れ
紫色の光が膨れ上がる。
ゴブリンシャーマンの杖の先端。
そこに集まる魔力を見た瞬間、レグルスの本能が警鐘を鳴らした。
危険だ。
今までのゴブリンとはまるで違う。
「っ!」
反射的に横へ飛ぶ。
直後。
轟音と共に紫色の光弾が通路を抉った。
石片が飛び散る。
遅れて衝撃が身体を叩いた。
「こんなの当たったら終わりだろ……!」
額から汗が流れる。
ゴブリンシャーマンは不気味な笑みを浮かべていた。
その背後では残ったゴブリンたちが吠えている。
挟み撃ち。最悪の状況だった。
『高脅威対象を確認』
『推奨行動:接近戦』
頭の中にシステムの声が響く。
「そんなこと分かってる!」
レグルスは叫んだ。
魔法使いは距離を取るほど強い。
ならば近付くしかない。
だが、その前にゴブリンたちが立ちはだかる。
一体。二体。三体。
「邪魔だ!」
飛び込んできたゴブリンへ剣を振る。
【基本行為:切る】
剣筋が自然と走る。
以前より迷いがない。
以前より無駄がない。
一撃。二撃。
ゴブリンが倒れる。
しかし。
その隙を狙うように紫色の光が再び集まった。
「またか!」
今度は避け切れない。
レグルスは咄嗟に剣を構えた。
光弾が迫る。
その瞬間。
視界の端に文字が浮かんだ。
【基本行為:弾く】
【発動可能】
「弾く……?」
考えるより先に身体が動いた。
振り下ろされる光弾。
そこへ剣を叩き込む。
甲高い音が響いた。
信じられないことに。
光弾の軌道が逸れ、轟音と共に壁へ激突する。
「なっ……!」
レグルス自身が一番驚いた。
完全には防げていないため腕が痺れる。
だが生きている。
『基本行為:弾く』
『熟練度獲得』
頭の中で文字が流れる。
その瞬間。
レグルスは理解した。
切るだけじゃない。
戦いの中で新しい行為を覚えるのだ。
だったら。
やることは一つ。
「一直線だ!」
レグルスは駆けた。
残るゴブリンを無視して前へ出る。
シャーマンの顔が歪み、慌てて杖を掲げる。
三発目の魔法。
だが遅い。
レグルスは既に間合いへ入っていた。
刀を握り、踏み込む。
今まで何万回も繰り返した動作。
毎日の素振り。
誰にも評価されなかった努力。
その全てを込める。
「おおおおおっ!」
振り抜く。
一閃。
刃がシャーマンの胸を斜めに走った。
杖が落ちる。
魔力が霧散する。
ゴブリンシャーマンは数歩よろめき――、そのまま崩れ落ちた。
静寂。
地下遺跡に再び沈黙が訪れる。
レグルスは肩で息をした。
全身が痛いし、腕も震えている。
だが、勝った。
確かに勝ったのだ。
その時。
シャーマンの身体が淡い光へ変わり始めた。
今までのゴブリンよりも強い光。
そして――。
『討伐確認』
『条件達成』
『黄道十二宮システム機能を一部解放します』
レグルスは目を見開く。
次々と流れる文字。
今まで見たことのない表示。
地下遺跡の奥から吹く風が、彼の前髪を揺らした。
まだ知らない。
この先に眠る秘密も。
自分が継ぐ運命も。
そして。
百年以上生きる継承者たちの存在も。
だが確かなことが一つある。
レグルスは今日、初めて前へ進んだ。
努力だけでは届かなかった場所へ。




