第4話 積み重ねた一振り
「来い……!」
レグルスは刀を構えた。
地下遺跡の薄暗い通路
先ほど倒したゴブリンの亡骸が転がる中、その奥から新たな魔物たちが姿を現していた。
五体。いや、六体。
どれも同じような醜い顔をしているが、その目には獲物を見つけた獣の光が宿っている。
――ギャアアッ!
先頭の一体が飛び出した。
レグルスは反射的に足を動かす。
その瞬間だった。
視界の端に文字が浮かぶ。
【基本行為:切る Lv2】
「……!」
理解するより先に身体が動いた。
振り下ろされた短剣。
半歩だけ身体をずらす、そして剣を振る。
無駄のない軌道。
鋭い一閃。
ゴブリンの身体が大きく揺れ、そのまま地面へ倒れ込んだ。
「今のは……」
レグルスは目を見開く。
明らかに以前より剣が振りやすい。
力が増えたわけではない。
だが剣筋が安定している。
まるで何百回も同じ動きを繰り返した後のように。
『基本行為補正』
『切る Lv2』
『成功率補正を適用』
頭の中に響く声。
レグルスは小さく息を呑んだ。
そうか、レベルアップしたのは身体ではない。
技術そのものだ。
毎日繰り返してきた動作。
積み重ねてきた剣の振り。
その熟練度が数値として表れている。
そして――。
『黄道十二宮システム稼働』
『動作最適化』
システムが続ける。
レグルスはようやく理解した。
二つの力は別物なのだ。
基本行為レベル。
そして黄道十二宮システム。
前者が技術。
後者が技術を最大限発揮するための補助。
だから戦える。
だから勝てる。
「だったら……!」
レグルスは前へ出た。
ゴブリンが槍を突き出す。
避ける。
踏み込む。
切る。
その一連の動作が驚くほど滑らかだった。
まるで身体が剣術を覚えているような感覚。
違う。
覚えていたのだ。
何年も振り続けた剣が、何万回も繰り返した素振りが。
その全てが今の自分を支えている。
二体目、三体目。
ゴブリンが倒れる。
息が上がる。
腕も重い。
それでも剣は止まらない。
『基本行為:切る』
『熟練度上昇』
『現在値 87%』
「まだ上がるのか……!」
思わず笑みがこぼれる。
戦いながら成長している。
そんな実感があった。
残るゴブリンは二体。
しかし、その時だった。
ゴブリンたちが急に動きを止めた。
まるで何かを恐れるように。
そして左右へ分かれる。
通路の奥。
暗闇の中から、ゆっくりと一つの影が姿を現した。
杖を持つゴブリン。
黒いローブ。
赤く光る瞳。
普通の個体とは明らかに違う存在感。
『警告』
『上位個体を確認』
『個体名:ゴブリンシャーマン』
空気が変わる。
レグルスの喉が鳴った。
先ほどまでの相手とは別格。
本能がそう告げていた。
ゴブリンシャーマンはゆっくりと杖を掲げる。
紫色の光が先端に集まり始めた。
魔法。
レグルスは刀を握り直す。
汗が額を伝う。
それでも目は逸らさない。
ここを越えなければ前へ進めない。
勇者エリシアとのたわいのない約束も。
地上へ帰る道も。
そして――星を斬る未来も。
「来い」
静かな声が地下遺跡に響く。
次の瞬間。
ゴブリンシャーマンの杖が振り下ろされた。




