第20話 獅子宮の第一階層 終章 未踏領域
獅子宮の中で風が吹く。
獅子宮第一階層。
石造りの広間を、静かな風が流れていた。
レグルスは錆びた刀を握ったまま立ち尽くしていた。
汗が頬を伝う、腕は重い、足も痛い。
何度騎士に吹き飛ばされたか分からない。
それでも、以前とは何かが違っていた。
風が見える、いや、正確には感じる。
流れ、向き、揺らぎ。
目ではなく身体で理解できるようになっていた。
「ようやくですね」
セレスが言う。
銀髪の女性は広間の中央に立ち、静かにレグルスを見つめていた。
「何がだ?」
「風の入口です」
レグルスは眉をひそめる。
風は見えない、触れられない、掴めない。
そんなものだと思っていた。
だが今は違う、確かにそこに存在している。
「魔力を流してください」
「こうか?」
身体強化と同じ感覚で魔力を巡らせる。
すると、風が集まり始めた。
身体の周囲に淡い緑色の光が舞う。
「おい」
レグルスは目を見開く。
「それが風属性魔力です」
セレスは当然のように答える。
「風は流れです」
「流れ?」
「止めるものではありません」
少女は指を一本立てる。
「流れを感じて、魔力を集めなさい」
レグルスは身体に集まる魔力に意識を集中し、拳の周囲に魔力を集める。
無理に掴まない、押し込まない、ただ流して集める。
すると。
拳の周囲を風が纏い、それを前方に解き放つ。
シュッ。
目の前を小さな風が走り、石畳の砂埃が舞い上がる。
「今のか!?」
「はい」
セレスは頷く。
「まだまだですがそれが風魔法初級風刃です」
レグルスは何度も試した。
◇
どれだけ時間が経っただろう。
やがて、レグルスは自然と風を纏えるようになっていた。
今はまだ強力ではないし、魔物を吹き飛ばせるほどでもない。
初級魔法、それでも、魔法を使うことが出来た。
「合格です」
セレスが言った。
「これにて第一階層の課題を終了します」
「やっとか……」
レグルスはその場へ座り込む。
疲労が押し寄せるが不思議だった。
以前より身体が軽い。
身体強化も自然に維持できる、魔力の流れも理解できる。
何より、刀が少しだけ馴染んだ気がした。
「成長しましたね」
「少しだけな」
「いえ」
セレスは首を横に振る。
「あなたは確実に前へ進みました」
珍しく真面目な声だった。
レグルスは少しだけ照れ臭くなる。
その時だった。
広間全体が黄金色に輝き始める。
巨大な獅子の紋章。
石柱。
天井。
床。
すべてが光を放つ。
「なんだ?」
「獅子宮を踏破する者に与えられるものがあります」
「契約者が心の奥底で無意識に望んでいる願望が能力として与えられます」
セレスの言葉と同時に。
黄金の光がレグルスを包んだ。
頭の奥で何かが弾け、世界が広がり身体の奥底で何かが変わっていくのが分かる。
そんな感覚。
そして、見知らぬ文字が脳裏に浮かんだ。
【固有能力を獲得しました:未踏領域 】
レグルスは眉をひそめた。
「未踏領域?」
「……」
珍しくセレスが黙る。
「知ってるのか?」
「知っています、やはりそれが望みでしたか」
だが。
その表情は少しだけ複雑だった。
「どういう能力だ?」
静寂、やがてセレスは答えた。
「研鑽の果てに限界がなくなる能力です」
「限界を?」
「はい」
女性は真っ直ぐレグルスを見る。
「努力する限り成長を続けます」
レグルスの瞳が見開かれる。
だが。
セレスは続けた。
「ただし代償があります」
「代償?」
「人から離れていきます」
「限界がなくなるというのは、人の領域から外れるという意味です」
空気が重くなる。
「まずは老化が徐々に遅くなります」
「最終的には周りの人とは一緒にいれなくなり、孤独になります」
レグルスは黙った。
セレスの声だけが響く。
「強くなるほど、成長するほど、このまま進み続けるほど」
「人より長く生きるようになります」
「……」
「第一階層程度の研鑽では誤差です」
セレスは淡々と言う。
「ですが、いずれは避けられません」
レグルスは空を見上げる。
強くなる。
その先にあるもの。
まだ想像もできなかった。
だが、後悔はなかった。
「だったら」
レグルスは笑う。
「そこまで強くなってから悩むさ」
「それにセレスは何時までも俺といてくれるんだろ」
セレスは数秒沈黙し、微笑みながら
そして。
「あなたらしいですね」
とだけ答えた。
◇
次の瞬間。
黄金の光が溢れる、視界が白く染まる。
そして、気付けば自室だった。
慣れた机、慣れた椅子、慣れた部屋。
獅子宮で使用していた錆びた刀はなくなっていたが夢ではない
身体の変化がそれを証明していた。
「ステータス」
と呟く
その瞬間。
目の前に半透明の板が現れた。
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レグルス・クレハルト
黄道十二宮契約者 獅子宮適合者
レベル12
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固有能力
【未踏領域】 いずれ人の世を外れる存在と為る
称号
【ネメアの獅子】 《獅子の誇り》
・身体最適化効率上昇
・恐怖耐性上昇
・威圧耐性上昇
契約 獅子宮第一階層踏破
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基本行為
切る Lv5
突く Lv3
叩く Lv3
弾く Lv3
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努力蓄積16,727
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派生技
《袈裟斬り》
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習得魔法
風魔法初級
生活魔法初級
魔力操作初級(身体強化)
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「……なるほど」
思わず笑みがこぼれる。
まだ弱い、まだ何者でもない。
だが、確かに前へ進んでいる。例えこのまま進めば人ではない存在になろうとしても




