第14話 森の異変
翌朝
レグルスはいつものように早起きしていた。
庭へ出て、刀を抜く。
深呼吸、そして振る、一振り、また一振り。
誰も見ていない朝の鍛錬。
地下遺跡へ落ちる前から続けている日課だった。
「相変わらずね」
腰のセレスが呆れたように言う。
「好きというか落ち着くんだよ」
「変わった人ね」
レグルスは苦笑した。
だが振るたびに身体へ馴染む感覚がある。
黄道十二宮システムを得てから、その感覚はより鮮明になっていた。
『基本行為:切る』
『熟練度上昇』
小さな表示が浮かぶ。
ほんの僅か、だが確実に、積み重なっている。
レグルスは満足して刀を納めた。
そしてギルドへ向かう。
◇
ベルグラード冒険者ギルドの中いつもより騒がしく、中へ入った瞬間、何人もの冒険者が掲示板の前へ集まっている。
「なんだ?」
レグルスも近付いて掲示板を見てみると、そこには新しい依頼書が貼られていた。
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緊急依頼
ベルグラード北部森林調査
最近ゴブリンの活動が活発化。
原因調査を行うこと。
報酬:一万ギル
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レグルスの目が細くなる。
間違いない、昨日の森だ。
「やっぱりね」
セレスがそっと呟く。
「ああ」
予感は当たった。
あの群れは異常だったのだ。
その時、背後から声が飛んだ。
「新人には関係ない依頼だな」
振り返って見ると、革鎧を着た中年の冒険者だった。
Dランクのプレートを首から下げている。
「調査依頼ですからね」
レグルスは答える。
「危険だから言ってるんだ」
中年の男は腕を組んだ。
「ゴブリンの数が増えてるだけじゃねぇ」
「何かいる」
周囲の冒険者たちも真剣な顔をしている。
レグルスは思い出した。
鈴の音と森の奥の気配。
確かに普通ではなかった。
その時だった。
「レグルスさん」
受付嬢が呼ぶ。
昨日の優しい女性だ。
「何か?」
「昨日の件ですが」
少し声を落とす。
「ギルドとしても異常事態と判断しました」
「やっぱり」
「ですが無理はしないでください」
心配そうな表情。
レグルスは頷いた。もちろん無茶をするつもりはない。
だが、確かめたい気持ちもある。
自分が感じた違和感の正体を。
そして、強くなりたい。その気持ちは本物だった。
「この依頼、受けます」
周囲が静まる。
受付嬢も驚いた顔をした。
「本気ですか?」
「はい」
「危険ですよ」
「分かっています」
それでも、行かなければ前へ進めない気がした。
しばらくの沈黙。
やがて受付嬢は小さくため息を吐いた。
「……分かりました」
依頼書へ判が押される、受理されたことからレグルスはベルグラード北部森林へ向かうことになった。
◇
昼過ぎ。
再びベルグラード北部森林へ足を踏み入れる。
森の中は木漏れ日が差し込み、周囲からは鳥の鳴き声が聞こえるため、一見すると平和。
だが違う。
気が重い。
何かがおかしい。
レグルスは腰に差している刀へ手を添えた。
『警戒推奨』
システムも反応している。
森の中をゆっくり進む。
そして。
チリン――。音が響いた。
レグルスは足を止める。
昨日聞いた音だ、間違いない、森の奥から聞こえてくる。
「また鈴の音ね」
セレスが低く呟く。
レグルスは頷いた。
今度は逃げない、確かめる何が起きているのか。
鈴の音の方向へ歩き出す。
一歩、また一歩。
そして木々が開けた先で、レグルスは目を見開いた。
そこには、ゴブリンたちが膝をつき。虚ろな目で、巨大な古木の根元にいる黒いローブを纏った人影を静かに見つめていた。
黒いローブを纏った人物のその手には銀色の鈴。
チリン――。
再び音が鳴る。
ゴブリンたちの目が一斉に赤く染まった。
レグルスは息を呑み、そして理解する。
森の異変には、確実に誰かが関わっている。




