第13話 初報酬
ベルグラードへ戻った頃には、空が赤く染まり始めていた。
レグルスは森を振り返ってみたが、結局、最後まであの違和感は消えなかった。
十一体ものゴブリン。
森の奥から聞こえた鈴の音。
そして一斉に引いていった群れ。
何かがおかしい、だが今は考えても答えは出ない。
「依頼報告が先だな」
そう呟き、街へ足を向けた。
◇
冒険者ギルド。
夕方ということもあり、ホールは賑わっていた。
依頼帰りの冒険者たちが酒を飲みながら騒いでいる。
レグルスは受付へ向かった。
「あ、お帰りなさい」
優しそうな受付嬢が微笑む。
「依頼の報告です」
討伐証明の耳を並べる。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ。
受付嬢が固まった。
「……七体?」
「はい」
「依頼書では二~三体でしたよね?」
「実際はもっといましたが」
周囲の冒険者たちも反応する。
「七体?」、「新人がか?」、「本当かよ」
ざわめきが広がる。
レグルスは肩を竦めた。
別に自慢するつもりはない。
ただ事実を話しているだけだ。
その時。
隣の受付席から声が飛んだ。
「少し失礼します」
黒髪の受付嬢だった。
以前、登録試験の時に厳しい目を向けてきた女性だ。
彼女は耳を確認して、しばらく無言で何かを考えている様子。
そして。
「……確かにゴブリンです」
周囲が静かになる。
彼女はレグルスへ視線を向けた。
「新人で七体討伐は珍しいですね」
前回ほど冷たい口調ではなかった。
ほんの少しだけど、評価が変わったのかもしれない。
「運が良かっただけです」
「運だけでは生き残れません」
短い言葉。
だが不思議と悪い気はしなかった。
報酬の銀貨を受け取る。
ジャラリ。
手の中で鳴る音が心地良い、初めて自分の力で稼いだ金だ。
「お疲れ様でした」
レグルスは軽く頭を下げた。
◇
ギルドを出る。
夕暮れの街は少し静かになっていた。
腹が減った。
そう思った時。
「ご飯にする?」
セレスが言った。
「そうだな、初報酬があるしな」
「そうね」
二人の意見は珍しく一致した。
向かった先はいつもの酒場で木製の扉を開く。
肉の焼ける匂いや香辛料の香り。
そして、笑い声。
レグルスは空いている席へ座った。
「エール一杯とおすすめを」
店員が「わかりました。」と頷いて去っていく。
やがて料理が運ばれてきた。
焼いた肉、黒パン、野菜の煮込み。
そしてエール。
レグルスはジョッキを持ち上げた。
「冒険者初日お疲れ様」
「誰に言っているんだ」
「私とあなたよ」
レグルスは苦笑した。
そして一口飲む、苦い。
だが悪くない。
「どう?」
「大人になった気分だな」
「単純ね」とセレスが笑う。
レグルスも笑った。
こうしていると普通の十六歳だ。
いろいろと考える事はあるが今はただ飯がうまい。
それだけだった。
◇
帰宅したのは夜になってからだった。
ベッドへ腰掛ける。
そしていつものように呟く。
「ステータス」
金色の光が浮かぶ。
契約者だけに見える世界。
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レグルス・クレハルト
黄道十二宮契約者
獅子宮適合者
レベル8
称号 【ネメアの獅子】
《獅子の誇り》
・身体最適化効率上昇
・恐怖耐性上昇
・威圧耐性上昇
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基本行為
切る Lv4
突く Lv1
叩く Lv1
弾く Lv1
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努力蓄積 12,841
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レグルスは満足そうに頷いた、確かに成長している。
少しずつ、だが確実に。
そして。
その下に見慣れない文字が追加されていた。
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派生技解放条件達成率 87%
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「……ん?」
レグルスは目を細めた。
昨日までは無かった項目だ。
「セレス」
「なに?」
「派生技って知ってるか?」
数秒の沈黙、嫌な予感がした。
「知っているわ」
「教えろ」
「嫌よ」
即答だった。
「なんでだよ」
「自分で知った方が面白いじゃない」
「絶対それ理由じゃないだろ」
セレスは楽しそうだった。
レグルスはため息を吐く。
だが怒る気にはなれない、どうせ近いうちに分かる。
そんな気がした。
窓の外を見る。
夜空には星が輝いていた。
その中の一つ、獅子座の一等星。
レグルスの名を持つ星が、静かに瞬いていた。
そして同じ頃。
ベルグラード近郊の森の奥深く。
誰も知らない場所で。
チリン――。
再び鈴の音が鳴る、闇の中で何かが動き始めていた。




