第12話 群れ
森の奥,木々の隙間から無数の黄色い瞳が覗いていた。
『推定個体数 十一』
システムの表示が淡く浮かぶ、レグルスは思わず息を吐き
「新人向け依頼じゃないだろ……」
と小さく呟く。
「同感ね」
セレスの声も珍しく真面目だった。
通常のゴブリンは群れを作るが、だがベルグラード周辺にここまで集まることは少ない。
だからこそ依頼になっているのだ。
「帰るの?」
「今さらか?」
「冗談よ」
レグルスは刀を握り直し
逃げるつもりはない、無謀と勇気は違う、だが今の自分なら戦える。
そう思えた。
――ギャアアアア!
先頭のゴブリンが飛び出し、それを合図に群れが動いた。
左右から挟み込むように迫ってくる。
地下遺跡で戦った時とは違う、連携らしい動きだった。
「おかしいな……」
レグルスは低く呟く。
普通のゴブリンにしては統率が取れすぎている。
だが考える暇はない。
一体目が迫る。
刀を抜く、踏み込む、振る、斬る。
一連の動作が自然に繋がる。
ゴブリンが地面へ倒れた。
『基本行為:切る』
『熟練度上昇』
表示が流れる、だが次が来る。
二体、三体、四体。
「っ!」
レグルスは後ろへ跳び、木の幹を利用して包囲を避ける。
数が多い、まともに囲まれれば終わりだ。
『推奨行動』
『各個撃破』
「分かってる!」
システムへ返事をしながら走る。
ゴブリンの群れを横切る、追いかけてくる。
その瞬間。
レグルスは振り返った。
振り抜く、一閃。
二体が同時に倒れる。
「今のは……」
自分でも驚いた。
以前より斬撃が鋭い。
以前より無駄が少ない。
身体能力は劇的に変わっていない。
それでも。
確実に強くなっている。
努力が積み重なっている、その実感があった。
『切る』
『熟練度到達』
『レベル上昇』
レグルスの視界に光が走る。
【切る Lv4】
表示が変わった。
その瞬間だった。
頭の中へ情報が流れ込む。
刀の軌道。
踏み込み。
力の乗せ方。
知らないはずなのに理解できる。
「これが……」
レベルアップ。
ただ数字が増えただけではない。
技術そのものが洗練されていく。
そんな感覚だった。
「面白いな」
思わず笑う。
強くなっている。
確かに、少しずつだが前へ進んでいる。
残るゴブリンは五体。
その時だった。
ゴブリンたちが突然足を止めた。
「……?」
様子がおかしい。
全員が同じ方向を向いている。
森の奥、さらに深い場所。
そして、聞こえた、鈴のような音。
チリン。
小さな音。
だが不思議と耳に残る。
次の瞬間
ゴブリンたちが一斉に動き出した。
だが、レグルスへ向かってではない。
森の奥へ。
逃げるように、呼ばれるように。
「なんだ?」
レグルスは呆然と立ち尽くした。
敵が消えていく、戦いが終わった。
だが違和感だけが残る。
セレスも黙っていた。
そして珍しく先に口を開く。
「追うな」
「理由は?」
「嫌な予感がするわ」
その声は本気だった、いつもの軽口ではない。
レグルスは森の奥を凝視する。
暗い、深い。
何かがいる、そんな気がした。
だが今は依頼中だ。
冒険者になったばかりで無理をする必要はない。
「帰るか」
「それがいいわ」
レグルスは討伐証明であるゴブリンの耳を回収して少し安堵する。
依頼達成だ。
本来なら喜ぶべきだろう。
だが。
胸の奥に小さな引っ掛かりが残っていた。
あの鈴の音。
統率されたゴブリンたち。
そして森の奥の気配。
何かが起きている。
そんな予感が消えない。
夕日に染まる森を背に、レグルスはベルグラードへの帰路についた。




