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星すら斬るまで、俺は振り続ける  作者: ゆ
第九章 始まりの街、再び響く鈴
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第122話 獅子の騎士、途切れぬ連撃

 刃が噛み合った瞬間、獅心の切っ先が沈んだ。

 重い。

 握りを締め、受けた刀を斜めに傾ける。

 騎士の剣を横へ逃がそうとしたところで、その刃が獅心に沿って滑った。

 鍔の近くへ、重みが寄る。

 押さえ込まれた刀の向こうから、左の手甲が伸びてきた。


 爪の先が、目を狙っている。

 柄から左手を離した。

 手甲の内側へ掌を添え、顔をずらしながら押し流す。

 金属の指が耳の横を抜けた。

 その下で、騎士の膝が上がっていた。


「っ!」

 腰を引く。

 腹を掠めた膝の装甲が、服を擦り上げた。

 辛うじて外した。


 だが、こちらの重さが後ろ足へ乗ったところに、騎士の足が下りてくる。

 俺の前足の、すぐそばへ。

 退く場所まで踏み込まれていた。

 押さえられていた刀が、不意に軽くなる。


 剣を引いた騎士の肩が動いた。

 横薙ぎ。

 膝を曲げ、身を沈める。頭上を抜けた剣に髪が煽られた。


 低い位置から刀を返す。

 狙うのは、腕を振り抜いた後の脇だった。

 獅心が届く直前、左の手甲が下りてきた。

 刃を横から叩かれる。

 切っ先が浮く。

 その隙間へ、騎士の肩が入った。


「ぐっ……!」


 胸の奥まで衝撃が響いた。

 息が押し出され、靴底が石を擦る。

 二歩下がった。

 三歩目を置くより先に、剣先が喉へ迫る。

 獅心を身体の前へ戻し、突きを外へ逸らした。

 頬の横を刃が抜ける。

 冷たさの後に、細い痛みが走った。


 騎士は追い足を止めた。

 剣を正面へ戻し、左の手甲を胸の前に置く。

 たてがみを模した装甲が、一枚ずつ静かに収まった。


「……忙しいな、お前」

 声を出すと、胸が痛んだ。

 呼吸を確かめながら、刀を構える。


 剣を受ければ拳が来る。

 拳を外せば膝が入る。

 どれも外したと思ったところへ、身体ごと押し込んでくる。

 その間も、右手の剣が止まっていない。

 俺は前足の位置を変えた。

 騎士の膝に、僅かな動きが見える。

 次の瞬間には、もう距離が縮まっていた。


     ◇


 今度は、正面で受け止めなかった。

 振り下ろされる剣へ刀を斜めに添え、左へ足を運ぶ。

 刃を滑らせながら、相手の右腕の外へ出た。

 その腕へ斬り返す。

 騎士が肘を引いた。

 刀は空を切る。すぐに刃を返し、胸へ突き込んだ。

 金属の胸甲が半身になる。

 切っ先が表面を擦り、短い火花を引いた。


 剣が、上から戻ってくる。

 刀を引き、受ける。

 押し合う前に手首を返し、騎士の剣先を下へ流した。

 意識の端に、文字が浮かんだ。


 《刀技流転》――レベル上昇。


 それを確かめる間もなく、左の手甲が来る。

 半歩退き、爪の先を外した。

 戻る手首へ、刀を走らせる。

 剣に止められた。硬い音が響く。

 また、文字が浮かんだ。


 《刀技流転》――レベル上昇。


 刀を合わせるたびに、返し方が分かってくる。

 先ほどは、弾かれた刀を一度引き戻していた。

 今は、押された方向へ切っ先を逃がし、そのまま次の刃筋へ乗せられる。


 上から受ける。斜めに流し、下から返す。

 騎士が剣の腹で止めた。

 そこから刃を離し、首へ向ける。

 兜が引かれ、たてがみの端が欠けた。

 初めて、破片が落ちた。


 俺は追った。振り上げた刀を、肩口へ落とす。

 騎士の剣が迎えた。


 浅い。

 そう思った瞬間、支えが消えた。

 受けた剣を引かれ、俺の刀が前へ流れる。

 空いた左の拳が、胸へ迫っていた。


 柄から左手を離す。

 前腕を合わせると、骨に響く衝撃が来た。

 肘を固めず、曲げて逃がす。そのまま手甲の横を滑らせ、騎士の肘を外へ押した。


 身体が開く。左足を踏み込み、掌を胸甲へ打ち込んだ。

 鈍い音が響いた。

 騎士の上体が僅かに揺れる。


 その腰が回った。

 横から、蹴りが来る。

 脚を持ち上げて合わせた。

 脛に硬いものがぶつかり、痛みが膝まで抜けた。


 《命脈闘法》――レベル上昇。


 足を下ろす。

 すぐに、もう一度踏み込む。

 剣を右手で相手の刃へ当て、左の拳を返した。

 騎士の手甲が受ける。

 拳を引ききる前に掌を開き、手首を押さえた。

 その下へ、蹴りを入れる。

 騎士が脚を引き、膝の装甲で受け止めた。


 再び、《命脈闘法》が上がった。


 受けた衝撃の逃がし方が変わる。

 腕だけで堪えると肩に残っていた力が、腰を通り、足へ抜けていく。

 押せる。

 掌を胸へ届かせた。

 踏み込みと同時に打ち込むと、騎士の足が一歩下がった。


 そこで、両手を柄へ戻した。

 刀を振ろうとしたところへ騎士の剣が、肩口へ落ちてきた。


「くっ!」

 身を捻る。

 刃が袖を裂き、右の上腕を掠めた。

 熱いものが、肘へ流れる。

 退きながら獅心を戻し、追撃を弾いた。

 騎士の剣先が外れたところで、ようやく間合いが開く。


 腕は動く。傷は深くない。

 それでも、斬られた理由は分かった。

 掌を打ち込んだ後に、刀を振るための姿勢へ戻ろうとした。

 その間、攻撃が途切れていた。

 騎士の構えには、そんな間がなかった。


     ◇


 剣の縁に、赤い光が灯り、炎が刀身を包む。

 騎士が踏み込むと、熱を帯びた風が頬へ届いた。

 獅心へ水を通す。青く揺れる刃で、炎の剣を受けた。

 白い蒸気が弾けた。顔へ熱が押し寄せる。

 目を細めながら足をずらすと、白の中に黄色い光が見えた。


 手甲だ。

 土の魔力を帯びた拳が、蒸気を突き破ってくる。

 左腕へ魔力を寄せ、衝撃に備え、足を開いた。

 拳がぶつかった。

 靴底の下で、石が鳴る。

 押し負けずに受けた、その横を青い光が滑った。

 騎士の胴だった。

 手甲でこちらの腕を押したまま、身体を半身にして脇へ入ってくる。


 刀を返した。刃先が、水をまとった装甲を浅く擦る。

 手応えが逃げた。肩が回りすぎた。

 脇腹へ、金属の足が突き刺さった。


「がっ……!」

 身体が横へ飛ばされる。

 踏ん張った足が滑り、片膝が床を打った。


 顔を上げた時には、騎士が剣を振りかぶっていた。

 緑の光。

 横へ転がる。

 風の刃が、すぐ脇の床を裂いた。飛び散った石片が背中を叩く。

 左手をつき、起き上がった。

 獅心を構えるより先に、騎士の足音が迫る。

 斬り下ろしを外へ逃がす。

 続く手甲を避ける。

 脇腹が痛んだ。

 浅くなった呼吸に合わせて、魔力の流れまで乱れる。


『レグルス、息を吐いて』

 セレスの声がした。


 唇を開き、胸に残った息を押し出す。吸い直すと、痛む場所がはっきりした。

 動ける。

 ただ、息を止めて受けてはいけない。


 剣が来た。

 水を刃へ。拳を受ける腕には土を。

 切り替えた直後、脚が僅かに遅れた。


 まただ。

 刀へ寄せた魔力を、腕へ引き戻している。

 腕に集めれば、その次の脚へ届くまで間ができる。

 騎士の足元が緑に光る。

 俺の周りを回り、剣を振り込んできた。

 足りないところへ、慌てて継ぎ足している。


 斬撃を弾きながら、体内へ意識を向けた。

 巡らせろ。止めるな。

 脚から腰へ。背を通り、肩から腕へ。

 その先も、途切れさせない。


 大きくなった循環の中から、刀へ魔力を通した。

 刃が鳴る。

 流れを残したまま、左腕へ。拳を受け、肘を押す。

 次に脚へ送った時、今度は動いた。

 騎士の前足の外へ、自分の足が入った。


     ◇


 その一歩を、急いで戻さなかった。

 左の掌で騎士の肘を押しながら、腰を運ぶ。

 身体を開かされた騎士が、右手の剣を戻してくる。

 剣先がこちらを向く前に、右手の獅心を横へ通した。

 刃が胸甲を削った。

 深くはない。

 それでも、今度は掌打の後に止まらず斬れた。


 騎士の左足が動く。

 蹴り。

 膝を上げ、脚を合わせる。

 衝撃を受けた足を、斜め前へ下ろした。


 《命脈闘法》――レベル上昇。


 その足へ、身体の重さを移す。

 騎士の剣が肩の横を抜けた。刀を返し、脇へ斬り込む。


 《刀技流転》――レベル上昇。


 刃を止めた手甲から火花が散る。

 剣と刀。拳と腕。脚と脚。

 ぶつかるたび、通知が意識の端を掠めた。

 文字はすぐに消えたが、次の動きには感覚が残った。


 さっきより、近くで刀を返せる。

 受けた後に、腕が固まらない。

 足を下ろしたところから、もう踏み込める。


 騎士が突いてきた。

 刀を添えて外へ流す。

 左の拳が来る。

 肩をずらす。

 爪が服を掠める、その内側へ肘を入れた。

 伸びた腕を押し上げ、短く踏む。


「《獅子琉掌》!」

 青い水を帯びた掌が、胸甲へ密着した。


 打ち込む。

 装甲の奥で、鈍い音が鳴った。

 騎士の背が僅かに反り、たてがみの板が打ち合う。


 俺は、その場に留まらなかった。

 剣を持つ右腕が動く。

 切っ先の通る場所から足を外し、相手の脇へ抜ける。

 左手を柄へ戻す。

 戻しながら、振る。

 獅心が胸甲へ食い込んだ。金属が裂け、破片が飛んだ。

 騎士の足が石を擦る。今までで、一番深い。

 口元が緩みかけた。


 金色の目が動く。

 俺は息を吐き、踏み込みすぎた前足から重さを戻した。

 膝を狙った蹴りが、靴の先を掠めて抜ける。


 まだ来る。

 獅心を返す。

 騎士の剣が、それを迎えた。

 激しく噛み合った刃の向こうで、割れた胸甲が見えた。


 届くようになった。

 だが、騎士の右腕は少しも下がらない。

 左の手甲が、俺の刀の横へ添えられる。

 押し返された。

 俺は足を運び、刀を逃がした。

 追ってきた剣へ、もう一度、刃を合わせる。


 さっきまでとは違う。

 足を置く場所が見える。

 次に斬るための身体が、そこにある。


「……もう少し、付き合ってもらうぞ」


 騎士が剣を引いた。俺も、前へ出た。

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