↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星すら斬るまで、俺は振り続ける  作者: ゆ
幕間 勇者、己が剣を求めて
PR
120/163

外伝 第8話 勇者、戦列に立つ

 地上へ降りた途端、湿った風が頬を打った。


 水運都市フルーヴィア。

 貨物集積地の西側には大きな川が流れ、石造りの岸壁へ何隻もの運搬船が横づけされている。

 船と倉庫の間には荷車が並び、その先で幾筋もの魔導列車線が分かれていた。


 積み上げられた木箱。

 放置された穀物袋。

 荷を吊り上げたまま止まった魔導機械。

 つい先ほどまで大勢の人々が働いていた場所へ、魔物の咆哮が響いていた。


「騎士団長殿!」

 駐留騎士団の一人が駆け寄ってきた。

 兜の下から覗く顔には、汗が浮かんでいる。


「現在、第一隊が北側の線路沿いで交戦中。第二隊は倉庫群と河岸の避難を誘導しております!」


「船は出せるか」


「積み荷を下ろせば、すぐにでも」


「荷はそのままでいい。乗せられる人数だけ乗せて、下流へ離れさせろ。陸路の避難は南側の橋へ集めるな。東の街道と分けろ」


「承知しました!」


「上空への警戒を切らすな。飛び越えた敵は後列の魔術師が落とせ。前列は追うな」


 ブラノールが歩き出す。

 腰の少し上へ斜めに佩いていた長剣を抜くと、周囲の騎士たちが道を開けた。


「ここからは俺が指揮を執る。各隊長へ伝えろ」


「はっ!」


 返事をした騎士が、私へ視線を向けた。

 一瞬だけ目を見開く。


「勇者様も……」


「セフィリアは避難の援護に入る。東側の倉庫へ案内をつけろ」


 その言葉に、若い騎士が進み出た。


「私がご案内します!」


「お願いします」


 そう答えた直後、頭上を黒い影が横切った。

 翼のある魔物だった。

 鋭い爪を前へ突き出し、倉庫の屋根すれすれを飛んでいく。


 その姿を見た瞬間、足が止まった。

 黒い翼。裂けた口。

 人に似ていながら、人とは決定的に違う身体。

 忘れようとしても忘れられなかった姿が、すぐ近くにある。


「弓隊、右上!」

 誰かが叫ぶ。

 放たれた矢の一本が翼を貫き、魔物が屋根へ激突した。


 瓦が砕ける。

 それでも魔物は止まらず、屋根へ爪を立てて起き上がった。

 喉の奥が狭くなった。


「セフィリア。息を吐け」

 団長の声が届いた。


 私は浅く息を吐いた。


「もう一度だ」


 今度は、少し長く。

 握り締めていた剣の柄が、手の中で僅かに動く。


「お前の持ち場へ行け」


「……はい、団長」


 ブラノールが北側へ走る。

 私は若い騎士の後を追い、倉庫の間へ入った。


          ◇


「こちらです!」


 倉庫の裏手には、まだ十数人の作業員が残っていた。

 二人がかりで負傷者を支えている者もいれば、腰を抜かして動けなくなった者もいる。

 若い騎士が、近くの作業員へ負傷者を託した。


「東の街道へ! 白い旗のある場所に救護班がいます!」


「分かった!」


 人々が動き出す。

 私は列の最後尾へ回り、倉庫の角から北側を窺った。

 線路の向こうで、騎士たちの盾が並んでいる。

 その上を、魔法の光が飛び交っていた。


「勇者様、こちらも移動を――」

 若い騎士の声が途切れた。


 頭上で瓦が鳴った。

 見上げるより先に、黒い影が落ちてくる。


「下がってください!」


 私は前へ出た。

 石畳へ降り立った魔物が、翼を広げる。

 先ほど矢を受けた個体だった。

 片方の翼には穴が開き、折れた矢柄が突き出している。

 赤い目が、私の剣を捉えた。


 魔力を流す。

 白金色の光が刀身を包んだ。

 眩しさに魔物が顔を歪める。

 私は右足を踏み込んだ。


「はっ!」


 正面から斬り下ろす。

 魔物が両腕を交差させた。

 刃が硬い爪へ食い込み、腕に衝撃が返ってくる。

 止められた。もっと力を。


 そう考えかけた時、訓練場で聞いた団長の声が頭を過ぎった。

 一撃目の後には、二撃目がある。

 押し込もうとしていた力を抜く。

 刃を相手の腕に沿わせて流し、身体の横へ落とした。

 魔物の爪が、私の顔へ伸びる。

 左足を運ぶ。

 下から返した剣が、伸ばされた腕を肘の下から斬り飛ばした。


 悲鳴が上がる。

 そこで止めない。

 腰を回す。足裏で石畳を押し、横薙ぎへつなげる。

 白金色の刃が、魔物の首を通り抜けた。

 黒い身体が崩れた。

 私は剣を引き戻した。


 息が荒い。

 倒せた。

 そう思った直後、倉庫の奥で何かが動いた。


 もう一体。


「左から来ます!」


「見えています!」


 今度は、すぐに身体を向けられた。

 魔物が飛びかかってくる。

 私は一歩退き、振り下ろされた爪を剣で外へ逸らした。

 横から若い騎士の槍が伸びる。

 穂先が魔物の脇腹を貫いた。


「今です!」


 私は剣を振り下ろした。

 魔物が石畳へ倒れ、動かなくなる。

 刀身の光を消す。

 静かになったわけではない。

 離れた場所では、まだ剣戟も咆哮も続いている。

 それでも、私たちの前を塞ぐものはいなくなっていた。


「ありがとうございます」


 若い騎士が槍を引き抜いた。


「こちらこそ、助かりました」


 振り返る。

 作業員たちは、倉庫の向こうへ抜けようとしていた。

 誰も倒れていない。

 私はもう一度、周囲を見た。


「行きましょう」


「はい!」


 走りながら、剣を握る指へ力を入れ直す。

 まだ怖かった。

 爪が顔へ迫った瞬間には、身体が固まりそうになった。

 けれど、剣は次へ動いた。

 毎朝繰り返した動きが、私を立たせてくれていた。


          ◇


 倉庫群の東側まで避難の列を送り届けた頃には、背中が汗で濡れていた。

 《極光》を使っていた時間は、それほど長くない。

 それでも、身体の奥から魔力が減っている感覚がある。

 弱く流そうとしても、光は思った以上に強くなる。

 剣を振ることに意識を向ければ、今度は流す量が分からなくなった。


「勇者様、少しお休みを」


「まだ大丈夫です。ほかに残っている方は?」


「河岸の確認が終わっていません。今、別の班が――」


「誰か! こっちだ!」


 倉庫の反対側から声がした。

 若い騎士と顔を見合わせ、角を曲がる。

 川へ続く荷運び用の通路で、一台の荷車が横倒しになっていた。

 その脇に、年配の作業員が座り込んでいる。

 右脚が車輪と石段の間に挟まれていた。


「動かせますか!」


「二人で持ち上げれば……!」


 若い騎士が荷車へ手をかける。

 私も剣を鞘へ収め、反対側を持った。


「せーの!」


 荷車が僅かに浮く。

 作業員が脚を引き抜き、通路へ転がった。


「ありがとう、助かっ――」

 その顔が強張った。

 川側の低い屋根から、魔物が跳んだ。

 私は荷車から手を離し、剣を抜く。

 光を纏わせる時間はなかった。

 作業員の前へ入る。

 右足を踏み込もうとして、爪先に荷車の縁が触れた。

 いつもの幅では踏み込めない。

 足を近くへ置く。

 身体を横へ向けながら、剣を斜めに立てた。

 爪が刃の上を滑り、重い衝撃が肩を抜ける。


 私はそのまま小さく回り、魔物の横へ出た。

 剣を返す。

 無防備な首筋へ、刃が深く入った。

 魔物が暴れた。

 抜こうとした剣が骨へ引っかかり、手首を持っていかれそうになる。


「押さえます!」

 若い騎士の槍が、魔物を横から石壁へ縫い止めた。


 私は両手で柄を引き、ようやく剣を抜いた。

 血が石畳へ散る。

 息を吐くと、右脚の奥が鈍く痛んだ。


「勇者様!」


「脚が、少し痛みました。歩くことはできます」


 隠さずに答えた。

 若い騎士が頷き、作業員へ肩を貸す。


「ここは私が。向こうの隊と合流してください」


「お願いします」


 作業員が何度も頭を下げながら離れていく。

 私はその背中を見送り、剣先を下げた。

 今の動きは、訓練場とは違っていた。

 踏み込みも浅かった。

 それなのに、爪を受け流した時だけは、不思議なくらい身体が軽かった。


「セフィリア」

 声に振り向く。


 北側の通路から、ブラノールが歩いてきていた。

 長剣の先から、黒い血が落ちている。


「避難は」


「東側の倉庫は終わりました。今の方が、こちらに残っていた最後の一人だと思います」


「河岸も確認が取れた。北の荷役場を残して、退避は済んでいる」


 団長が私の足元を見た。


「脚は」


「今、少し痛みました」


「後列へ入れ。走って追うな」


「はい」


 私は頷き、団長の後について通路を抜けた。

 視界が開く。

 北の荷役場では、魔物の群れが騎士たちの盾へ押し寄せていた。

 その向こうに、亀裂がある。

 到着した時よりも、さらに大きい。

 下端は地面のすぐ上まで伸び、赤黒い景色が倉庫の壁と重なって見えた。


 騎士たちの魔法が飛ぶ。

 炎の塊が魔物を焼き、続く風の刃が翼を裂いた。

 そのうちの一本が、亀裂の縁へ触れた。


 消えた。

 弾かれたわけではなかった。

 黒い縁に触れた部分から、風の刃が欠け落ちた。

 残った光も、そのまま跡形なく失われる。


「今のは……」

 呟いた時、地面が揺れた。


          ◇


 亀裂の奥から、巨大な頭が現れた。

 平たく潰れた顔。

 顎の左右から突き出す牙。

 目は小さく、厚い骨の下で赤く光っている。

 続いて、前脚がこちらの地面へ降りた。

 石畳が砕けた。


「大型!」

 騎士の声が響く。


 魔物が、亀裂から身体を引き抜いた。

 四本の脚で立つ身体は、荷車を何台も並べたほど大きい。

 背中には黒い甲殻が幾重にも重なり、肩から生えた突起が貨物用の標識を折った。

 近くにいた翼の魔物が踏み潰される。

 巨大な顎が開き、唾液が糸を引いた。


「前列、下がれ!」

 ブラノールが命じた。


 騎士たちが盾を構えたまま退く。

 後列から炎の槍が飛んだ。

 甲殻へ突き刺さり、爆ぜる。

 煙の中から現れた巨体には、焦げた跡が残っているだけだった。

 魔物が頭を下げた。

 四本の脚が石畳を掻く。

 突進してくる。


「中央を空けろ! 左右へ退避!」


 ブラノールが前へ出た。

 私は近くの騎士とともに、倉庫の脇へ退いた。

 荷役場の中央に、ブラノールだけが残る。

 その先では、巨大な魔物が石畳を踏み砕きながら迫っていた。

 団長の眼帯の奥へ、力が集まっていくのを感じた。

 肌が粟立つ。

 私は思わず、息を止めた。


 ブラノールが長剣を構える。

 刀身へ集まった魔力が、刃に沿って濃く輝いた。

 構えにも、足の運びにも、淀みがない。

 あれほどの巨体が迫っているのに、団長は少しも急いでいるように見えなかった。


 魔物が顎を開く。

 長剣が頭上へ上がった。


「《初断・竜閃》」


 踏み込みとともに、剣が振り下ろされた。

 鋭い光が、荷役場を一直線に走る。

 魔物の額が裂けた。

 分厚い甲殻を断ち、斬撃が背中まで通り抜ける。

 その下で、石畳が乾いた音を立てて割れた。

 剣の軌跡に沿って砂煙が上がる。

 巨体はなお一歩進もうとして、左右へ崩れ落ちた。

 重い音が地面を伝い、足裏を震わせる。


 吹きつけた風に、私は目を細めた。

 砂煙が薄れていく。

 魔物の下には、深い斬り跡が一本、真っ直ぐに延びていた。

 その縁では石が欠け、ところどころに短い亀裂が走っている。

 ブラノールはすでに剣を引き戻し、亀裂から現れる次の敵へ顔を向けていた。


「前列を戻せ。残りを落とすぞ」


「はっ!」


 騎士たちが動き出した。

 私は、まだ団長の剣から目を離せずにいた。

 あの巨体を、一撃で。

 剣を上げ、踏み込み、振り下ろす。

 毎朝、私も繰り返している動きだった。

 けれど、団長の剣は、構えた瞬間から振り終えるまで一つにつながっていた。

 どこにも迷いがない。

 あの硬い甲殻へ触れても、刃は進む方向を変えなかった。

 私も、いつかあのように振れるのだろうか。

 柄を握る自分の手へ、僅かに力が入った。


「勇者様、後列はこちらへ!」


 呼ばれ、私は足を動かした。

 今の自分にも、することがある。

 負傷して退いてきた騎士へ肩を貸し、倉庫の陰まで運ぶ。

 戻る途中で、もう一度亀裂を見た。

 巨大な魔物は倒れた。

 翼のある魔物も、その数を減らしている。

 けれど、黒い裂け目は閉じていなかった。


          ◇


「亀裂、拡大しています!」


 報告を受け、ブラノールが顔を向けた。

 黒い縁が波打っている。

 その向こうでは、まだ無数の影が動いていた。


「また出てくるぞ!」


「負傷者を先に下げろ。防衛線を南へ移す」


 騎士たちが互いに声をかけ、退き始める。

 私は盾を持つ騎士の後ろで、北側を見ていた。

 リュミエールでは、戦いが終わった後に亀裂も消えていた。


 けれど、目の前にあるものは違う。

 縁を覆う黒いものが、何度も膨らんでいる。

 裂け目を、内側から押し広げているように見えた。

 剣を握る手が、熱くなった。


「……え?」


 まだ魔力は流していない。

 それなのに、指先へ小さな疼きがある。

 視線を落とす。

 刀身は、普段の鋼の色をしていた。


「後列、下がれ!」

 声に顔を上げた。


 亀裂の下端が、こちらへ伸びていた。

 空中を裂く黒い線が、石畳すれすれを走る。

 その進路に、折れた貨物用の支柱があった。

 黒い線が触れる。

 支柱の中央が消えた。

 切断面さえ見えなかった。

 支えを失った上半分が傾き、音を立てて落ちる。


「近づくな!」

 ブラノールが叫ぶ。


 騎士たちが退く。

 私の前にいた盾持ちの騎士が、足元の枕木につまずいた。

 膝が地面へ落ちる。

 黒い線が、その背へ近づいていた。

 私は騎士の襟元を掴んだ。


「こちらへ!」

 後ろへ引く。


 右脚に痛みが走った。

 踏ん張り切れず、二人でよろめく。

 間に合わない。

 私は剣を差し出した。

 白金色の光が、刀身を覆った。

 光が、黒い線へ触れた。

 手の中で、剣が震えた。

 斬った時の感触はなかった。

 重いものを押し返すような抵抗が、腕から肩へ伝わってくる。

 私は歯を食いしばった。

 黒い線が止まった。

 その先端が、僅かに縮む。

 白金色の光に触れている部分から、黒いものが剥がれるように消えていった。


「セフィリア!」


 団長が私の肩を掴み、後ろへ引いた。

 剣が黒い線から離れる。

 私は騎士とともに、数歩分退いた。


「怪我は」


「ありません……!」

 盾持ちの騎士が答える。


 団長が私を見た。

 私は頷こうとして、亀裂を見たまま止まった。

 黒い線があった場所に、向こうの荷役場が見えている。

 歪んだ赤黒い景色が消え、石畳と倒れた支柱が、普通に続いていた。


「今、閉じました」

 自分の声が、妙にはっきり聞こえた。


「光が触れたところだけ……」


「ああ。見た」


 ブラノールも、同じ場所を見ていた。

 私の剣ではなかった。

 剣を覆っていた、《極光》。

 あの黒いものへ触れた時、確かに押し返した。

 亀裂が伸びてくるのを止め、その一部を元へ戻した。

 私は刀身へ目を落とした。

 白金色の光は、まだ揺れている。

 この力に名前があると知った時のことを思い出した。

 誰かに教えられたわけではなかった。

 頭の中へ、《極光》という言葉が浮かんだ。

 今も、それに似ていた。

 なぜできるのかは分からない。

 どうして、この光だけが届くのかも。

 けれど、触れた瞬間に感じたものは、まだ手の中へ残っていた。


「団長」


「何だ」


「私なら、閉じられるかもしれません」


 口にすると、胸が強く脈打った。

 大きな亀裂を見上げる。

 今、消えた部分など、全体からすればほんの僅かだった。

 あれをすべて閉じる。

 考えただけで、剣を握る手が強張る。


「今ので、どれほど使った」


 団長の問いに、私は身体の奥へ意識を向けた。


「魔物を斬った時より、多く……。ですが、まだ使えます」


「全部閉じるまで持つか」


「分かりません」


 その言葉だけは、誤魔化せなかった。

 アリシアの顔が浮かぶ。

 分からないものを、分かったつもりで教えることはできない。

 私は剣先を下げ、光を消した。


「でも、今のように少しずつなら、確かめられます」


 団長は黙って私を見た。

 その間にも、亀裂の奥から新たな翼が現れる。

 後列の魔術師が放った炎に包まれ、地面へ落ちた。

 次の影が、その後ろに続いている。


「無理だと判断したら退く。俺が止めた時もだ」


「はい」


「これ以上、魔物に力を使うな。剣は亀裂へ向けるために残しておけ」


 ブラノールが振り返った。


「各隊、聞け!」

 よく通る声が、荷役場へ響いた。


「勇者の力で、亀裂の一部が消えた。これより接近し、閉鎖を試みる!」


 近くにいた騎士たちが、私を見る。

 私は剣を握り直した。


「中央は俺が開く。左右の敵を押さえろ。後列は上空を警戒。退路を必ず残せ!」


「承知しました!」


 盾が並ぶ。

 槍が前へ向けられる。

 先ほど倉庫でともに戦った若い騎士が、私の隣へ戻ってきた。


「避難は済みました。こちらにつきます」


「ありがとうございます」


「足元は私が見ます。勇者様は、前を」


 私は頷いた。

 ブラノールが先頭へ立つ。

 その向こうで、黒い亀裂が大きく脈打った。

 赤黒い景色の奥に、何かがいる。

 翼のある魔物たちが、左右へ離れた。

 開いた隙間を、一つの影が歩いてくる。


 二本の脚。

 真っ直ぐに伸びた背筋。

 その歩き方を見た瞬間、喉が冷たくなった。

 ブラノールの長剣が、僅かに上がる。


「手を止めるな、セフィリア」

 団長の声が、私へ届いた。


「あれは俺が受け持つ」


 私は息を吐いた。

 剣へ、白金色の光を灯す。


「はい、団長」


 騎士たちと足を揃え、私は亀裂へ向かって進み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。