第103話 黄金の環
母を包む魔力が、銀白色の光となって揺らめいている。
一度脈打つたびに空気が震え、足元から細かな砂が浮き上がった。
先ほどまでとは、魔力の密度がまるで違う。
今のままでは、一撃も受け止められない。
『レグルス』
「ああ。分かっている」
普段から全身へ巡らせている少量の魔力へ意識を向ける。
中心から胸へ。肩から腕へ。腰を通り、両脚へ。
絶えず円を描いている魔力へ、さらに多くの魔力を加えていく。
最初に反応したのは、風だった。
緑色の魔力波が足元から噴き上がり、全身を駆け巡る。
次いで、赤。
火の魔力波が緑を追いかけるように重なり、身体の内側へ熱が満ちていく。
青い水の魔力波が二つの流れを包み込み、黄色い土の魔力波が足元から全身を支える。
風。火。水。土。
四属性の魔力波が、身体の中心を巡る白い無属性魔力へ集まっていく。
別々だった色が重なり、一つの光へ変わる。
「――魔力強化《環》」
体内を巡っていた魔力が、全身から一気に噴き上がった。
白い無属性魔力を芯にした、淡い黄金色の魔力波。
光の柱となって立ち上った魔力が大気を震わせ、足元の土を円形に吹き飛ばす。
砂が舞う。
小石が浮き上がる。
次の瞬間、爆発するような風圧に弾かれ、稽古場の外まで飛んでいった。
黄金の魔力波と、母を包む銀白色の魔力がぶつかり合う。
二つの圧力が衝突した稽古場の中央で、地面に亀裂が走った。
父の目がわずかに見開かれた。
舞い上がる砂と小石を片腕で払いながらも、その場からは一歩も動かない。
「これが、レグルスの全力なのか?」
「まだ力を解放しただけだ」
祖父は縁側へ座ったまま、静かに答えた。
風に煽られているはずなのに、祖父の衣服はわずかにも揺れていない。
茶器の水面にも、波紋一つ生まれていなかった。
「父上。ずいぶん落ち着いておられますが、このまま続けさせるのですか?」
「続けるために力を出したのだろう」
「それは、そうですが……」
父たちの声が意識の外へ遠ざかる。
俺の意識は、正面に立つ母だけへ向いていた。
母の目が、黄金色の魔力波を映している。
驚いている。
だが、それ以上に楽しそうだった。
「綺麗な魔力ね」
「見た目ほど、穏やかなものではありません」
「そのようね」
母が腰を落とす。
「それでは、確かめましょうか」
母の姿が消えた。
踏み込んだ足元で土が爆発し、銀白色の軌跡だけが残る。
『前よ!』
反応するより早く、母が懐へ入っていた。
開いた右手が、俺の胸へ迫る。
避けられない。
《環》の内側で、土の魔力を前面へ押し出す。
「――《堅》!」
黄色の光が黄金の魔力波の内側で瞬き、胸から腹部にかけて魔力の防壁を作る。
母の掌底が胸へ触れた。
銀白色の魔力が、一点へ収束する。
「剛勁」
爆発した。
身体の正面から巨大な槌で殴られたような衝撃が突き抜ける。
足が地面から離れ、俺の身体が後方へ吹き飛ばされた。
空中で体勢を整え、両足から着地する。
それでも勢いを殺し切れない。
地面を削りながら後退し、十歩以上離れたところでようやく止まった。
「《堅》で受けて、これか」
『来るわ!』
顔を上げる。
母はすでに目の前にいた。
右の掌底。左の肘。脇腹を狙う蹴り。
すべての攻撃に、圧縮された銀白の魔力が乗っている。
腕で受ければ、骨まで響く。
一撃ごとに空気が弾け、周囲へ衝撃が広がった。
ただ防いでいるだけでは押し切られる。
風の魔力を両腕と両脚へ巡らせる。
「獅爪疾脚!」
拳を弾く。
続く肘を掌で逸らし、足元へ放たれた蹴りを自分の脚で受け流す。
緑色の魔力が四肢を駆け抜け、黄金の魔力波の中へ無数の軌跡を残した。
右拳を放つ。
母が手のひらを添え、外へ流す。
逆らわない。
流された勢いに合わせて身体を回転させ、左の回し蹴りへつなげる。
母が腕で蹴りを受けた。
衝撃が爆発し、銀白と緑の魔力が周囲へ弾け飛ぶ。
母の足が、初めて一歩下がった。
「いいわ」
母が笑う。
受け止められた脚をすぐに引き、着地と同時に踏み込む。
拳。掌。肘。膝。
互いの攻撃が、目の前で連続して交差する。
拳と掌がぶつかるたび、魔力が破裂する。
稽古場のあちこちで土が弾け、足を踏み込むたびに新たな亀裂が生まれた。
母の右手が俺の手首へ触れる。
そのまま引かれれば投げられる。
水の魔力を肩から腕へ流し、力を抜く。
母が作った流れへ乗りながら、重心を低く保つ。
投げの軌道から身体を滑らせ、空いている左拳を放つ。
母が首を傾けてかわした。
拳が頬をかすめ、束ねた髪が大きく揺れる。
直後、母の肘が俺の脇腹へ触れた。
外へ弾くような衝撃はない。
軽く触れられただけだった。
次の瞬間、身体の内側で何かが爆発した。
「がっ……!」
肺から空気が押し出される。
肋骨の内側を直接殴られたような痛みが走り、身体が横へ折れた。
口の中へ鉄の味が広がる。
母の膝が顎へ迫った。
水の魔力を神経へ流す。
「――《瞬》!」
遅れていた身体が、意識へ追いつく。
首を反らし、膝を寸前でかわす。
それでも母の足が生んだ風圧が頬を打ち、皮膚が浅く裂けた。
後方へ跳び、距離を取る。
口元を拭うと、手の甲に血がついた。
『今の攻撃、外側ではなく内側で弾けたわ』
「ああ」
《堅》で身体の表面を強化していた。
それにもかかわらず、衝撃は内側へ通った。
「剛勁は、相手を外へ吹き飛ばすだけではないわ」
母がゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「接触した場所から魔力を浸透させ、身体の内側で弾けさせることもできる」
「外と内を、使い分けられるのですか」
「ええ。硬くなった相手ほど、内側は守りにくいもの」
母の足が止まる。
「それでも、その《堅》だけで受け続ける?」
「いいえ」
呼吸を整える。
痛みは残っている。
だが、魔力円環は途切れていない。
外側から防げないのなら、身体の内側へ入ってきた力を流せばいい。
土の魔力を抑え、水の魔力を全身へ広げる。
母が再び踏み込んだ。
銀白の軌跡が、一息で距離を消す。
右の掌底が胸へ届く。
受け止めない。
身体をわずかに捻り、接触した場所から入ってきた魔力を肩へ流す。
肩から背中へ。背中から腰へ。腰を通り、右脚から地面へ。
足元が爆発した。
母の剛勁が地面へ抜け、土が大きく抉れる。
身体の内側へ痛みは残ったが、先ほどほどではない。
「流したのね」
「母上の合気を、参考にしました」
「一度受けただけで?」
「リヴィアさんから、身体で覚えるように言われていますので」
「本当に、あの人らしい教え方ね」
母の笑みが、さらに深くなる。
胸元へ触れている母の腕へ、自分の左腕を絡める。
相手の力を止めるのではない。
引かれる方向へ自分から踏み込み、母の側面へ回る。
右の手のひらを、脇腹へ密着させた。
青い魔力が掌へ集まる。
「水浸――」
母の目が見開かれる。
「獅子琉掌!」
掌から水の魔力を流し込む。
母の身体を巡っていた銀白の魔力へ、青い魔力が食い込んだ。
整っていた流れが内側から乱れる。
「くっ……!」
初めて、母の表情が苦痛に歪んだ。
銀白の魔力が一瞬だけ弱まり、母の身体が横へ弾かれる。
追う。
風の魔力を脚へ集中させ、一気に距離を詰める。
右拳へ火の魔力を集める。
だが、母は体勢を崩したまま、こちらへ手を伸ばしていた。
伸ばされた指先が俺の拳へ触れる。
踏み込みの軌道をわずかに変えられた。
「まだ、終わりではないわよ」
拳が母の頬から外れる。
そのまま腕を取られ、勢いを利用して身体を回された。
母の腰が沈む。
視界が反転した。
投げられる直前、風の魔力を背中から噴き出す。
空中で身体を捻り、両足から着地する。
しかし、着地したところへ母の踵が振り下ろされた。
両腕を交差させて受ける。
轟音。
足元の地面が陥没し、膝まで土へ沈んだ。
「ぐっ……!」
母の踵を押し返す。
火と土の魔力を一気に両腕へ巡らせる。
母の身体がわずかに浮いた。
その隙へ肩から突っ込む。
母の身体を正面から押し飛ばした。
銀白の魔力を纏った母が宙を舞い、地面へ降り立つ。
足が土を削り、数歩分の跡を残した。
俺も陥没した地面から抜け出す。
視線がぶつかる。
次の瞬間、二人同時に地面を蹴った。
黄金と銀白の光が、稽古場の中央で激突する。
母の拳を弾く。
手首を取られる前に腕を引き、下段へ蹴りを放つ。
母が片脚を上げて受ける。
衝撃波が走り、周囲の土が一斉に吹き飛んだ。
母の掌底が顔面へ迫る。
首を傾けてかわし、脇腹へ拳を叩き込む。
銀白の魔力が拳の威力を外へ流す。
母が流した勢いに逆らわず、肘へ切り替える。
肘と腕がぶつかり、互いの魔力が爆発した。
拳。蹴り。掌底。肘。
金と銀の残光だけが、稽古場の中を縦横に走る。
踏み込みで土が砕ける。
攻撃が外れるたび、風圧で地面が抉れる。
接触のたびに轟音が重なり、周囲の木々から葉が降り注いだ。
「父上」
父の低い声が響く。
「レグルスは、入ってきた衝撃を水の魔力で右脚へ流しています。ですが、脇腹にはまだ衝撃が残っている。同じ箇所へもう一撃受ければ、肋骨を痛めます」
「よく見えているではないか」
「見えているからこそ、止め時を考えているのです。二人とも少し熱くなりすぎている」
戦いの余波で飛んできた小石を、父は視線も向けずに指先で弾いた。
小石は乾いた音を立てて砕け、細かな砂となって地面へ落ちる。
父は稽古場の端から一歩も退かず、黄金と銀白の軌跡を正確に目で追っていた。
「止める必要があるのなら、私が入ります」
「まだだ」
祖父は落ち着いた声で答える。
「二人とも、急所へ入る攻撃だけは最後に角度を変えている。力に呑まれてはいない」
「それも分かっています。ですが、その余裕が消えた瞬間は私が止めます」
「ああ。それまでは見守ってやれ」
父は何も答えず、いつでも踏み込めるよう静かに重心を落とした。
母の蹴りが腹部へめり込んだ。
土の魔力を集めて防ぐ。
だが、接触した場所から銀白の魔力が入り込んでくる。
すぐに水の魔力へ切り替え、衝撃を全身へ分散させる。
それでも痛みは消えない。
身体が後方へ押し出される。
母が追ってくる。
地面へ着地した瞬間、風の魔力を爆発させた。
母の脇をすり抜け、背後へ回る。
「獅爪疾脚!」
拳と蹴りによる連撃を放つ。
一撃目を流される。
二撃目をかわされる。
三撃目の蹴りが、母の腕へ当たった。
緑色の魔力が弾け、母の身体が横へ流れる。
四撃目。
回転した勢いを乗せ、踵を母の肩へ叩き込む。
銀白の魔力が大きく揺れた。
母の膝が地面へつく。
それでも、母の左手は俺の足首を掴んでいた。
「捕まえたわ」
引かれる。
軸足が地面から離れ、身体が宙へ浮いた。
母が立ち上がる勢いとともに、俺を地面へ叩きつけようとする。
空いている手を地面へ伸ばす。
触れた瞬間、風の魔力を噴き出した。
地面へ叩きつけられる直前に身体を回し、母の腕へ両脚を絡める。
そのまま身体を捻った。
今度は母の重心が浮く。
「はあっ!」
母の身体を投げ返す。
地面へ落ちる寸前、母が片手をついた。
腕一本で衝撃を受け流し、回転しながら着地する。
俺も距離を取って構え直した。
母の右袖は肩口から裂け、腕には赤い痕が残っている。
口元には、細い血の筋が流れていた。
俺の身体も無傷ではない。
脇腹の痛みは強く、左肩から先の感覚が鈍い。
頬から流れた血が顎を伝い、土の上へ落ちる。
呼吸も荒くなっている。
それでも《環》は途切れていない。
黄金色の魔力波が全身を包み、四属性の魔力を巡らせ続けている。
「そこまでにしないか」
父が稽古場の外から声をかける。
「十分だろう。互いに実力は分かったはずだ」
母は父へ顔を向けなかった。
「まだよ」
「ディアナ」
「あと一撃だけ」
「その言葉を、私は何度も聞いたことがある」
「今度は本当よ」
「それも何度も聞いた」
父の言葉に、母は楽しそうに笑った。
俺も構えを解かなかった。
『レグルス。あなたまで続けるつもり?』
「ここまで来て、下がるわけにはいかない」
『やはり親子ね』
「似ていない」
『その言葉、今のお母様の顔を見てから言いなさい』
母の銀白色の魔力が、再び膨れ上がる。
荒れていた魔力が身体の中心へ戻り、一つの円を作った。
先ほどまでよりも深く、鋭い流れ。
周囲へ広がっていた魔力が、母の右手へ向かって圧縮されていく。
銀白の光が掌の中へ集まり、空気が軋んだ。
触れれば、外側と内側の両方を破壊される。
こちらも全力で応えなければ受け止められない。
足裏へ土の魔力を巡らせる。
《堅》で軸を作る。
脚へ風を纏い、《速》で踏み込みを引き上げる。
水の《瞬》を神経へ巡らせ、攻撃の瞬間を合わせる。
最後に、火の魔力を両腕へ集中させた。
黄金色の魔力波の中で、赤い光が燃え上がる。
両手へ炎を纏わせる。
獅吼爆炎。
命脈闘法の中で、最も外側へ威力を放つ技。
母の《剛勁》と正面からぶつかれば、どちらが無事で済むかは分からない。
それでも、不思議と恐怖はなかった。
「行きます、母上」
「いらっしゃい、レグルス」
母が笑う。
地面を踏み砕き、銀白色の光となって迫ってくる。
俺も震脚する。
踏み込んだ足を中心に、地面へ蜘蛛の巣状の亀裂が走った。
土の魔力で作った軸へ、風と水の力を重ねる。
火を纏った両掌を前へ突き出す。
「獅吼――」
「そこまでだ!」
父の鋭い声が響く。
同時に、稽古場の端にいた父の足元が深く沈んだ。
こちらへ踏み込もうとしている。
「――爆炎!」
母の右掌と、俺の両掌がぶつかり合おうとする。
その寸前、父が地面を蹴るよりも早く、一筋の影が俺たちの間へ割り込んだ。
祖父だった。
いつ縁側から立ち上がったのか分からない。
いつ取ったのか、その右手には稽古場の端に置かれていた木刀が握られている。
木刀の切っ先が、俺の右肘の内側へ触れた。
力を込められた感覚はない。
それなのに、両掌の軌道が上へ逸れる。
同時に、祖父が木刀を返す。
柄頭が母の右手首へ当たり、《剛勁》の向きを空へ跳ね上げた。
黄金の炎と銀白の魔力が、俺たちの頭上で激突する。
閃光が稽古場を白く染めた。
遅れて、雷が落ちたような轟音が響く。
巨大な衝撃波が空へ突き抜け、周囲の木々を大きく揺らした。
枝から無数の葉が舞い上がり、金と銀の光の中で渦を巻く。
俺と母の身体が、反動で左右へ押し戻された。
数歩下がり、どうにか踏みとどまる。
祖父だけが、二人の間から一歩も動いていなかった。
祖父の手にある木刀から、細い煙が上がっている。
刀身には亀裂が走っていたが、折れてはいない。
「そこまでだ」
祖父の声は穏やかだった。
だが、その一言で、母も構えを解いた。
銀白色の魔力が静かに収まっていく。
俺も《環》へ注いでいた魔力量を絞り、普段から維持している量へ戻す。
黄金色の魔力波が消え、身体の重さと痛みが一気に押し寄せてきた。
「……まったく見えませんでした」
祖父が入ってきた瞬間も、木刀が二度動いたところも。
《瞬》で神経を強化していたにもかかわらず、軌道を追うことさえできなかった。
「二人とも、少し熱くなりすぎたな」
祖父が木刀を肩へ担ぐ。
「稽古場を壊すだけなら構わんが、互いの身体まで壊しては手合わせとは呼べん」
「申し訳ありません、祖父上」
「ごめんなさい」
母も素直に頭を下げた。
父が土煙の中を歩き、こちらへやってくる。
「父上。もう少し早く止めていただけなかったのですか?」
「止める必要があるところで止めただろう」
「私には、随分前から必要があったように見えました」
「二人とも、自分で止まれる間は止める必要はない」
祖父は壊れかけた木刀へ目を向ける。
「最後の一撃だけは、少々危なかったがな」
「少々ではありません」
父が深く息を吐く。
「ディアナもだ。息子の成長を確かめるだけではなかったのか?」
「そのつもりだったのよ」
「途中から目的が変わっていただろう」
「少し楽しくなっただけよ」
「稽古場がこの有様になるほどか?」
周囲を見回す。
平らだった地面には無数の亀裂が走り、あちこちが深く陥没している。
稽古場を囲んでいた木柵も、一部が風圧で倒れていた。
「……すみません、父上」
「レグルスが謝る必要はない」
父がそう言った直後、母がゆっくりと顔を向ける。
「私だけが悪いということかしら?」
「いや。二人とも反省するべきだ」
父はすぐに言い直した。
母は満足そうに頷き、俺の前まで歩いてくる。
「身体を見せて」
「大丈夫です」
「大丈夫かどうかを決めるのは、今は私よ」
母が脇腹へ手を当てる。
痛みで顔がわずかに歪んだ。
「肋骨にひびは入っていないようね。内側への衝撃も、自分でかなり流していたみたい」
「母上の合気を参考にしました」
「戦いながら覚えたのね」
母の手が脇腹から離れる。
武人の顔は消え、いつもの穏やかな母へ戻っていた。
「魔力量も、身体能力も、以前とは比べものにならないわ。それ以上に、得た力をどう使うべきか考え続けている」
「まだ母上には及びませんでした」
「当然よ。簡単に追い越されるつもりはないもの」
母はそう言ってから、柔らかく笑った。
「でも、あなたがここまで強くなったことは分かったわ」
「母上……」
「あの一撃も、最後まで途切れなかった魔力円環も、すべてあなたが積み重ねてきたものなのでしょう?」
「はい」
「よく頑張ったわね、レグルス」
母の手が、俺の頭へ触れる。
子供の頃と同じように、髪を優しく撫でられた。
少し気恥ずかしかったが、その手を振り払う気にはなれなかった。
『やはり、よく似ているわ』
「どこがだ」
『戦いを楽しんでいたところよ』
「俺は母上ほどではない」
『自分の顔は見えないものね』
セレスの言葉には返さず、荒れ果てた稽古場を見る。
全力で戦った。
母へ、自分が歩いてきた道を見せることもできた。
だが、母にも、父にも、祖父にも、まだ遠く及ばない。
特に、最後に見せた祖父の一振り。
あれほどの力がぶつかる寸前へ入り、二人の攻撃を同時に逸らした。
力ではない。
速さだけでもない。
積み重ねてきた技の差だった。
帰郷して最初の手合わせで、俺は改めて知った。
俺の武の原点には、今もなお越えるべき者たちが立っている。




