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死んだ人に手紙を送れる郵便局の話  作者: ハル


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第五話 最後の約束

第五話 最後の約束


その日、郵便局にやってきたのは一人の男性だった。


年は三十代くらいだろうか。

スーツを着ているが、どこか疲れた様子だった。


男性は窓口の前に立つと、しばらく何も言わなかった。


私は静かに声をかける。


「どうされましたか?」


男性はポケットから封筒を取り出した。


少ししわになっている封筒だった。


「ここって……」


男性は言葉を選ぶように続けた。


「天国に手紙を送れるんですよね」


その言葉を聞いて、私は少年の方を見る。


郵便局の隅、いつもの場所に少年が立っていた。


静かにこちらを見ている。


私は男性にうなずいた。


「はい」


「宛先はどなたですか?」


男性は少しだけ目を伏せた。


「友達です」


そして小さく付け加えた。


「親友でした」


私は封筒を受け取る。


宛先にはこう書かれていた。


『天国の大輔へ』


男性はゆっくり話し始めた。


「高校の頃からの友達で」


「ずっと一緒にバンドをやってたんです」


男性は少し笑う。


「全然売れなかったですけどね」


でもその笑顔はすぐ消えた。


「でも……」


「三ヶ月前、事故で死んじゃって」


郵便局の中に静かな空気が流れる。


男性は続けた。


「最後に会ったとき、約束したんです」


「次のライブは絶対成功させようって」


男性は封筒を見つめた。


「でも、その約束」


「守れなかった」


私は何も言えなかった。


男性はぽつりとつぶやく。


「だから……」


「謝りたくて」


そのとき、少年が近づいてきた。


男性には見えていない。


少年は私の手から封筒を受け取る。


「届けてくる」


いつものように、静かな声だった。


私は小さくうなずく。


「お願い」


少年は封筒をポケットに入れる。


「行ってくる」


次の瞬間。


少年の姿は、ふっと消えた。


男性は少し驚いた顔をした。


「今……」


私は静かに言う。


「大丈夫です」


「ちゃんと届きます」


男性は椅子に座り、静かに待っていた。


窓の外では、夕方の風が木を揺らしている。


しばらくして。


ふっと空気が揺れた。


少年が戻ってきたのだ。


「どうだった?」


私が小さく聞く。


少年は少し笑った。


「怒ってなかった」


私はほっと息をつく。


少年は続けた。


「むしろ笑ってたよ」


「“あいつらしいな”って」


私は思わず笑ってしまう。


少年はさらに言った。


「それからね」


「“約束はもう守ってる”って」


私は首をかしげる。


「どういうこと?」


少年は男性を見る。


「だってさ」


「今でも音楽続けてるんでしょ?」


男性は少し驚いた顔をした。


「……え?」


私は静かに言う。


「届きましたよ」


男性の目が揺れる。


「本当に……?」


私はうなずいた。


「ええ」


男性はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。


「そっか」


「怒ってないなら、よかった」


男性は立ち上がる。


「ありがとうございました」


そう言って郵便局を出ていった。


扉の鈴が小さく鳴る。


静かな空気が戻る。


私は少年を見る。


「約束って、不思議だね」


少年は肩をすくめた。


「うん」


そして窓の外を見ながら言った。


「守れなくても」


「ちゃんと届くこともある」


夕日が郵便局の中をやわらかく照らしていた。


今日もまた、一通。


天国へ向かう想いが届けられた。

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― 新着の感想 ―
とても心に響く物語で、一話ごとに描かれるそれぞれの想いに胸を打たれました。 四十九日という制限や、大切な品物を添えるルールがあることで、手紙に込められた気持ちの重みがより強く伝わってくるのが印象的です…
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