第二話 届けられなかった手紙
第二話を読んでいただきありがとうございます。
この物語は、亡くなった人に手紙を送れる不思議な郵便局の物語です。
今回は、少し切ない「届かなかった手紙」のお話になります。
もしよければ、第一話から読んでいただけるとより世界観が分かると思います。
それでは、第二話をお楽しみください。
秋の風が窓の隙間から入り込み、古びたカウンターの上の封筒を揺らしていた。
この郵便局は今日も静かだ。
いや、正確にはいつも静かだ。
誰も来ない日だって珍しくない。
それでも私は毎日ここにいる。
誰かが、大切な人に伝えられなかった言葉を抱えて来るかもしれないから。
扉の鈴が小さく鳴った。
顔を上げると、制服姿の男の子が立っていた。高校生くらいだろうか。髪は少し乱れていて、息を切らしている。
「ここ……郵便局ですよね」
「ええ、そうですよ」
彼は少し安心したように笑った。
「よかった……まだ開いてて」
彼はポケットからぐしゃぐしゃの封筒を取り出した。
「この手紙、送ってほしいんです」
「どちらに?」
私はいつもと同じように聞いた。
けれど次の言葉で、胸の奥が少し痛んだ。
「母さんに」
少しの沈黙。
「……亡くなってます」
私は静かに頷いた。
「いつ亡くなりましたか?」
少年は少し考え、言った。
「二ヶ月前です」
その瞬間、胸が締め付けられた。
二ヶ月。
制限を超えている。
この郵便局では、49日を過ぎた人には手紙を届けられない。
理由は誰にも分からない。
ただ、それがルールだった。
私は口を開きかけて、閉じた。
言わなければならない。
けれど。
少年は少し照れたように笑った。
「葬式のとき、泣けなかったんです」
彼は封筒を撫でながら続けた。
「母さん、ずっと入院してて……覚悟はしてたつもりだったんです」
声が震えている。
「でも家に帰ったら、母さんのマグカップとか、洗濯物とか残ってて」
沈黙。
「そのときやっと、泣けたんです」
少年は目を伏せた。
「そのあと書いたんです、この手紙」
私は封筒を見つめた。
届けたい。
けれど。
届けられない。
私は静かに言った。
「ごめんなさい」
少年が顔を上げる。
「この郵便局には、ルールがあります」
私はゆっくり説明した。
49日。
大切なもの。
代読。
すべて。
話し終わる頃、少年は黙っていた。
「……そっか」
少し笑った。
その笑顔が痛かった。
「じゃあ、もう遅かったんですね」
私は何も言えなかった。
少年は封筒をポケットに戻した。
「でも聞けてよかったです」
そう言って頭を下げた。
「ありがとうございました」
扉の鈴が鳴る。
少年は去っていった。
しばらく私は動けなかった。
そのとき、後ろから声がした。
「珍しいね」
振り向かなくても分かる。
あの子だ。
「君が断るなんて」
少年はカウンターに座って足をぶらぶらさせていた。
「仕方ないでしょ」
「うん、知ってる」
彼は少し空を見上げた。
「でもさ」
少し笑う。
「僕なら届けられるよ」
私は驚いて振り向いた。
「え?」
「だって僕」
彼はいつもの無気力な顔で言った。
「天国と現世、どっちも行けるから」
私は息を止めた。
「その代わり」
彼はニヤッと笑う。
「君が一つ願いを叶えてくれるなら」
窓の外では、少年がまだ歩いていた。
手紙をポケットに入れたまま。
私は静かに言った。
「……その願いって?」
少年は少しだけ寂しそうに笑った。
「簡単だよ」
「君が僕のことを――」
そこで言葉を止めた。
「やっぱり、今は秘密」
第二話を読んでいただきありがとうございました。
今回は「間に合わなかった手紙」というテーマのお話でした。
この郵便局にはいくつかの制限がありますが、その制限があるからこそ生まれる物語もあるのかなと思いながら書きました。
感想や評価をいただけるととても励みになります。
もしよければ、次回も読んでいただけると嬉しいです。
次回は、郵便局員の「私」と謎の少年の過去に少し触れるお話になります。
それでは、また次のお話で。




