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死んだ人に手紙を送れる郵便局の話  作者: ハル


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第一話 天国への手紙

はじめまして。

この作品を開いていただきありがとうございます。


この物語は、「亡くなった人に手紙を送れる郵便局」を舞台にした現代よりも少し前の不思議なお話です。

大切な人に伝えられなかった言葉や想いを、手紙という形で届ける物語を書きたいと思い、この作品を書き始めました。


拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

それでは第一話「天国への手紙」、よろしくお願いします。

蒸し暑い季節の、夕日が差し込む刻限。

 四十代ほどの女性が一人、郵便局の前に立っていた。


 彼女の表情は、暗雲の隙間から一筋の光が差し込んだようでもあり、長く続いた日照りの大地に雨が降ったときのようでもあった。迷いと決意が入り混じった顔だ。


 しばらく扉を見つめていた彼女は、やがて小さく息を吸い込み、意を決したように中へ入ってきた。


「すみません。この手紙を郵送してほしいのですが」


 先ほどまでの表情とはまるで違う、無理に作ったような笑顔だった。


「分かりました。では、どちらへお送りするのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 いつも通りの言葉を返す。


 彼女は一瞬だけ言葉を詰まらせた。

 そして震える唇をゆっくりと動かした。


「……天国でお願いします」


 私は一瞬、言葉を失った。


 胸の奥で心臓が強く鳴る。


 ――けれど、不思議と驚きは少なかった。


 この郵便局では、亡くなった人に手紙を送ることができる。


 信じられない話だろう。

 実際、私も最初は信じていなかった。


 けれど、それが本当だと知っている。


 どうしてかって?


 ――私も送ったことがあるからだ。


 死んだおじいちゃんに、手紙を。



 私は幼いころから、おじいちゃん子だった。


 両親は共働きで忙しく、私に構う時間があまりなかった。

 その代わり、近くに住んでいた祖父の家によく預けられていた。


 自然と、祖父と過ごす時間が増えた。


 母はよく言っていた。


「気づいたら、あんたはずっとおじいちゃんの後ろをついて回ってたのよ」


 幼いころの記憶でも、はっきり覚えている。

 それだけ、楽しい日々だったのだと思う。


 学校の保護者参観の日も、祖父が来てくれた。

 いや、正確には――私が「おじいちゃんじゃなきゃ嫌だ」と言ったのだ。


 それくらい、祖父が好きだった。


 だからこそ、あの日の出来事は――


 今でも胸に刺さっている。


 放課後。

 いつものように、私は学校からまっすぐ祖父の家へ向かった。


 その日は雨が降っていた。


 私は濡れるのも構わず、祖父に会いたくて走った。


 いつもなら、呼び鈴を押せばすぐに祖父が出てきてくれる。


 けれど――


 何度鳴らしても、反応がない。


 おかしいな、と思った。


 そのとき、扉が少し開いていることに気づいた。


 恐る恐る扉を押す。


 家の中は静まり返っていた。


 そして、私は見つけた。


 祖父が、倒れていた。


 天井を背にして。


 そのときの気持ちは、今でもうまく言葉にできない。


 ただ一つだけ確かなのは――


 祖父が、もう動かないということだった。



 この町には郵便局が一つしかない。


 二十年前でさえ、あまり利用されていなかった。

 今ではインターネットが普及し、コンビニエンスストアという便利な場所もある。


 わざわざ郵便局に来て手紙を出す人は少ない。


 けれど、この郵便局は少しだけ特別だ。


 ここでは――


 天国へ手紙を送ることができる。



「すみません……急にこんなこと言って……できる訳ないですよね」


 沈黙に耐えきれなくなったのか、女性がそう言った。


 私は深く息を吸った。


「失礼ですが、送りたい相手が亡くなったのはいつですか?」


 女性は少し戸惑いながら答える。


「……一ヶ月ほど前です」


 私は頷いた。


「でしたら、急いだ方がいいですね」


 女性が驚いた顔をする。


「この郵便局では、手紙を送るための条件があります」


 私は説明を始めた。


 この郵便局で亡くなった人に手紙を送るには、三つの制限がある。


 一つ目は時間。


 亡くなってから一ヶ月半以内であること。


 人は亡くなってすぐ天国に行くわけではない。

 四十九日ほどの間、この世に留まると言われている。


 その間に、手紙を届ける。


 二つ目は、故人にとって大切な物。


 亡くなったばかりの魂は、自分のことを忘れていることが多い。

 大切な物を見ることで、記憶を取り戻すのだという。


 三つ目。


 ――手紙そのものは送れない。


 代わりに、手紙の内容を誰かが読み上げて伝える。


「物を認識できるかも怪しいのに、触れるなんてできる訳ないじゃん」


 そう言っていた人のことを、私は思い出した。



「これは……ブレスレットですね」


 女性は頷いた。


「付き合って一年記念の日に、彼がくれたんです」


 彼女はブレスレットを見つめながら言った。


『決して高価なものじゃないけど、君に一番似合うものを選んだんだ。

ずっと一緒にいたいから、ずっとそばにいてほしい』


 その言葉を思い出しているのだろう。

 彼女の声は、哀しみで満ちていた。


 けれど同時に、確かに愛もあった。


「きっと届きます」


 私は言った。


「このブレスレットを見れば、彼はあなたを思い出します。

そして手紙の言葉も、きっと届きます」


 気づけば、私の目にも少し涙が滲んでいた。



 女性を見送るころには、外の空気は少し涼しくなっていた。


 郵便局の灯りが、やけに眩しく見える。


 この手紙を、あの人に渡さなければ。


 そう思ったとき――


 鋭い風が頬をかすめた。


「君さぁ、もうちょっと周り気にしなよ」


 振り返らなくても分かる。


「営業時間、とうに過ぎてるよ」


 淡々としていて、少し生意気な声。


 振り向くと、そこには少年が立っていた。


 見た目は子ども。

 けれど話し方は、どこか上司みたいだ。


「はい、この手紙」


 私は封筒を差し出した。


「お願い」


 少年はため息をついた。


「また?」


「好きでしょ」


「好きじゃない」


 そう言いながらも、彼は手紙を受け取った。


「この郵便局に来てから、何回送ったと思ってるの」


 彼は少し笑った。


「でもさ」


 私を見る。


「君が悲しそうな人を放っておけないの、知ってるよ」


 私は少しだけ笑った。


「だから頼んでるの」


 少年は肩をすくめた。


「……仕方ないな」




郵便局を出て涼しい風に吹かれる。

 少年は、胸ポケットから色褪せた古い手紙を取り出し開いた。


 そこに書かれていたのは、幼い文字だった。


「誰からの手紙か分からないけど、一番大切なのはなんでなんだろうな」


 少年は、少しだけ微笑んだ。


第一話を読んでいただきありがとうございました。


この物語は、一話ごとに「誰かの手紙」を描きながら進んでいく予定です。

郵便局で働く「私」と、現世と天国との狭間を行き来する少年の関係も少しずつ明かされていきます。


もしよろしければ、感想や評価をいただけるととても励みになります。

ブックマークしていただけると、次話を書く大きなモチベーションになります。


次回は、ある少年が持ってきた「届かなかった手紙」のお話になります。

よろしければ第二話も読んでいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
Xから来ました、探と申します。 コメント失礼します。 文章からひしひしと伝わってくる静けさに心が穏やかになりました。 なんと言うのでしょうか。 私の文章力がクソなので、うまく言葉にできないのですが、…
Xから参りました。 心温まる物語。天国への手紙という発想が興味を惹かれますね。
SNSから失礼致します。 あまり言葉が上手く出ないのですが、1話目から世界観が美しく、とても引き込まれました。 この少し不思議な郵便局から色んな人の繋がりが広がっていくのだと思うと続きを読みたいとい…
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