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はまってワンだふる。〜夫婦二人の過ごし方〜  作者: 朝野とき
第二話 私がオフ会にはまったら。 
31/31

第二話-エピローグ

第二話最終です。

「おはようございますぅ。あ、東条せんぱ~い、なんかオーラ、ダダ漏れですぅ」


 ぎゃーっっっっ。

 真理ちゃんの言葉に、赤面になりつつ月曜の職場の朝は始まった。


*********


 朝礼前なので、まだ総務には人が少ない。

 岬さんがオフィスに入ってきた。私に気付いて「おはよ」と手をあげる。私も駆け寄る。


「おはようございます、昨日ありがとうございました!」


 私があいさつすると。


「ん、それはいいんだけど…東条さん…」

「はい?」


 岬さんが、ちょっと小さめの声で私に話しかけたけれど、近づいたところで、すこし視線を動かして、


「あ…、大丈夫だったみたいね」


とつぶやいた。


「なにが、ですか?」

「アドレス交換してたし旦那さん怒ってないかしらって、心配もすこししたんだけど…いいわ、大丈夫なのがわかったから」

「へ??」

「……ふふ、コンシーラ、持ってる?」

「え???」


 私と岬さんの会話に、真理ちゃんがひょいっと入ってきた。


「あ、岬さんも気づきました?うまくつけましたよね、東条さんの旦那さん。前からだとわかりませんしね」

「昨日は子犬みたいに見えたのに…案外、策士なのかしら?東条さんが、仕事中はシュシュで結うのを前提につけてるわよね」


 岬さんと真理ちゃんが、小声でかわしている話についていけない。

 そんな私に、岬さんが。


「耳後ろからうなじに…ついてるわよ、キスマーク」


 うぎゃぁぁ!


 私は涙目になる。

 そして思いだした。

 朝、出勤するときに、数巳が言った言葉を。


『…あ、理紗…ごめんね。今日は早めに出勤してさ、岬さんに、ちゃんと朝一番にあいさつした方がいいね』


 どうして、最初にあやまるのかな?って思ったんだ…。

 まさか「岬さんにあいさつ」っていうのも、昨日のオフ会のお礼じゃなくて、キスマークに気付いてもらうため!?


「あら、私、頼りにされてるのかしらね?ほらほら、無いならコンシーラ貸してあげるから、行くわよ、化粧室」


「コンシーラの上から、このファンデでカバーしたらほとんど見えませんよ~」


 真理ちゃんがポーチを取り出してくる。

 頼りになる先輩と後輩をもって…し、しあわせです、私。(涙目)

 ざわざわと声がして「おはよう」と上司も出勤してきたようだった。

 ま、まずい……。


「課長、おはようございますぅ~。先週あずかった案件なんですがぁ~」

 

 真理ちゃんが、上司に駆け寄っていって話題をふり、時間を稼いでくれる。

 その間に「おはようございます」と挨拶だけして、早々に岬さんと化粧室へ急ぐ。


 とほほほ……。

 もう、数巳……。 

 鏡の前で私が肩を落とすと、岬さんが言った。


「ほらほら、旦那さんは痕を残したいくらいの気持ちがあったんでしょ。でも、東条さんのために、隠してもあげたかったから…私の話題をふったんでしょ」

「……」

「どちらの気持ちも、パートナーの気持ちなんだから、ね?」

「は…い」

「これが、リアルの良さだと思うわよ」


 紅い花の痕を岬さんがうまく消していってくれながら、言った。

 鏡越しに、岬さんと目が合う。


「だって、ひとつに割り切れるわけじゃないもの。このマークみたいに、ここにあるけれど隠されたり、今はついているけれど時間とともに消えたりね」

「……」

「だけど、ここに痕を残したっていう現実と、それを起こした気持ちはたしかに在るの。それがリアル」


 私はうなづいた。


「これが、あなたの居場所でしょ?――……ほら、見えなくなったわよ」


 私は顔をあげて、鏡越しじゃなく、本物の岬さんの目を見つめた。


「ありがとうございます」

「ふふふ、ほんと、東条さん、キスマークだけでうろたえるなんて可愛いわ。そもそもこんなにつけられても気付かないくらいに、東条さんの意識がなかったっていうのも熱いわよねぇ」

「岬さん!言葉が真理ちゃん寄りになってます!」

「あら?そう?」


 笑ってこたえて、岬さんはひらひらと「帰るわよ~」と手を振って仕事場に戻っていった。

 私は後を追いつつ、そっと左手薬指の結婚指輪をなぜた。

 それから、その結婚指輪のはめた手で、ブラウスの襟もとを抑える。


 キスマーク……数巳の言う、所有印。

 岬さんが隠してくれたのは、みんなの見える場所。

 そして、いま私が薬指で服越しにふれているのは――……鎖骨につけられた、数巳にしか見えないマーク。

 私と数巳の秘密のマークがここにある。


 ――……隠すキスマークに、見えないキスマーク。


 見えるもの、見えないもの。

 暴かれるもの、隠されるもの。

 虚構と現実。

 ネットとリアル。


 いろんなことが重なり合ってる。

 でも、どれも、ここにある気持ちは本当。

 数巳と私の…気持ちが交わった関係は事実。


 私は、数巳が大好きで。

 恋をして。

 結婚をして。 

 ちょっとすれ違って、でもやっぱり大好きで……。


 ――……愛されて、愛したいって思ってる。

 私はここで生きることに「夢中」になる、数巳と共に。 

 それが、私のリアルなんだ。


「ほら、東条さん、もうすぐ始業チャイム鳴るわよ~」


 先を行く岬さんに声をかけられて、私は笑顔で「はい!」っと返事をしてかけ出した。

 私のリアルに暮らしていく道を。



fin.

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