第2話 深夜に金欠になった『氷の女王』②
秋風が静かに吹き抜け、人影のない住宅街の歩道で数枚の枯れ葉を舞い上がらせた。
「ふぅぅ……寒い……」
その弱々しい呟きは、北条先輩の唇から漏れたものだ。
星蘭堂高校で高慢な『氷の女王』として名を馳せる三年生の先輩は今、俺の隣で力なく歩いている。
彼女はインスタント食品が山のように詰まったレジ袋をきつく抱きしめ、そこから少しでも暖を取ろうとしていた。
だが、その動作のせいで、彼女の姿勢はさらに痛々しいほど丸まってしまっている。
「当然寒いでしょうね、先輩。九月の深夜に、そんどう見ても薄っぺらいスウェットパンツと着古したパーカーだけで外に出ろなんて、一体誰が言ったんですか?」
「う、うるさい……お説教しないでよ、夏沢くん。秋の演劇の台本が危機的状況なのに、服装のことなんか気にしてる暇なんてないのよ……うぅっ……」
「それで台本のために体を壊すのが賢い選択だとでも? 先輩の背中にある『広背筋』が、さっきから悲鳴を上げて許しを乞うてますよ」
北条先輩は、分厚いメガネの奥から恨めしそうな目で俺を睨んだ。
「あ、あんたって子は……さっきのコンビニからずっと、変な筋肉の名前ばっかり口にして。本当は高校生じゃなくて医学生かなんかなの? 大体、あんたには関係ないでしょ? これは私自身の体なんだから!」
「関係大ありですよ。身体的リラクゼーションの芸術を信奉する者として、自分の肉体をいじめる人間を見るのは、人体解剖学に対する侮辱ですから」
「は、はぁ? 芸術って何よ? もしかして、二年生の子たちの間で流れてる噂って本当だったわけ? あんた……カルト教団の変態マニアかなんか?」
俺はその根も葉もない非難を聞いて、ただ深くため息をつくしかなかった。
学校の連中は俺について一体どんな噂を流してるんだ?
実際のところ、俺の整体や小顔矯正に対する執着は、決しておかしなものでも、ましてやエロいものでもない。
(そう、断じてエロいことなんかじゃないのだ!)。
ずっと昔、俺がまだ小さくて、三鷹のこの大きな家に引っ越してくる前、俺は亡き祖母と一緒に田舎で暮らしていた。
祖母はとてつもなく凄腕の伝統的なマッサージの施術者だった。
毎晩、畑仕事の後に疲れ果てている祖母を見て、俺はいつもその身体調整の技術を教えてほしいとねだった。彼女の老いた体の痛みを和らげる手伝いをしたかったからだ。
指のタッチ、経絡のツボへの圧力、関節の調整――そのすべてが、体のケアという芸術に対する俺の純粋な愛の言語だった。
しかし、今まさに体力が底を突こうとしているこの頑固な先輩にそれを説明しようとするのは、無駄な労力に終わりそうだ。
「先輩が俺をどう呼ぼうと勝手ですが、その猫背の姿勢でレジ袋を抱きしめ続けていたら、首の頸椎がカチカチに固まって、明日の朝にはベッドから起き上がれなくなりますよ。ほら、俺が持ちます」
「えっ? い、いいわよ! まだ自分で持て――きゃっ!」
彼女が拒否する間もなく、俺はその赤いレジ袋を彼女の腕から奪い取った。
北条先輩は少しよろめいたが、荒い息を吐きながらもすぐに体のバランスを立て直した。
「……強引な後輩」
「先輩が忘れているなら言っておきますけど、たった今先輩の命を救った後輩ですよ」
「うぅっ……わ、分かった、分かったわよ! ありがとう! これで満足?!」
彼女は赤くなった顔をぷいっと別の方向へ背けた。それが怒りからくるものではなく、『氷の女王』としてのプライドが再び引き裂かれたからだということは、俺には分かっていた。
◆
数分後、俺たちはついに夏沢家の門の前に到着した。
俺は玄関の鍵を開け、ゆっくりとドアを押し開けた。
「ただいま」
玄関の土間に足を踏み入れた途端、リビングの方向からドタバタと非常に騒々しい足音が聞こえてきた。
「おかえり、お兄ちゃん!! 私のキャラメルプリンは――はぁぁぁっ?!?!」
実の妹である夏沢小春は、ウサギ柄のパジャマを着たまま、廊下の奥でカチコチに固まっていた。
俺が入ってきたのを見て……そして、俺の後ろをおずおずとついてくる人影を見て、彼女の丸い黒目は限界まで見開かれた。
突然注目の的となった北条先輩は、パーカーのフードの奥に顔を隠し、ただぎこちなくうつむくことしかできなかった。
「お、お、お兄ちゃん……?! な、何なのこれ?! なんでこんな真夜中に女の人なんて連れ込んでるのよ?!」小春はヒステリックに叫び、震える指で俺たち二人を交互に指差した。
「小春、大声を出すな。もう夜遅いんだ、近所の人が起きちゃうだろ」
「さ、叫ばずにいられるわけないでしょ?! このホームレスみたいな格好した女の人は誰よ?! まさか……まさか……んんっ、お兄ちゃん、道端から誘拐してきたんじゃないでしょうね?! 神様、私のお兄ちゃんはエロいサイコパスなだけじゃなくて、犯罪者だったなんて!!」
「ホ、ホームレスだなんて……」
背後から、ひどく傷ついたようなトーンで北条先輩が小さく呟くのが聞こえた。
「言葉に気をつけろ、小春。ホームレスじゃない。この人は俺の先輩の、北条舞先輩だ。星蘭堂高校の演劇部部長だよ」
「はぁぁっ?! う、嘘よ! 私の中学の友達の間でも、この辺りで一番上品で綺麗な女子高生だって噂の『氷の女王』が……こんな姿のはずないじゃない?! 絶対騙してるわね、お兄ちゃん!」
小春は目を細め、まるで探偵のような疑り深い目つきで、北条先輩を頭の先からつま先までじろじろと見つめた。
プライドを踏みにじられたと感じたのか、北条先輩はついに顔を上げ、普段の鋭さを微かに残したサファイアブルーの瞳で小春を見据えた。
「わ、私が本物の北条舞よ! こんな格好でガッカリさせちゃって悪かったわね、お嬢ちゃん!」と、彼女は毅然とした声を出そうと反論した。
ぐきゅるるるるるるっ……!
しかし、威圧的なオーラを形成する間もなく、とてつもなく大きな腹の虫の音が夏沢家の静寂を打ち破った。
蒼白だった北条先輩の顔が、今や真っ赤に染まった。
彼女はそのまま玄関の床にへたり込み、両手で顔を覆い隠した。残された最後の尊厳をも打ち砕くその羞恥心に、耐えきれなくなったのだ。
「うわぁぁぁぁん……! もう殺してぇぇ……!」と、彼女はひどく惨めな声で小さく泣き言を漏らした。
小春は二回まばたきをした。彼女の疑心暗鬼は、瞬時に気まずい同情へと変わった。
「え、えっと……あ、あの……先輩……すごくお腹空いてるんですね……?」
俺は呆れて目を細め、一つの小さな袋を妹に向かって差し出した。
「ほら、頼まれてたキャラメルプリンだ。もう俺のお客さんを尋問するのはやめて、自分の部屋に戻るか、キッチンに行って俺がお湯を沸かすのを手伝え。すぐに何か食べさせないと、この人は餓死しかねないからな」
「チッ、このエロお兄ちゃん! こんな安物のプリン一つで私を買収できると思ってるわけ?!」小春は鼻を鳴らし、ひったくるようにその袋を受け取った。「……でも、あんまりにも可哀想に見えるから、仕方ない、お湯は沸かしてあげるわ! リビングで彼女に変なことしたら承知しないからね!」
そう言って小春はくるりと向き直り、キッチンへと走っていった。俺はホッと安堵のため息をついた。
妹の隠れブラコンに対処するには、特別なコツがいるのだ。
「さあ、先輩。上がってください。リビングのカーペットは結構暖かいですよ」と、俺は靴を脱ぎながら声をかけた。
北条先輩はただ静かに頷き、残された力を振り絞って立ち上がると、まるで母親とはぐれたアヒルの子のように、俺の後に続いて広いリビングへと足を踏み入れた。
◆
二十分後。
「ふぅぅぅ……はぁぁ……」
北条先輩の口から、深い満足感に満ちたため息が漏れた。
我が家のモダンなデザインのリビングテーブルの上には、すっかり空になった特大サイズのカップラーメンが三個と、パン屑だけが残ったメロンパンの袋が二つ残されていた。
銀髪の少女は今、ソファの縁に寄りかかって座り、すっかり満たされたお腹をポンポンと叩きながら、非常に安らかな表情を浮かべている。
厳格で完璧主義、そして冷酷な『氷の女王』のオーラは、微塵も残っていなかった。
今、俺の目の前にいるのは、深夜の食欲を満たして幸福感に浸る、ただの普通の女子高生に過ぎなかった。
「やばい……生まれてからこんなにガツガツ食べたの初めてかも……。深夜のインスタント食品って、一番美味しい罪悪感ね……」彼女は目を半開きにして呟いた。
先ほどからテーブルの向かい側であぐらをかき、温かい緑茶を飲んでいた俺は、少し分析的な眼差しで彼女を見つめた。
「先輩、食事はもう済みましたか?」
「え? え、ええ……ごちそうさまでした、夏沢くん。ほ、本当に今夜は恩に着るわ……」男子の後輩の家にいることを急に思い出したのか、彼女は少し緊張した様子で答えた。
「それなら良かったです。栄養価は健康的とは程遠いですが、少なくともエネルギーは回復したみたいですね」
俺は湯呑みをテーブルに置き、座り方を片膝を立てた姿勢に変え、完全にプロフェッショナルな眼差しで彼女を真っ直ぐに見据えた。
「さて、お腹の用事は済んだことですし……次は、俺の主な目的の番です」
「お、主な目的……?」北条先輩は生唾を飲み込み、反射的に数センチ後ろへ身を引き、背中がソファのクッションにぶつかった。
「はい。ですから、そのダボダボのパーカーを今すぐ脱いでください、先輩」
「なっ、ななな、何ですって?!」
彼女のサファイアブルーの瞳が見事に丸くなった。
反射的に両腕を胸の前で交差させ、過剰なほど防衛的なポーズで身を守る。
「あ、あ、あんた……夏沢くん! 何するつもり?! ま、まさか本当にご飯の『代金』を私の体で払わせようって魂胆?! い、妹が寝ている隙に私を襲うつもりね?!」
「先輩、お願いですから叫ばないでください。うちの妹は耳がすごくいいんですよ?」
「い、いいわよ! 自分のお兄ちゃんが、先輩の弱みにつけ込むエロいマッサージマニアだってこと、教えてあげるんだから――!」
トントン、トン。
俺は二本の指で、彼女の左肩を軽く触れた。慢性的なストレスのせいで凝り固まっている神経のツボに、正確に。
的確な圧を少し加えただけで、北条先輩の体は即座に反応した。
「ひぃっ……!」
彼女は押し殺したような悲鳴を上げた。一瞬全身を強張らせたかと思うと、ゼリーのようにふにゃりと力が抜けた。
「い、痛っ……で、でも……え? 急にポカポカしてきた……」彼女は混乱したように呟き、目をぱちぱちさせながら俺を見つめた。
「言ったでしょう? 俺の見立てでは、肩と首の後ろの筋肉、そして肩甲骨が、ストレスと無理に背筋を伸ばした姿勢、そして演劇の台本を睨み続けた疲労のせいでカチカチに固まっているんです」まるで外科医が患者に診断結果を説明するかのように、俺はできる限り淡々としたトーンで説明した。
俺はテーブルの上の空のカップを脇に押しやり、俺たちの間にあるカーペットのスペースを広げた。
「背中をマッサージします、先輩。それから、整体の技術でその凝り固まった筋肉を本来の位置に調整するんです」
「先輩がその分厚いパーカーを着たままだと、正確な経絡のツボを見つけられないんです。だから、それを脱いで中の薄手のTシャツ一枚になって、このカーペットの上にうつ伏せになってください」
「だ、だけど……それでもっ……! 知り合ったばかりの男子にマッサージされるなんて……し、深夜に……そ、それは……」
北条先輩の顔が首まで真っ赤に染まった。
彼女は下唇を噛み、プライドと羞恥心、そしてすでに耐え難い限界に達している背中の痛みの間で葛藤していた。
「北条先輩」
「部長として、明日の朝には完璧な姿を見せなきゃいけないんじゃないですか? こんな筋肉がボロボロの状態で帰ったら、明日は舞台の上に立って部員たちを引っ張ることすらできなくなりますよ?」
その言葉は、彼女の精神的な弱点を的確に突いた。
『氷の女王』は黙り込んだ。視線が揺らぐ。俺の言うことが正しいと、彼女自身が分かっているのだ。
非常に長く感じられた数秒間の後、北条先輩は深くうつむいた。
少し震える手で、着古したパーカーのジッパーを下ろして脱ぎ捨てると、そこには少し大きめの半袖の白いTシャツだけが残された。
「へ、変なことしないでよ……約束、だからね?」ほとんど聞こえないような声で彼女は言い、その顔は銀色の前髪の奥に隠されていた。
「整体の施術者として、解剖学の名にかけて誓います」
諦めに満ちたゆっくりとした動作で、北条舞――学校では常に毅然とし、冷たく、決して手の届かない存在である美しい先輩は――今、俺のリビングのカーペットの上にうつ伏せになって体を横たえた。
完全に無防備になり、まるで捕食者に運命を委ねる子羊のように、彼女は目をぎゅっと閉じていた。




