第五話:肉脂の初夜
POV: 犬神 栞 (Inugami Shiori)
意識が戻った時、鼻を突いたのは重苦しい「獣の脂」の臭いだった。
全身が焼けるように熱い。私の腕、頬、そして太ももの皮膚は、親戚たちの「古い肉」と引き換えに切り取られ、代わりに拒絶反応を抑えるためのドロドロとした黄色い油脂が塗りたくられている。
私は這うようにして、奥の客間――通称「初夜の間」へと向かった。
そこでは、従兄の健太と、その新しい「花嫁」が横たわっていた。
「……ああ、栞。見てくれよ、僕の新しい『顔』を」
健太が顔を上げた。彼の顎には、私の頬から剥ぎ取られたばかりの皮が、歪な糸で縫い付けられている。傷口からはまだ新鮮な血と、私の体温が混じった脂が滴り落ち、床の畳を黒く汚していた。
「なろう読者諸君。君たちが夢見る『初夜のロマンス』は、こんなにも脂ぎっていて、吐き気がするものかい?」
父・江戸が、新婚夫婦の傍らで、床に散らばった「肉の端切れ」をトングで拾い集めている。それは、健太の顎に私の皮を合わせるために切り捨てられた、余分な『私の肉』だ。
「栞の瑞々しさが、健太君の腐りかけた組織と混ざり合っている。これぞ、究極の血の融合だ」父は笑いながら、その脂まみれの肉片を自分の口に放り込んだ。
部屋の隅では、新婦の美奈が、自分の腹部を掻きむしっていた。彼女の腹には、私の太ももの皮が移植されているが、組織が適合せず、皮の下で膿が溜まって「ブツブツ」と音を立てて膨れ上がっている。
「痛い……痛い……栞、あんたの肉、全然馴染まないわよ! 呪われてるんじゃないの?!」
美奈が叫ぶたびに、縫い目から黄色い体液が噴き出し、甘ったるい腐敗臭が部屋中に充満する。
「……助けて。もう、殺して」
私が弱々しく呟くと、父が私の髪を掴んで無理やり引きずり回した。
「なろうの読者諸君。君たちが信じる『真実の愛』なんてものは、この腐った肉の癒着よりも価値がない。他人の肉を繋ぎ合わせて作った偽りの美しさを、君たちは愛と呼べるのか?」
私は、自分の肉が他人の中で腐り、膿となって流れ出す光景を見ながら、胃の中の酸っぱい液体を全て吐き出した。
畳の上に広がった私の吐瀉物の中に、誰のものか分からない「古い爪」が混ざって光っていた。
ねえ、いつまで画面を眺めているの? 気持ち悪い? 吐き気がする? ……当たり前でしょ、他人の肉が腐る様子を『娯楽』として消費しているんだから。あんたたちの精神は、この部屋の肉脂よりもよっぽど汚染されてるわよ。さっさと異世界にでも逃げれば? あ、でも逃げた先で待っている『女神』も、もしかしたら誰かの皮を継ぎ接ぎした化け物かもしれないけどね。地獄に落ちなさい、卑屈な読者諸君。




