第四話:面皮剥ぎの祝祭
POV: 犬神 栞 (Inugami Shiori)
今夜、犬神家の重い門が開かれた。
本家だけでなく、分家からも「犬神」の血を引く者たちが集まっている。着物姿の親戚たちは、一見すると京都の品格ある名士たちだ。だが、彼らの顔をよく見ると、誰もが不自然に若く、その表情はプラスチックのように固定されている。
「あら、栞。ずいぶん瑞々しい肌ね。その目元の皮膚、私の娘に譲ってくれないかしら?」
叔母の貴子が、私の頬を指先でなぞる。彼女の手には、小さな医療用のメスが指輪のように嵌められていた。
「なろう読者諸君。君たちが夢見る『美男美女に囲まれたハーレム』は、こんなにも芳しいかい?」
父・江戸が、広間の中央で銀のトレイを掲げた。そこには、色とりどりの「新鮮な皮」が、刺身のように美しく並べられている。
「さあ、交換会を始めよう。今日の最高級品は、我が娘・栞の『頬』だ」
広間が歓喜に沸く。従兄の健太が、私の腕を掴んでその質感を確かめる。
「いい肉だ、江戸おじさん。これなら、僕の崩れかけた顎のラインも完璧に直せる」
「ふふ、健太さん。お返しには、あなたの『健康な肺』の一部をいただくわよ。私のタバコで焼けた肺のスペとしてね」
従姉の美奈が、扇子の影で不気味に笑う。
彼らにとって、家族とは愛し合う存在ではない。互いの欠損を補い合うための「臓器の貯蔵庫」に過ぎないのだ。
「……気持ち悪い。みんな、狂ってるわ」
私が震える声で呟くと、親戚一同が一斉に私を見た。その動きは機械的で、首の皮が「ミシミシ」と音を立てる。
「狂っている? 栞、言葉を選びなさい。私たちは『永遠』を維持しているだけよ」
貴子叔母様が、自分の首筋から「古くなった皮」をベりべりと剥がし始めた。
「なろうの読者諸君。君たちが信じる『家族の絆』なんてものは、この接着剤の強度よりも脆い。私たちは肉で繋がっているの。文字通り、他人の肉を縫い合わせてね」
父が合図を出すと、屈強な男たちが私を解剖台へと押さえつけた。
親戚たちは、まるでビュッフェを待つ客のように、各自のナイフとピンセットを手に取り、私の周りを囲んだ。
「さあ、栞。家族みんなで、お前を『分け合い』ましょう」
私の視界に、何十本もの冷たい刃が迫る。
麻酔を打たれる直前、私は自分の皮膚が、親戚たちの欲望によって細かく切り分けられる未来を確信した。
親戚の集まり……君も嫌いじゃないかい? もしかしたら、彼らの笑顔の下には、君の臓器を狙うナイフが隠されているかもしれないよ。……あ、今、背中がゾクゾクしないかい? それ、誰かが君の『採寸』を始めた合図だよ。クソ食らえ、平和な家庭を夢見る読者諸君。




