表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/9

転生するなら普通ヒロインか悪役令嬢の2択じゃないの?

 ——私は、ただの“背景”だったはずだ。


「お嬢様、朝でございます」

「……あぁ、うん」


 聞き慣れない声に返事をしながら、ぼんやりと目を開ける。


 柔らかい光。

 やけに広い天井。

 やたら高そうなカーテン。


(……どこここ)


 身体を起こすと、違和感が一気に押し寄せる。


 手が小さい。

 部屋が広い。

 服が妙に重い。


「お嬢様? まだお疲れですか?」

「……いや、違うの、大丈夫よ。」


(疲れてるとかじゃない)

(記憶が“知らない人のもの”になってる)


 名前が、頭の奥に浮かぶ。

 エリシア・リー・ベルンハルト。


(えっと…誰…)

(え、本当に誰???)


 思わず声が出る。


「私、誰?」


 メイド達が一瞬固まり、困惑の表情を見せる。


「お嬢様はお嬢様でございますが……」

「いやそうじゃなくて」


(そうじゃなくて!)

(「お嬢様」じゃあわかんないわよ!)


 ズキッ…

 裂けるような感覚で途端に頭が痛くなり、頭を押さえる。

 じわじわと、“別の情報”が流れ込んでくる。


 貴族。

 伯爵家。

 社交界。

 学園。


(……あぁ、これ)

(詰んだやつだ)


 数分後。

 ようやく状況が整理できてきた。


(転生、してる)

(しかも貴族令嬢)

(で、問題は——)


 鏡に映る自分を見る。

 淡い金髪。

 整った顔立ち。

 でもどこか“背景っぽい”印象。


(あー……これ)

(主役じゃない顔だわ)


 その瞬間、なぜか納得してしまう自分がいた。 


(取り巻きモブだ)

(完全に)

(前世はエナドリが恋人だったから?転生するなら普通ヒロインか悪役令嬢でしょ…)

(取り巻きモブって何よ…)


「お嬢様、本日は学園へ初登校でございます」

「学園……?」


 その単語で、胸の奥が妙にざわついた。


(学園)

(なんか嫌な予感する単語ランキング上位なんですけど)


 馬車に揺られながら、窓の外を見る。

 整った街並み。

 貴族の屋敷が並ぶ区画。

 遠くに見える白い建物。


(あれが学園か)


 ぼんやりと眺めていると、周囲の会話が耳に入る。


「ねえ、聞いた?アルヴィン家のご令嬢」

「また我儘を言っているらしいわよ」

「婚約者も大変ね」


(……は?)


 思わず窓の外を見る。


(アルヴィン?)

(誰それ)


 でもなぜか、その名前に引っかかる。

 胸の奥が、ちくりとする。


(いやいやいや)

(関係ないでしょ私モブだし)

(今の私はエリシア・リー・ベルンハルトだし)


(え、でもアルヴィンってなんか……)


 頭の中でノイズみたいに記憶が浮かぶ。


 ——高慢な少女。

 ——完璧な立ち姿。

 ——周囲から浮く孤高の存在。


(……誰?)

(なんでそんな映像出てくるの?)


 馬車が止まる。

 降ろされた私は学園の少し手前程の位置から、歩き出す。


 学園門が見えた瞬間。

 空気が変わった。

 周囲のざわつきに、一箇所に集まる視線。

 期待と警戒。


(あ、これ“物語の場所”だ)


 そう理解した瞬間だった。


「またアルヴィン嬢の話?」

「怖いけど綺麗よね」

「でも近づきたくないわ」 


(……アルヴィン、アルヴィン、アルヴィン)

(さっきからそればっかじゃん)


 足が止まる。


(いや待って)

(まだ何も始まってないよね?)

(なんでそんなに悪評出てるの?)


 胸の奥がざわつく。


「……なんか、おかしくない?」


 思わず声が漏れる。

 誰も答えない。

 ただ、学園の喧騒だけが続く。


(モブとして生きる予定だったのに)

(なんでこんなに“物語の匂い”するの)

(てか私前世乙女ゲームとかもしてないし…小説とかも読んでなかったよ?)


 気づけば、校舎の前に立っていた。

 鐘の音が鳴る。

 新しい生活の始まりを告げるように。


(……まぁいいか)


 小さく息を吐く。


(とりあえず、授業受けて)

(平穏にモブとして生きて)

(帰って寝る)


 そう思った、その瞬間だった。


(……あれ?)

(今、なんか“忘れてる”気がする……)


 胸の奥が、ざわつく。

 知らないはずの誰かの顔が、脳裏をかすめる。


 高慢で。

 美しくて。

 孤高で。


(また……誰?)

(なんでこんなに気になるの)


 鐘が鳴る。

 学園の扉が開く。


 ——まだ何も始まっていないはずの世界が。

 少しだけ、歪んで見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ