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ないない


戦い勝利後強いやつ来る

へろへろなりながら倒す間際


『無様だなぁ〇月?』

『助けに来てくれたのかい』

『そんなわけなかろう?』

『人間に殺されるなんて、〇〇として情けないのだ』

『殺しに来てやったよ』

惨殺


コイツ……仲間を……っ!!


『さて……』

『小僧たちにはいい物をやろう』


やばい。こっちはすでにボロボロ

ここから戦うのは、自殺行為もいい所だ。


「隆」


未来小声


「一旦退却。私と隆で時間稼ぐ、その間に皆に逃げてもらって、体制を整える」

「……わかった」


後ろ手に皆で指示を出す

元より決めていた、もしもがあった時用の指サイン。

『逃げろ』


『しかし本当に、よくここまで追い詰めたものだ』


話し続ける〇〇と呼ばれた月に一歩地を踏み締め、蹴る!


『動くな』


──ぴし。


そんな、擬音語がピタリと合うような、俺の体の動き。


(なんだ……これ)


体が動かなくなってしまっていた。

全く。



『このチームのリーダーはお前だな? 相沢未来』

『お前が決めろ。この結末を』


「てめぇ……」


みんなバラバラ

隆の前に敵くる


『お前は放っておくと面倒そうだからな。ここでワタシが始末してやろう』


戦いながらテレビで見る


『いいじゃないか、一番選びやすい組み合わせにしてやったんだ。何も文句はあるまい!?』

「だまれぇえええ!!」


『今ここでてめぇを殺せば、アイツらが選ぶ必要もない!!』

『いいねぇえ。殺せると思うのか? そんな体で、一人で!!』




チリン


はっ


『時間だね?』


見る

血が滴っている。


『さあ、結末を一緒に見ようじゃないか』


折れた腕羽交い締め


「がっ……!」

『動かない方がいい。それ以上動いたら完全に動かせなくなるよ?』


見せられる




『だったらそこの男に調べさせたらいい。メカに強いんだろう?』


 死人がニヤついて言う。

 二人は目だけでお互いを見る。未来が小さく頷いて、死人の方を見上げた。下手な動きができないよう見張る為に。


『良い良い。別れの時間ぐらい二人にしてやろう。我は残り二人の様子を見に行く』


 そう言って死人は彼女らの元を去った。二人だけの空間に、緊張が走る。

 斎が服のポケットからサイコロを出す。サイコロの目のボタンを何回か押して、膨大な数値が書かれた透明のパネルに、目にも留まらぬ速さで更に数値を打ち込んでいく。

 パネルを触るポンポンという音が、緊張が走る空間に響いて消えていく。


 全てを終えたらしい斎が、その重い口を開いた。


「……奴の言う通りだ、相沢」

「……」

「この枷…どっちかを選ばない限り、どっちも首が落ちるようになってる」


 答えない未来に、斎が事実を述べる。


「俺たちのどちらかが、死ぬしかない」


 その答えを急かすかのように、自分の首にくい込み始める枷を少し触って、未来は斎の顔を見た。覚悟を決めたような、鋭い目をして。


「他に方法無いの?」


 二人の首から、血が流れ始める。


「俺が言うんだぞ。あると思うか?」


 メカに強い斎の言葉に、嘘があるはずがない。

 沈黙が流れた。


「気付いてんだろ、相沢」

「…何が」

「俺に隠し事出来ると思うなよ」


 言いたくないとばかりに、未来は目線を落とす。手が、震えていた。


「大丈夫だよ。キューブは…俺じゃなくても造れる時代だ。キューブ以外の戦いに必要なものだって、親父や他の研究員がどうにかしてくれる。研究関連の事だって、秀がきっちり引き継いでくれるから」


 彼は悟っていた。これは、悩むような案件ではないことを。


「この世界に、俺たちのどっちが必要かなんて…明白だろ?」


 無言でいる彼女に、斎が笑って言った。


「正しい判断をしろ。相沢」


 いつも通りの、可愛い笑顔で。


「…そうだね」


 彼女は下に向けていた青い瞳を、真っ直ぐに彼に向ける。


「…ありがとう、斎」


「うん」





 そして、その残酷な言葉を突き付けた。






「死んで」





「…うん」


 彼もまた、その残酷な言葉を…笑顔で受け入れた。

 その直後、未来の首にある枷が外れる。


「ッ!?」


 斎の体の至る所に枷が増える。


「がッ…!」

「斎…ッ!」




 体中の枷が…腕に、足に、胴体の枷が、彼の体へ無慈悲に食い込む。血が溢れる。心臓が悲鳴をあげて、鼓動を早くする。送り出された血が、ちぎれそうになった四肢から溢れて、溢れて、滴る。


 未来がその体を支え、大丈夫だと、すぐに楽になるからと言うように抱きしめた。




「…ッ、あい、ざわ…」


 彼は痛み苦しみで途切れそうな意識の中、彼女に告げる。


「おれの、からだ…全部、持って帰って」


 その目に、涙があふれる。


「どれだけ、バラバラになっても…ッ」


 必死に言葉を紡ぐ。


「どれだけ、ボロボロになっても…ッぜんぶ、ぜんぶ、もってかえって…」


 それは彼の、最後のわがまま。


「忘れず、ぜんぶ…もってかえって」


 流れる涙が、彼の最期を語る。


「うん…大丈夫。全部、連れて帰るから」


 彼女の目にも、大粒の涙があふれる。


「どんな状態になったって、斎の全てを連れて帰るから」


 流れる彼女の涙は、頬を伝って斎の顔へと落ちていく。


「…泣かないでよ、相沢…」


 斎は痛みに耐えながら、渾身の笑顔で言った。


「最期ぐらい、笑って見送ってくれ…」


 その顔に、彼女は泣くのを必死に堪え、笑顔とは言えないぐらいの、悲しく綺麗な笑みを浮かべる。今この瞬間にできる、全力の笑顔。


「…そう。もう、この先、おれの、ことで泣くなよな」


 力が。


「俺が、のぞんだ、ことだからな」


 力が、抜けていく。


「この先、ずっと…つよく、生きて」


 それでも、そのボロボロの腕が、手が。


「うん…約束するよ」


 彼女の濡れた頬に添えられる。


「斎…」


 その手をそっと彼女の手が包み、優しく握られる。


「大好きだよ。斎」


「……」


 虚ろな目をした斎が、その口元をほんの少し動かした。声にならない、小さな小さな返事。その返事は彼女の耳には届かない。それでも、彼は満足そうに笑った。


 目が閉じていく。口がほんの少しだけ開いたまま動かなくなる。体にあるはずの血が流れて、谷川斎だったはずの重みが消えていく。

 ゆっくり死へと堕ちていく彼を、首に残る最後の枷が、とどめをさした。

 肉の裂ける音とともに、更に彼の重みを奪う。


 膝から下が落ちる

 胴体が落ちる

 そこについている太ももが落ちる

 腕が落ちる


 ぜんぶぜんぶ落ちる


 彼女の腕に残ったのは、怖さも、痛みも、苦しみも、全て無かったかのような…優しい優しい、微笑んだ彼の首。


「大丈夫」


 掠れそうな声が響く。


「絶対連れて帰るから」


 泣きそうになるのを必死で堪える。


「全部、連れて帰るから」


 悲しみでいっぱいの心に鍵をして。


「一滴残さず、連れて帰るから」


 それが、彼にできる唯一の弔いなのだと、その心に言い聞かせた。





『……ま、そうしか無いよなぁ』

『相沢未来が死ねば、ワタシたちを殺すなんてできなくなるもんなぁ』

『研究しか脳の無いヘボ戦闘員なんかよりは』

『戦える者が生き残る方がいいよなぁ』

「あぁああああああああっ!!!」


反撃


水が周りを這う


新手……いや。

隆の周り守るように


『な、なんだ、これは……!!』


水、相手を水にしていく


『まさか……! あんな……あんな、一番弱いだろうやつにこんな……っ!!』


最後の抵抗

斬る


「あいつは、弱くなんかない」

「あいつは……谷川斎は!! 誰よりも強い心を持った戦士だ!!」


討伐





帰ろう

「これが、最善だったの?」


「うん。そうだよ」


「斎が死ぬことが、最善だったの?」


「うん。そうだよ」


「斎の力を利用して、死人に勝つことが、本当に最善だったの?」


「うん。そうだよ」


「…ッ……!」


秀が未来の胸ぐらを掴む。


「秀…」


「ごめんなさい」


「本当に…ごめんなさい」


泣く


「なんでそんなに普通なの」


「悲しくないの」


「泣いたり、しないの…?」


「……」


「泣かない」


「ああそう…」


「薄情者」


びくっ


「秀、お前…」

「そうだね」


「私は、薄情者かもしれないね」


「人が死ぬのは、当たり前のことだと思ってるし」


「死人を確実に倒すために仲間を殺すのは」


「必要不可欠だと思ってるよ」


「ッ!!」


胸ぐら掴む 壁押し付ける


「秀!!」


隆一郎引き剥がそうとする


「僕は!!」


「僕は…っ!相沢が、誰より死人にきちんと向き合ってることを知ってる!」


「それが奴らへの慰めになる事もわかってる!だけど…っ!」


「人を守れないなら、そんな同情心はいらない!!」


「」


「帰ろう、みんなで」




「帰ろう…斎」





みんなで、斎を必死にかき集めた。

斎であったはずの、その液体を。



その後のことは、よく覚えていない。


何を思っていたのか、何を考えていたのか。

何を話していたのか、もしくは何も話さなかったのか。

ただ、本部に報告に行って、その後谷川夫妻の元へ行った。

未来が、何があったのか淡々と告げ、頭を深く下げた。俺も秀も、頭を下げた。

二人は誰も責めることをせず、ただ、帰ってきてくれてありがとうと。連れて帰ってきてくれて、ありがとうと、涙を流して言った。



 僕は、昔から女の子が苦手だった。

 何がという訳じゃない。漠然とした気持ちだった。

 だけど母親だけは普通に接することができた。

 生みの親だからだろうか?

 それとも、一緒にいる時間が長いせいだろうか?

 理由はよくわからないけど、甘えたい盛りの僕はよく抱きついては子どもなりに構って欲しいって訴えてたっけ。

 優しく人情深い母は、いつでも僕の事を大事に思ってくれていたと思う。

 どんなときも、笑顔で接してくれていたから。


 父は、厳かな人だった。

 礼儀作法に厳しくて、寝ぼけながら起きておはようが言えなくて、それだけでも怒られたっけ。

 だけどその分まっすぐ生きていくための力みたいなのがついたと思うし、何より厳しさの中に愛情が感じられる人だったから、嫌いになったりしなかったし、寧ろ大好きだった。

 だけど、欠点が一つあるとすれば、研究に没頭するような人だったことだと思う。

 僕と同じように、当時の研究のリーダー、谷川夫妻の補佐について、色々頑張っていた父。

 斎がキューブを開発してことで、「なら秀も」なんて簡単に研究の世界に足を踏み入れることになったときは、さすがに驚いたな。


 だけど父も母も忙しい人だったから、わがままはあんまり言えなかったし満足に甘えることはできなかった。

 子供心に理解していた。忙しくしているのは僕を育てるためであり、国を守るためであると。

 だから甘えちゃいけないんだ。いい子にしていなくちゃ。あんまり困らせることはしちゃダメなんだ。


 寂しかったけど、わざわざそれをいうことはなかった。

 それでもあの日。あの日だけは、なぜか歯止めがきかなかった。

 口が思うままに動いて、体が勝手に家を飛び出していった。


 忘れもしない。  歳の誕生日。

 母がケーキを買って帰ってきてくれると聞いていた。

 父は誕生日プレゼントを買ってきてくれると聞いた。


「今日は早く帰れるから、学校が終わったら研究には来ないで家で待っていなさい」


 優しく笑って今日の予定を語ってくれる父に、飛び跳ねるほど何度も嬉しいと気持ちを伝えた。

 僕の誕生日を祝うために早く帰って来てくれる。

 こんなに嬉しい気持ちは今まで感じたことがなかった。

 今までは忙しさで、あんまりお祝いらしいお祝いなんてされたことがなかったから。

 浮だつ気持ちを隠すことなく学校に行って、斎にどうしたのと尋ねられて、自慢するようにことの経緯を話した。

「そっか。良かったね」

 笑って、楽しい誕生日会になるようにと念を送ってきて、僕も笑った。


 帰宅して、リビングにある戸棚の中から  本の蝋燭を取り出した。

 ケーキを買った時にくっついてくるかもしれないことは念頭になく、今日はこれを自分でさして、火は一吹きで消して、二人を驚かしてあげるんだ。

 そう思って、時計と睨めっこすること七時間。

 もう後数時間で夜中になってしまう。

 父さん、母さん、帰って来ないな。

 手に持った蝋燭は片時も離すことはなく、握りしめすぎて暖かいを通り越して熱くなっていた。

 さらに時間が経って深夜、零時を回る。

 もっと前におかしいと気付くべきだった。

 早く帰って来れると父は言っていたのに、なぜ帰って来ないのか。

 母は、今何をしているのか。


 お腹がすいた。

 すごくすいた。

 二人とも、今どこ?


 お腹をぐうぐう鳴らせながら頑張って待っていたさなか、やっと誰かが帰ってきた。

 がちゃ……小さな、いつもとは違う、不自然なほどに静かに開くドアに、おかしいと気付くべきだった。

 寂しくてたまらなくて、早く顔が見たくて。そんなことを気にする余裕もなく、ただ無邪気に玄関へと駆けた。

「おかえり!!」

 嬉しくていつもより大きな声で言った。

 ──だけど、ただいまの言葉は返っては来なかった。

 帰ってきたのは、父だった。

 父の顔だった。

 真っ赤に染まった父と、その体を這うようにして小さな青い瞳の虫たちがまとわりついていた。

 父であり、父ではない。

 気が付いた。死人に殺され、死人に操られてここまでたどり着いたこと。

 死人に操られて鍵を開けて、僕を殺しにきたこと。

 手に持っているのは、まぎれもないぼくのたんじょうプレゼントとであること。

 はやくかえろうとしていたのだろうことを、ふぁすなーがしまりきっていないかばんがおしえていた。


 どうしたらいい。

 どうしたらいい。

 ちちをたすけたらいいのだろうか。

 どうやって?

 こどものぼくがどうやって?

 ちちはもうしんでいる。

 ぼくをころそうとしている。

 ちちでないものがちちのからだをつかってぼくをころそうとしている。


 頭の中は真っ白。

 その場から体は微動だにしなかった。

 虫が這う父の腕が動いて、僕の頭を鷲掴みにして持ち上げた。

 抵抗なんてできなかった。

 ただただ父が絶対にしないような表情で、僕を食べようとしているその行為に、カタカタと震え、体の自由は失われていった。

 父の口が人間だと思えないほどに大きく開いて、僕を丸呑みにしようとしてきたその時、力いっぱい彼の体に体当たりした一人の男の子。


「いつ、き……」

「秀! 抵抗しろ!」


 臆病な彼は、言葉と行動の果敢さとは似合わない、眉尻の下がった恐れの表情で死人となってしまった父を押さえつけていた。

 だけど子供の力というのは貧弱なもので、人間でないものの力には決して敵わない。

 猫の首根っこを掴むように、父は斎をひっぺがして、品定めをするように上から下へと視線を辿らせた。

 ……恐怖。それしか、なかった。


「離せ! 離せよ秀のおじさん!」


 それて、じたばたとする斎を見て、どうにかしなきゃと思った。

 それが元は父であったものだったとしても、今はそうではない。

 父は死んでしまった。

 ここにいるのは、父ではないのだから。


 おもむろに傘置き場に立てかけた野球バットに手を伸ばす。

 斎の事を見続ける()()に、静かに近寄った。

 もう、後には引けない。

 今現在守るべきもののために。

 大事な友達のために。

 僕は──父親だったものにバットを振るった。


(ばいばい、父さん)


 さよならすらも満足に言わせてはもらえず、ただ無心でバットを振るい続けた。


「約束したもんな」


俺が死人に乗っ取られたあの時に。


『僕らがもし同じようになっちゃった時、助けてくれたらそれでいいよ』


「約束…果たすときがきたよ」


「なあ秀」



「戻ってこい」



『僕の気持ちなんかわからないくせに!!』


「ああわからないよ!」


「人の心なんて他人が100パーセントわかるわけねぇだろうが!!」


「だけど、俺たちは友達だ!」


「ダチにぐらい、自分の弱さを隠すんじゃねぇよ」


「辛いんだって、言えよ!!」


「ひとりで強がってんじゃねぇよ馬鹿野郎!!」


「わかるよ」

「わかるっつってんだろ!!」

「友達を失う気持ちも、自分の不甲斐なさも、わかってるよ!!」

「けど俺らは乗り越えるしかない、生き残った奴が戦わなくちゃいけねぇんだよ!」



「ねぇ、未来ちゃん」

「どうして幸せになりたい人が一番不幸に近いのかなぁ」

「そんな世界を覆すために、あなたはマダーになったんだよ」

「キューブが加奈子の願いを聞いた。諦めるのはまだ早い」

「もがこう。あなたの理想にたどり着くまで」


「土屋、もしかして……誰か同じように友達が死人かしたのを見たことがあるの?」

「だから今回僕を元に戻すことができたの?」

「……その話はしたくない。ごめん」

「でもこれだけはわかって欲しい。他の誰かを救えなかったからお前をたすけたんじゃない、お前を助けたいと思ったから助けたんだってことを」


ちらっと目があった未来は、何故か、恐怖の真髄でも見たかのような表情をしていた。



「相沢未来がこの世界に居ていい理由ぐらい、俺が証明してやるッッ!!」


「だからっ…」


逃げるなよ


「自分から目ぇ背けんじゃねぇよ!!」


独りで背負ってんじゃねぇよ


「自分のひとりの罪にすんじゃねぇよッ!!」


「なんで、頼ってくれねぇんだよ」



止めるも投げ飛ばされてあんぐり。冷たい目で出ていく


「伝えない私も悪いよ……でもね」


「伝えられない立場ってあるんだよ」


「隆にはわからないでしょ?前を行く側の気持ちなんて」


「もう話しかけないで」


それは、人生で初めての、未来からの『拒絶』だった。






「あんな言い方して、隆一郎きっと気に病むよ」

「……仕方ないじゃない」


「あれが、最善なんだから」


頭を撫でる


「辛いね」


必死に気持ちを押し殺しているこの子が考えているのは、隆一郎をいかに傷つけないようにするかではなく『この国を守るためにすること』そして……『土屋隆一郎を絶対に生かすこと』だろう。


「……未来」


「わかってるね?無理だと思ったその時は」

「大丈夫。わかってるよ」


「……そのために、凪に協力してもらってるんだから」



谷川斎(Emotion)

『だったらそこの男に調べさせたらいい。メカに強いんだろう?』


『良い良い。別れの時間ぐらい二人にしてやろう。我は残り二人の様子を見に行く』


 嘘だ


「…奴の言う通りだ、相沢」


 こんなの、嘘だ


「……」


「この枷…どっちかを選ばない限り、どっちも首が落ちるようになってる」


 ふざけんな


「俺たちのどちらかが、死ぬしかない」


 ふざけんなよ


「他に方法無いの?」

「俺が言うんだぞ。あると思うか?」


 殺させるわけないだろ。


「気付いてんだろ、相沢」

「…何が」


 あくまでシラを切るか…

 まあ、そうだよな


「俺に隠し事出来ると思うなよ」


 言いたくないよな


「大丈夫だよ。キューブは…俺じゃなくても造れる時代だ。キューブ以外の戦いに必要なものだって、親父や他の研究員がどうにかしてくれる。研究関連の事だって、秀がきっちり引き継いでくれるから」


 この先…戦闘経験の浅い俺は足でまといになる

 どちらにせよ、俺はそのうち死ぬんだよ

 だから


「この世界に、俺たちのどっちが必要かなんて…明白だろ?」


 大丈夫だよ


「正しい判断をしろ。相沢」


 俺は大丈夫

 だから、間違えないで


「…そうだね」




「…ありがとう、斎」


「うん」


 辛い役目だろうけど






「死んで」





 そう。それでいい



 なあ相沢


 どうか、どうかそのままでいて


 そのまま


 そのまま、残酷な先導者であり続けて


 その残酷さは、周りの人間を助ける武器になる


 周りの人間を助けられる強さなのだから


 だからどうか、どれだけ周りから非難されようと、ずっとずっと…残酷なままでいて



「…うん」


 相沢


 ごめん


「がッ…!」

「斎…ッ!」


 ごめん、枷が増えること、言わなくて


 だってお前、こんなグロテスクな死に方するってわかったら…迷うだろ?

 嫌だって、言うだろ?



「…ッ、あい、ざわ…」


 痛い


「おれの、からだ…全部、持って帰って」


 痛いなあ


「どれだけ、バラバラになっても…ッ」


 でも伝えなきゃ


「どれだけ、ボロボロになっても…ッぜんぶ、ぜんぶ、もってかえって…」


 これだけは、伝えなきゃ


「忘れず、ぜんぶ…もってかえって」


 お願いだから、俺を忘れていかないで

 何ひとつ、俺を忘れていかないで


「うん…大丈夫。全部、連れて帰るから」


 …なみだ?


「どんな状態になったって、斎の全てを連れて帰るから」


 …相沢


 俺のために泣いてくれるの


 俺のためだけに、今、泣いてくれてるの?


 嬉しいよ、凄く


 でもごめん


「泣かないでよ、相沢…」


 笑顔が見たい


「最期ぐらい…笑って見送ってくれ」


 俺も笑うから


 笑って


 笑ってよ、相沢


「…そう。もう、この先、おれの、ことで泣くなよな」


 …もうそろそろダメみたい


「俺が、のぞんだ、ことだからな」


 力が入らない


「この先、ずっと…つよく、生きて」


 でももう少しだけ


「うん…約束するよ」


 もう少しだけ頑張って、俺のからだ


「斎…」


 この子の涙だけ、拭ってやりたいんだ


「大好きだよ。斎」


 …俺も


「……」


 俺も、大好きだよ

 多分、俺とお前の好きは、違う好きだけど

 でもじゅうぶん

 最期にその言葉が聴けて、良かった


 ああ、首がそろそろ落ちる

 くい込んできてる


 あー…痛いなあ


 死ぬの、こわいなあ


 でも…お前守って、お前の腕の中で死ねるなら、そう悪い死に方でもないや



 …だけど


 できれば秀には

 お礼と、別れの言葉ぐらい言いたかったな

 先に死んで、ごめんって

 いつも隣で支えてくれて…ありがとうって


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