パラレル、今後使えるかもシリーズ
「くっそ、キリがねぇ!」
倒しても倒してもどこから湧いてくるんだというほどのヘビの大群を討伐しながら走り続ける。
立て続けに噛みついてくる奴らを側転で躱してから【炎ほのおの槍やり】で貫いて倒し、ポケットに手を添え斎に渡された物がちゃんとあるかを確認した。
『まだ完成には程遠くて、長時間使うなら問題だらけなんだけど一時間程度なら持つはずだから』
つまり短時間でどうにかしなきゃなんねーけどと、そこだけ心配そうにしていた斎を思い出す傍ら、更に周囲から飛びかかってくるヘビを俺は薙ぎ倒していく。
(どちらにせよ長引けば俺たちだって体力的にキツくなるんだし、長期戦ができないのは変わらねぇ。やるしかねーよ)
体育館から大分離れ、もうそろそろいいかと踏んで【爆破ボム】を使い纏めてヘビを焼き払う。
広範囲の攻撃でやっと全てのヘビがいなくなり、急いで秀と合流すべく【花火はなび】を使おうとすると、「あああああああああ!!」と珍しい大声が聞こえた。
声がする方角を見てみれば、校舎の崩れを利用して技を使わず屋上まで登っていく秀の姿があった。
「まじか、やるなあいつ」
思わず感心していると今度は死人からの反撃があったようで秀は危うく落ちそうになったが、それでも彼は死人に何か叫んでいた。
「もし戦意喪失してたらどうしようかと思ってたんけど……やっぱすげーな。こっからでもわかるぐらい笑ってやがる」
なら上等。力を尽くしてくれた長谷川のためにも、反撃開始といこうじゃねぇか。
「【火柱ひばしら】」
何を言われたのか怒っている死人の真下から炎を円柱状に立ち上らせる。
こういう時こそ心臓を狙えたら良かったのだが、危険を感じて体内へ収納されたのかもう露出しておらず直撃はできなかった。
それでも体全体を覆う炎は十分ダメージに繋げられたらしく、死人は悲鳴を上げ水を生み出して逃げていく。
勢いに巻き込まれ流されてしまう秀を【花火はなび】を使って瞬時に合流して支え、水の影響がないらしい校舎内へとすぐに避難した。
「遅くなって悪い。平気か?」
床に足がついてから抱え込んだ状態だった体を放してやると、秀は乱れた息をしながら勢いよく床に尻をついた。
元・違い▶︎未来キューブ対未来
支部会議。各都道府県の司令塔が集まって死人に対する報告やこれからの動きを論議する場とあって、とても重要な会議であるのだが、凪はこれがどうも苦手だった。
理由は今口にしたように、周りから見れば単なる子どもであるから。
忙しい司令官の代わりに出席する場合も多く遠征で全国各地を飛び回っているために、顔は認識され、その手腕も認められてはいたが、各県の代表から見れば三十歳以上年下になる。そんな若輩者が司令官の代わりなど務まるものかと、業務ストレスのはけ口として言葉で嬲られることも少なくなかった。
(まあ今日は司令官がいてくれるし、今回は大丈夫かな)
「嬉しそうだな?」
「ふふ、ごめんなさい。でも……あそこだけは本当に、嫌いなんですよ」
「でも今日でそれも終わり。恵子ちゃんに言ったんだ、縁を切ったって」
「そうなのか?」
「うん。次の繁忙期は世良らんが入ってくれる予定だよ」
「世良らん……」
いいのか、吉住。世良らんで。
「この間お祓いを一度させてみたんだけどさ。あの子すごく筋がいいよ。いい子紹介してくれてありがとうって、未来ちゃんに伝えておいてくれる? 後で私からも改めて言うから」
「土屋君、未来ちゃんに何したの!!」
めっ
「か、加奈子大丈夫だから!」
「ダメだよ!! 未来ちゃん顔真っ赤。何かしたんでしょ! なのにずっと凛ちゃんと話し込んでるなんて!」
ずい。やめろばか離れろ。当たる。当たるから。お前は自覚がないのか。
retake.2
「土屋……ワレ、相沢さんに何しよったんじゃ」
「アホウが!! 男なら女の子泣かせんな! 相沢さんにきちんと謝れチビ助ぇ!!」
「は!? 俺どっちかっていうと高い方……って、え?」
泣かせ、んな?
ばっと未来を見る。未来もこちらを見ていた。
顔は真っ赤だが泣いてる様子は見られない。
「か、加藤君泣いてないってば……」
「嘘じゃ!! ワシはしっかり見た。目が潤んどった!! あれは涙じゃ!! わかったらはよ謝れ土屋ァ!!」
「うお!?」
加藤が俺の制服の襟を掴んで勢いよく未来の方へと投げた。
軽々と動かされたことにびっくりした。
そうだこいつ、柔道やってたんだった。パワーすげぇ。
「【回禄かいろく・連れん】」
とてつもなく分厚い炎の壁。本来なら動きにくくなるからこんなにも厚みを作ったりはしないんだけど。
「無駄だよ、つっちー。守ったところでアタシの風は止まらない!」
「ああ、そうだな」
止めるつもりなら、な。
【回禄かいろく】の中にある酸素が減っていく。
火が酸素を食う。食って、燃えて燃えて。一酸化酸素を作り出す。
(吸うなよ、俺!)
息を止める。
炎の壁の中に一酸化炭素を溜める。
長谷川の風が、五連になった【回禄かいろく】を刻み、穴を開ける。
その瞬間を俺は見逃さない。
「【バックドラフト】!!」
「いっ!?」
ドオォォォォンッ!!
長谷川の短い悲鳴の刹那、大爆発が起きた。
開けられた【回禄かいろく】の穴から長谷川に向けて避けるのが不可能なほどのスピードで火が噴出する。
バックドラフト。家事の現場なんかで起きることがある、爆発的に燃える現象。
密閉された空間で火災が起きると、空気不足から火の勢いが衰えて、このとき扉を開いたりすると急激に空気が流れ込んで、爆発する。
【回禄かいろく】で密閉空間を作り出し、中の酸素を火で急激に吸わせ、長谷川に開けられた穴から酸素を一気に中へ入れることで、それを再現した。
「迷惑かけてごめんなさ……って、おい! 何すんだよ!?」
「いやぁ、らしくないなーと思ってな? なんだそのしおらしさは。いつものツンケン土屋はどこいった?」
「おーい」と通常運転の俺を呼びながら、持ち前の剛力で頭をぐりぐりと撫でる世紀末先生。
「なぁ加藤? お前さっきの休憩中いなかったじゃんか。どこ行ってたんだ?」
「トイレじゃ。汗ふきシート使いすぎて冷えたんかして、腹壊しての」
「何やってんだよ……」
66パラレル・球技大会閉幕と課題
「【風貌】」
にゃー
弱くなるからすぐやられる
長谷川って……案外バカなんじゃないだろうか。
「【接木つぎき】」
「うお!?」
急に未来が俺の前に現れて、飛んできた二つ分の風車かざぐるまを未来の改の【木刀ぼくとう】が切り裂いた。
何事かと思えば、俺の左肩に植物の芽が生えていた。物理的に移動手段である草木を俺に作り出して、こちらまで瞬時に移動してきたらしい。
70パラレル・未来VS凛子があれば?
「【オイル】」
油
水の中自由になる
「なにから!?」
「油があると火は一気に燃えるんだよな」
「火事と言えば、油……ってな?」
「あっ、あれじゃないかな?」
未来が見つけてくれて、その方にみんなで駆け寄った。
近づくと鮮明になってくる、なんだか様子のおかしい秀の姿。
立ち尽くしたように動かない秀を不審に思いながら、俺はおーいと少し大きめの声で呼びかけた。
するとこちらに振り向いた秀の、青い顔。
目を見開き、【可視化アイスコンタクト】がついた茶色の瞳がよく見える。
口が縦と横に、一回ずつ動いた瞬間──
「 」
声をかき消したのは周りが何も無くなったかのような錯覚を覚える大爆発、その轟によるもの。
地面が揺れる。立っていられない衝撃と地割れ。
合流する。みんな動かないで」
俺たちから少し距離を取ってしゃがんだ未来は、ヒビが沢山入った地面に手を添える。
「【森林しんりん】」
親指の第一関節ほどの木を地面に生み出して、未来を中心に広がろうとした刹那。
木の代わりに、無数の白く細長い腕が生えた。
「【火の粉スパークス】!」
咄嗟に未来の周りへ火の粉を散らす。
自分のものでない技が生み出され驚く未来を襲おうとしていた気持ちの悪い腕たちは、火から逃れるように地面へ潜る。
「……ありがとう」
未来が立ち上がり、 顔を上へ向けた。
「ね、ねぇ……土屋君。あ、あれ……」
震える声で阿部に 、上空に目を向ける。
今追い払ったものと全く同じ、白くて細長い、幽霊を思わせる腕が隙間なく空を多い、俺たちに向かって伸びてきていた。
「な、なんだよあれ。俺っ、キモイの、無理。ぐろいのも、お化けもっ!無理!」
カタカタと体を揺らして する斎。同じく苦手らしい阿部もへたりこんでしまう二人へ、急速に腕が迫る。
「【回禄かいろく】」
炎の盾を二人に纏わせる。
「じっとしてろ。【爆破ボム】!」
「【鎌鼬かまいたち】!」
「【光線レイ】」
三者三様で攻撃。すぐに消え去るものの、すぐに新たな腕が生まれてくる。
「【木製銃もくせいじゅう・刃やいば】」
横に投げてブーメランのように周りの手を破壊。
「【《サフラン》】」
【回禄かいろく】が溶けだして、炎自体が腕へと成り代わる。
「【氷像ひょうぞう】、呪符!!」
「あ、秋月君……」
間合いへ入ることを許さない。
ただ、死人の快楽の声と衝撃音だけが認識できた。
『きははっ!いいねいいね。やっぱり強いヤツとやるのはいい!!』
79パラレル・ハズレ⑥(それでも一人で戦おうとした場合)
「【木製銃もくせいじゅう】……ッだん!!」
一撃。未来の渾身、植物のエネルギーを凝縮した一つの弾が死人へ向かう。こちらに迫っていたエネルギー弾を相殺するよう放った。が。
もとより苦手な遠距離攻撃、そこに追加された焦りと、痛みで上がらなくなった腕。
照準がズレているのが打った瞬間にわかった。
当たらない。残り、一センチが。
「あっ、ぐっ……!」
出したくもない悲鳴が漏れる。
銀のエネルギー弾が右腕に接触、肩からもぎ取られた。血が吹き出る。体力ゲージが減少する音がする。
残り二割を切っていた。
『あはっ、あははははっ!!』
『隆一郎』
「……はい」
優しく、けれど真剣な声で俺に呼びかけた凪さんは、一呼吸置いて俺に問いかけた。
『帰らなくても、大丈夫だね?』
勝てると信じてくれている。
「大丈夫ですよ。相手わけわかんないくらい強いですけど、倒せなかったら凪さんの課題なんて絶対クリアできないので」
『ふふ、さすが。肝が据わってる』
「誰が師匠だと思ってるんですか?」
86パラレル・ハズレ(暴走版)
89パラレル・朱雀(加奈子が来ないバージョン2)
「【哀かなしみを知しる】」
死人元に戻す
「【お清め】」
「ほらね、未来さん。哀しいだけの死人なんて、ひと握りしかいないんですよ」
「だからわたしは、反対しているのですよ」
(なあ、キューブ。なんだかんだで付き合い長いんだよな、俺ら)
キューブに語りかけた
「力貸してくれよ。みんなを守れるようにさ」
ギリギリ当たったんだろう俺の赤っぽい髪。ふぁさっと床に落ちてきたから、恐る恐る持ち上げる。
……もちろん、冷や汗。
「覚悟はできてんだろうな長谷川さんよぉ。年頃男子にダサいって禁忌ワード出してくるったぁ、いい度胸じゃねぇか」
「だってダサいもん」
「真顔で言うんじゃねぇよっ!!」
「お前が誰かに命令を受けたのは知ってる。未来がお前になにかしてしまったのもわかる。けど、未来は……最初から、お前を理解しようとしていたはずだ」
「今だってそうだよ。先陣切って、お前の幸せを願って上に噛み付いた。お前をできるだけ、◼️って」
「お願いだ卯月。未来を殺さないでくれ。俺は、お前を恨みたくない」
「【木製銃もくせいじゅう】……ッだん!!」
一撃。未来の渾身、植物のエネルギーを凝縮した一つの弾が死人へ向かう。こちらに迫っていたエネルギー弾を相殺するよう放った。が。
もとより苦手な遠距離攻撃、そこに追加された焦りと、痛みで上がらなくなった腕。
照準がズレているのが打った瞬間にわかった。
当たらない。残り、一センチが。
出したくもない小さな悲鳴が漏れる。
銀のエネルギー弾が右腕に接触、肩からもぎ取られた。血が吹き出る。体力ゲージが減少する音がする。
箱の炎で燃やされる。
もしくは氷点下冷凍される
「……僕に炎で対抗するなんていい度胸だね」
出てくる
「僕の相方が、最高に強い炎使いだってこと忘れてない
自分と相性の悪い相手への対処法ぐらい、考えてない訳ないでしょう」
アイスコンタクトの説明改めて
相手の表情読み取るいきる
「勝った。そう思ったでしょう?」
「勝利を確信した顔……このギリギリのせめぎあいの中でそんな顔ができるとしたら、ここしかないよね」
CPの表情の変化など無に等しい。しかし 鍛錬の成果と、最善を見せる【可視化アイスコンタクト】の効果が、秀を神の領域へと導いた。
「王手おうてだよ」
ただ──
『バッカじゃないの?』
それさえも覆してしまうのが、強敵と呼ばれる存在である。
死人にも上下関係がある。人間みたいに。
そして、そういう格差が出来上がるほどに、奴らは『組織』として成り立ち始めている、ということ。
俺の知らないところで、奴らは勢力を増している。
力の強い『ウミツキ』という存在が、どこかに潜んでいるということだ。
打ち付けた背中がビリビリと痛む。
頭に至っては出血したらしく、頬まで何かが伝う感触がした。
「あっ、ぐ……!」
ドスッ、ドスッと、嫌な音が何度か体から響いた。
左肩と胴体の右側。避けられると予想していたのか、起き上がった瞬間空中から剣の追撃にあった。
突き刺さった剣から血が滴り落ちて、赤い水たまりを作り始める。僅かだった出血が大量に変わる。
(まずい。今のは、まずい……!)
自分の息が乱れているのがよくわかる。
刺突に合わせて体力ゲージは大幅に減少して、出血の度にじわじわと削れていく。
動こうにも動けない。力を入れたいところに剣が刺さっているから、ほんの少し体が動くだけでも耐え難い激痛が走る。
【痛み無しノーペイン】はもう頼れない。ゲーム内には薬もない。
「くそ……」
絶叫を覚悟に、刺さった剣の持ち手を握る。
「俺さ、結衣博士も哲郎博士も名前と斎の両親なのは知ってるんだけど、面識はないんだよな。どんな人?」
「実は私も会ったことないんだよ」
「マジか」
「ん。基本的にはあいか先生を通してやり取りしてるから、顔も性格も全然わからない」
「ちなみに未来さんよ。結衣博士、どんなひとだったら嬉しい?」
「……あいか先生より怖くないひと」
「素直だな」
ほわほわしてるように見えて、実はトゲトゲな国生先生。怖いと思うのは俺だけじゃなかったらしい。
「なに笑ってんよ。今のは笑わせようとしたんちゃうんやけど?」
「ふ、ふふ。や、別に? つか、頑張らなくてもいいぞ。自然体のお前はそれだけで面白いから」
「失礼な。どう受けとったらええん」
「そのままの意味で」
「やっぱ失礼やわ。向こう戻ったら即刻由香さんに電話して、今日は隆の晩ご飯つくらんでええよって電話したる」
「は!? それは卑怯だろうが!」
「なんも卑怯じゃないです〜。」
みんな頑張ってるのを知ると何かしたくなってのう……とりあえずマダーになれるように筋トレでもするか」
行きは電車で来たとのことで終電はまだあるのだけど、体力づくりに走って帰るとリュックを背負い直した。
「……加藤君。マダーになったら、色々と危ないよ?」
心配そうに声をかける未来に、加藤は白い歯を見せて豪快に笑う。
「家族を守れるくらい強くなりたいんじゃ。特に妹、弟はまだ小さいし、そのために柔道やってるようなもんじゃからな」
「……なぁ斎。『風』っていうよりはさ、『山』足して『嵐』じゃねぇか? あいつ」
「ははっ! いいな、嵐」
「だろ?」
もう見えなくなったあいつはあと数秒で玄関に降り立つのだろうけど、死人関連じゃなきゃ無闇に技を使っちゃいけないって規則忘れてないか。
「まーでも、長谷川の言いたいことはわかるよ。テンション上がれば前向きになるし、やりたい時にグワッてやる方が楽しいからなー」
責任感から言ったんだろう。秀は平然としている。
だけど思わぬご褒美に耳まで真っ赤になる阿部は、高ぶる気持ちや感謝を伝えようと頑張って口を動かした。
「あきっ、秋月君っ! あの、ありっ、あの、お願いしまっ、あぶ、ば……ぶぁああっ!」
「ぶぁああ……?」
出てきた奇声を復唱した秀は、理解しようと考える。
意味を咀嚼して、自分の発言と照らし合わせて。そして完全に理解した秀の顔が真っ赤に、いや、それこそぶぁああっ! となった。
「いっ、今のは! 単に一人で帰らせるのは心配だなって思って言っただけで、誰かと一緒なら別に僕はっ」
「帰ろう! 一緒に帰ろう秋月君! 今すぐに!!」
未来を押し飛ばす勢いで乗り出した阿部は、「みんなまたね!」と笑顔で言って
「そもそもの話、死人との戦いにおいて、一から十の全てを子どもたちに託してしまっているのだ」
「残酷無慈悲な夜の世界で、いつどんな死に方をしてもおかしくないのに。子どもたちは命をかけてくれているのに、こちらからは何の報酬も出してやれない」
「そんな大人が子どもへ指図するなど……」
命を奪うことを当たり前だと思っているマダーは多い。同じようにならないでほしい。
retake.5
「……青いですね。あなたは」
「若さゆえに、その道を真っ直ぐに行ける。……わたしは、そうはできません。すぐ目の前に迫る恐怖を、必死な研究員や一般人を。あなた方よりもずっと見てきていますから」
「マダーになったのも千番ととても遅かったわたしは……あなたたちのように、『死人を大事にしたい』という気は、全く起きないのですよ」
「それが……こんなわたしにも懐いてくれていた、ヘンメイだとしてもね」
●
今の俺じゃ、ここに書いた目標なんて何ひとつ届かない。
足りてない。時間も量も、多分、思いも。
「……強くなりてぇ」
机に置いて、一枚ずつページをめくる。
凪さんとの鍛錬、未来との鍛錬、今のロボ凪さんとの鍛錬。これまでに戦ってきた死人の種類と能力。倒し方、反省──これからに繋げられるように、覚えている間にと、書き殴った文字の羅列。
一ヶ月につき一冊、場合によっては二冊ずつ進む自分の記録は、既に部屋を圧迫し始めている。
それでも、足りない。
山積みになった一列を机の上へ置いて、そちらもめくる。
文字を追う。
一つ一つ、見落とさないように、これまでの経験を今一度読み返す。
忘れていたこと、なんとなくで理解していたこと。
全部、改めてインプットする。
(……違う。ここ、多分違う)
数年前、数ヶ月前。当時の俺がそうと理解していた戦闘や敵の能力。今だからこそわかる対策と相違。
左に積んだノートを丁寧に丁寧に読み進める。書き込む。右は重ねていく。
少し眠気がくる。でももう少し。
睡眠阻害ガムの力を借りて、もう一山取りに行く。
同様にインプットとアウトプットを繰り返す。
コンコン。
ノックの音がして、作業は止めないまま返事をする。
躊躇いがちに扉が開いて、静かに俺の横へ来た人物は、机の端へキューブを置いた。
「……お昼ご飯」
「キューブはご飯じゃないぞ」
「おにぎり作った」
キューブの横へ、立派なおにぎりが二つ乗った皿を添えられる。不器用な未来の頑張りが垣間見える、なんとか三角に見えるかな、ぐらいの特大おにぎり。
追加で置かれたほうれん草のお浸しと卵焼きがやたらと小さく見える。
「ありがと」
「下、降りる? 由香さん心配してる」
「いや、ここでいい。大丈夫だって言っといて」
おにぎりに片手を伸ばして、頬張る。
やっぱり塩にぎりが至高だと思う。美味い。
「ごめんな未来。つらいことさせた」
飲み込めば、自然とそんな言葉が出た。
ペンを置いて、食事に集中する。
「……守りたいものがあるなら、相応の力を持たないといけない。全部を守ろうと人一倍、努力してるのをわかってるから、司令官は隆の考え方を認めて、自信を持たせるために『それでいいんだ』って、何度も言ったんだと思うよ」
今度は携帯を渡される。
鍛錬場に置きっぱなしになっていた俺の携帯には、メールが一件入っていた。
「凪さんだって同じ。隆を信じてるからこそ、あの課題を出した」
返事は不要と書いたはずのメールへの返信に、未来が言いたいことが短文で綴られている。
おかえり。
自分の在り方を大事にしなさい。
「私の方にも来てた。必要なら助言してあげてって。……でも、大丈夫だね」
最新のノートの表紙を見て微笑む未来。
自分のことを書いているのは見えなかったのか見なかったフリをしているのか。それだけ言って、もう一度俺に顔を向けた。
「終わったら、少し寝て。整理できると思う」
伝え終わったのか、未来は俺の返事を待たずに部屋を出ていった。
俺が口いっぱいにおにぎりを詰め込んでいるのを上手く使って、何も言えないまま。まさかこのデカ盛りおにぎりは俺に何も言わせないためだったんじゃないか。
(あいつ、頑張れとは言わねぇんだな)
おにぎりも言葉も、どちらもしっかり咀嚼する。
わざわざ応援したりしないのは、言わなくてもいいと思ってるからか、それとも……信じてもらえてると思ってもいいのかな。
飲み込む。エネルギーを取り込んで、ペンを持つ。
「あっ……ちょ、未来!」
最低限だけ伝えて部屋を出ようとした未来を慌てて呼び止める。ギリギリまで付き合ってくれたこと、怒ってくれてありがとうと、さっきは言えなかった感謝を伝えた。
「あと、夕方。もう一回課題見てほしい」
青い瞳がまんまるになる。
お礼を言われるとは思ってもいなかったのか、少し考えるようにしばらく視線が上を向いて、次いで俺を見て。
微笑した。
「お昼になったら呼びに来るね」
小さく手を振って、扉がまた閉まる。
わざわざ応援したりしないのは、言わなくてもいいと思ってるからか、それとも……信じてもらえてると思ってもいいのかな。
「っし……頑張ろうぜ、俺」
意気込んで、もう一度ペンを持つ。
ロボ凪さんとやり合って過ごすことが多かった一ヶ月。部屋にこもるのは久しぶり。
だけど、焦りはない。
窓から入り込む日差しの量が変わるのを感じながら、手と頭を動かす。
未来の部屋の前へ。
扉をノックする。
出てきた未来は、おキクを肩に乗せて、寝ているケトを抱っこしていた。
ロボ凪さんの攻撃を避けて分析した数日前の自分が書いたことと、今回体験してわかったこと。わずかだけど、認識にズレがある。
おにぎりに片手を伸ばして頬張る。うまい。やっぱり俺はこれ。塩にぎりが至高だと思うのだ。
一旦ペンを置いて、食事に集中する。小さく見えても俺仕様に作られた卵焼きは結構大きめだった。幸せの味。
一ヶ月やり合ってわかったのは、凪さんはこちらの攻撃をあまり避けていないということ。
狙われている箇所を正確に読み取って、流れるような美しい動作であしらう。できないと判断した時のみ最低限の動きで躱すのだ。
無駄を徹底的に削ぎ落とした戦法。
おそらくそれが、弥重凪が持つ最大の強さ。
「精神論じゃどうにもなんねぇんだよ……なぁ、師匠ッ!」
「──足」
ぞくりとした。
ポケットの辺りをマテリアルが掠って、後で食べようと思って取っておいた、二つ目のおにぎりが落ちて転がっていく。
そろそろ栄養補給しない? なんて、語りかけられてる気がする俺はもう、限界が近いらしい。けど。どこか楽しい気分になってきたのは、なぜだろう。
戦場に巻き込まれたおにぎりが踏まれそうになって、それは良くないと、ふらつきながら救いに行く。
拾おうとすれば俺の頭の位置が下がる。どうぞ蹴ってくださいとお願いしているようなもの。
もちろん容赦なく蹴るだろう。ロボ凪さんじゃなくて、凪さん本人でもきっと同じ。
隙を一寸でも見せるな。最初からそう俺に教えているのだから。
そこにどんな理由があろうとも、たとえロボ凪さんに攻撃する気が今の俺に無かったとしても。
戦闘を終わらせられる絶好の機会。この人なら間違いなく、『利き足』で、『俺のこめかみ』を、『蹴る』。
「──攻略法、見っけ」
●
ガードする。右手でおにぎりを取る素振りを見せてから、左腕で頭を守った。
予想通りの動きをしたロボ凪さんが目を見開く。頭部ではなく俺の腕に当たった脚を引っ込めて、素早くマテリアルでの攻撃に変更。初めて動揺を見せた。
「食べ物は大事にしないと、ですよ。おししょーさま!」
殴る。マテリアルを持ったロボ凪さんの右手首を。
防御力の設定がおかしいから大して痛くはないだろう。けれど、振り下ろした勢いとぶつかり合って指の力が一瞬だけ緩む。
持っていたマテリアルの破片が高い音を鳴らして床に落ちた。
(ロボ凪さんがなんで強いのか、なんで俺は勝てないのか……だったか。よくよく考えてみれば、当たり前なんだよな)
おにぎりを拾い上げてから、駆ける
未来にもらった助言の答えがようやく導き出せた。
凪さんの強さの源は、徹底的に無駄を削ぎ落としたシンプルな動き。こちらの狙いを正確に読み取って、流れるようにあしらう。
パワーが強すぎて今まで避けてきたけど、実際に体に受けてみれば攻撃の一つひとつもそうだった。急所や利き手、
俺とは正反対の、確実で綺麗な戦い方。
じゃあ、その綺麗な動き。できなくしたらいいんじゃないか? と。
「なぁ、ロボ凪さん。土屋家の塩にぎりってさ、すっげぇ美味いの知ってますか?」
マテリアルを振り回して、長い脚で蹴ろうとして、その強力な拳で俺を負かそうと奮闘するロボ凪さん。
対する俺は、限界間際まで体に受けたおかげで見切れるようになってきた。
今の俺なら、なんとか攻撃を掻い潜ってお礼の品物をお届けできるんじゃないかと思うのだ。
このバカな戦法……割と合ってんじゃねぇかな、俺。
「想像以上に美味いんで。いつものお礼に、ぜひ食べてもらいたいなー」
おにぎりのラップを取る。
三角のてっぺんをロボ凪さんへ向けて。
最後の一つになったらしいマテリアルを持ってこちらへ突っ込んできたロボ凪さんは無表情。そんなもの興味無い、とか言いたげ。
「」
マテリアルVSおにぎりなんてわけのわからない絵面。こんなの未来には見せられない。
だけど今はいないから。
ロボ凪さんに土屋家秘伝のおにぎりをプレゼントするべく、ここぞとばかりに駆けた。
ロボ凪さんが困惑する。無表情のまま挙動不審。
俺が正常だったならおそらく笑ってる。
でもごめんなさい。今の俺は、至って真面目です。
「はい、あーんッ!!」
拳をすんでのところで躱して、勢いのままに、もっぎゅぅっ……!ロボ凪さんの口へ、おにぎりを思いっきり突っ込んだ。
ちょっとデカい。無駄にデカい。
喉を詰まらせるほどのおにぎりに苦しくなったロボ凪さんに改めて「いつもありがとうございます」と伝え、拳に力を入れる。
重心を落としてしっかり床を踏み、体勢を真似る。
口を押さえていたロボ凪さんが、ハッとしたように俺を見た。
「……相手がどう動くか、どんな攻撃をしてくるかわかったとしても、それを活かせなければ意味がないんです。『殴られる。避けよう』じゃなくて、利用して反撃までがセットじゃなきゃ、いずれ負ける」
凪さんは俺の攻撃をあまり避けようとしない。
こちらの狙いを正確に読み取って、流れるような美しい動作であしらう。できないと判断した時のみ最低限の動きで躱すのだ。
無駄を徹底的に削ぎ落とした戦法。
おそらくそれが、凪さんが持つ最大の強さなんだと思う。
声が小さくなりかけて、必死に腹に力を入れる。
俺を睨んだままのロボ凪さんへ、体の正面を向ける。
声が小さくならないよう腹に力を入れて、
「──ください。あなたの武器を。前線でも通じる力が、俺には必要です」
防御が、間に合わないと瞬時に悟った。
死ぬと思った。
その瞬間、時が止まったかと思った。
目の前には見慣れた長い黒髪が舞っていて。
赤くなった頬が一瞬こちらを向いて。
焦って見開いた大きな青い目を、一瞬で鋭い目つきへと変えて。
敵へと振り返りざまに、小さな桜色の唇が動いた。
「【カランコエ】!!」
……カランコエ。
確か、花言葉は……『あなたを守る』!?
「未っ……」
爆風。
赤ゲージまで一気に。
【種皮】じゃ強度的に耐えられないから……自分の防御を捨てて俺を守ったんだ。
自分がこれ以上戦えないのがわかっているから。
だから、完全に防御を捨てたんだ。
周りが爆炎で見えなくなる。周り勢いで吹き飛ばされそう。
【光合成】の一言が聞こえた時に、しっかりと見えたのは
見慣れた幼なじみの小さな背中。
「未来……」
肩で息をしながらも、未来は敵を見据えこちらには振り向かない。
『ヘェ、庇うんだねぇナイト君を』
『やめときなよ。そんな体で動いちゃ、本当に死んじゃうよ? 怪我をしなければ体力ゲージは減らないけど、そうさせてるのは現実の自分の脳はすごく働いてるってことわかってるぅ?』
『ゲームの中でもその体の暑さ、震え、喘鳴……現実の体はきっと四十度を大幅に超えているはずだ』
後ろに手をやって俺に回復をかける。
だけど、攻撃じゃない、回復なんて未来は普段使わないから想像が難しいのか、阿部の痛み無しノーペインみたいにすぐには回復しない。徐々に、徐々に。
「未来……糖分、くれ」
「……【サトウキビ】」
水分と糖分の補給
疲れただ?ほざけ。
動け俺。
早く。
早く、体を治さなきゃ。
心をせかしたってどうにかなるわけじゃない。
わかってる。
だけど、気持ちだけは焦って、焦って、焦る。
早く、早く立ち上がらなきゃ。
早く。
早く。
早く──!!
「あははっ、死ねぇええええええ!!」
「させねぇ……っ!!」
未来の服を背中側から掴んだ。
硬直した未来を力一杯後ろへと投げ飛ばした。
「手ぇ……ッ出してんじゃねぇよ!!」
立ち上がりざま、奴の顔面へ大きく拳を振りかぶった。
「【炎拳えんけん】!!」
未来後ろにする
『ふん、庇い合いの関係か。お互い大事に思いあってるってわけねぇ、ふふ』
『虫唾が走る』
隆馬乗り
刀ぶっさす
相手から頭に手をかざされ衝撃波何度も打たれる
『どちらが先に尽きるかなぁああああ』
「がっ……あぁあ……っ!」
「おまえが……」
「おまえがッ、先に消えやがれ!!」
「【焔ほむら】!!」
水中戦いれる
海付近 飛ばされドボン
体に重り、縄で縛られる。
体が濡れて 炎は出しても消える
焼ききれない。
ああ、だから水があるところは嫌なんだ。
だけど……負けるか。
負けてたまるもんか。
ーー、拳を握った。
◇
「弥重。行ってやらなくていいのか」
流星は凪へ問う。珍しく真面目な顔をして。
「うん、大丈夫だよ」
数時間前に司令官からきた、東京の現状報告の電話。
自分が連絡をすることで戦況が不利にならないようにと、遠征中は絶対に凪へ連絡をしてこない司令官。
その彼が、メールすら寄越さず直接電話をしてきた。
彼の中で相当にマズイと思う状況にあることは十分伝わってきた。
最初こそ少しだけ動揺したものの、内容を聞いてから数秒。すぐに平常心を取り戻した凪は現在、【糸いと】で周りの死人たちを瞬殺している。
「不安はない。あの子たちならきっとやってくれる」
「随分な信頼だな。ガキ……未来は、本調子じゃないんだろ?」
未来をまた例の意地悪な呼び方をしようとした流星をじろりと睨む。
た。
「……隆一郎はね。目の前で友だちを傷つけられて、黙っていられるような子じゃないんだよ」
凪とは違い、仲間を見捨てられない隆一郎。視点によっては弱みになり得るその甘い考えが、今回は公転的に働いてくれると凪は確信を持っていた。
「未来も だというなら、更に頑張ってくれる」
「それに……九州ここを取り返すまでは、帰るわけにはいかないから」
更に強くなってきた死人の集団を見回して、凪は唇を結ぶ。
本当ならば、生者がいる可能性の低い土地ではなく、今すぐに隆一郎たちのもとへ駆けつけて、手助けをするべきなのだろう。
中には入れないとどれだけ言っても、どんな願いも叶えられる可能性を持つマダーの兵器、キューブがある限り、何らかの方法で侵入する手立てはあるはずなのだ。
だけどそれは愚鈍。そんなことをせずとも、そこに愛弟子がいるのであれば、凪は安心してその場を任せられる。
それほどまでに、隆一郎には信頼を寄せていた。
(相手は精鋭部隊が扱う死人。なおかつ最初に滅多打ちにされたのなら、強さが尋常でないことは本人が一番わかっているはず)
敵からの攻撃を軽やかに避けながら、【朧おぼろげ】を発動するための八個分のステップを踏む。最後の一足、地に着いたところで八等分に引かれた円が浮き出した。
「僕は僕で、ここにいるみんなを守る義務がある。ここを取り返す責務がある」
凪は決断したのだ。ー、を。
ここで耐えられなければ。その場を守れないなら。
自分が徹底的に教えこんでいる意味が無い。
隆一郎の長所を伸ばし、短所を していく鍛錬をずっと重ねてきたのだから。
「勝ちなさい隆一郎。お前ならやれる」
遠くにいる愛弟子を思い、暗い空を見上げた凪は、願った。
昼であるにも関わらず真っ黒な雲を広げている空を伝って、どうかこの思いが届きますように、と。
響く鈴の音
遠くに見えた小さい影
『ウミツキ……』
『ウミツキウミツキウミツキウミツキウミツキウミツキ』
──うみつき。
「あなたは、一体何者なんだろう」
言葉にできない、話せないものたち。
その哀しみをわかってやることはできるだろうか。
幼い子供が自分の言葉で表現できなくても親ならわかるように、何も言わなくてもわかってやれないのだろうか。
涙。涙。……涙。
「ごめんね、わかってあげられなくて。だけど、信じて。あなたの哀しみを解りたいと思っていること」
『なぜ、そんな顔をするの』
悲しい顔をする未来へ
「あなたにも、きっと何か哀しいことがあったんでしょう」
「人間を恨んで、恨んで……何が哀しかったのかさえ、わからなくなってしまうほどに」
「ごめんね」
「ごめんね……」
ピーマン 反対で
こちらを見る彼の顔が、泣いて、悔しそうに、だけど──少し嬉しそうに、儚く笑う。
『相沢未来……どうかそのまま』
口元が更に小さく、動いた。
──ありがとう。
自分で心臓を突き刺した。
神刀をひと回しして切先を自分に向け、ぐっと握り締めた。
ザシュッ!
確実に一撃で心臓に突き刺してガラスの割れるような音を響かせる。
彼の体が黒い霧へと散漫して、空間を覆うように大きく広がり、集約を始めた。
『そんなわけがない』
『ぼくが……産・月・のこのぼくが負けるなんて、そんなこと、あるわけ……ッ!!』
「百パーセントの可能性なんてないんや」
「負ける時は負ける。それが戦いの世界やからなぁ!!」
『殺していいの? 君たちには、【情報】が必要なんじゃないの?』
「そうや。情報は喉から手が出るほど欲しい」
「せやけどなぁ!」
キィン!!
「守るべきものを守る。それが私の役目や!!」
『本当にっ、いいのか!?』
「いい」
「必要なら殺す。この世界の必然や!!」
「黙祷……」
「【螺旋神刀らせんじんとう】!!」
刀振り切り螺旋状に空気が切り裂かれる
「あなたは、一体何者なんだろう」
言葉にできない、話せないものたち。
その哀しみをわかってやることはできるだろうか。
幼い子供が自分の言葉で表現できなくても親ならわかるように、何も言わなくてもわかってやれないのだろうか。
涙。涙。……涙。
──ごめんね、わかってあげられなくて。だけど信じて。あなたの哀しみを解りたいと思っていること。
自らの思いを刀に乗せる。
上空から飛びかかって、振り下ろす。
自分の動きがゆっくりに感じる。
周りの景色がスローモーションに映る。
こちらを見る彼の顔が、泣いて、悔しそうに、だけど──少し嬉しそうに、儚く笑う。
『相沢未来……どうかそのまま』
口元が更に小さく、動いた。
──ありがとう。
手を前に広げて、自らの命を差し出すような姿を見せる卯月。
その様子に神刀をひと回しして切先を彼に向け、ぐっと握り締めた。
「黙祷……」
抵抗の意を見せない彼の心臓へ、確実に。
ザシュッ!
確実に一撃で心臓に突き刺してガラスの割れるような音を響かせる。
地面に勢いのまま卯月を押し倒し、空中で体をひねって前方へと着地した瞬間……彼の体が黒い霧へと散漫して、空間を覆うように大きく広がり、集約を始めた。
『なぜ……そんなかなしそうな顔をする』
『なぜ……』
「あなたにも、きっと何か哀しいことがあったんでしょう」
「人間を恨んで、恨んで……何が哀しかったのかさえ、わからなくなってしまうほどに」
「ごめんね」
「ごめんね……」
手をおでこに添える
死人、泣きながら消える




