ぱられるごはん
「ったく、ラーメンがどうとか刺身がどうとか、腹減って寝れやしねぇ」
「はぁっ……はぁっ……そ、そりゃ、おつかれ、さま、でした……」
「やっと静かになったと思ったら今度はイチの叫び声ときた。俺の安眠はどこに行けば手に入る? なぁ。なぁ?」
ごめんなさい。うるさくしてごめんなさい。
昨日は隣で寝てたはずなのになぜか今は俺の布団にいた流星さん。
寝相が悪いのかと思ったがそうじゃないらしい。プロレス技からようやく解放されてぐったりと右を見ると、なるほど。【血管伸縮】を駆使して寝具一式がバリケードみたいに立っていた。
布の端っこと天井の柱を括りつけて、向こう側にいる湊さんの寝言を物理的に遮るかたち。
そんなにうるさかったのか。
「言ってるこたぁ平和なんだけどな。イチも真横で寝てみろ、腹減るから」
「全力で遠慮します……。というかあれそんなに変わんなくないですか」
「バカにすんな、それなりに変わる」
「えぇ……」
こっちに潜り込んでたのは自分の布団がなくて寒いから、俺の背中が微妙に痛いのは寝返りを妨げられたせいらしい。
うるさいなら一番距離が取れる凪さんの布団に入れば良かったのに、と文句を言えば、俺の方がヒョロいからって答えられる。
そりゃいくら鍛えたって凪さんと俺じゃ雲泥の差があるけどさ。
「うぅん朝から元気だねぇ……静かに起きなよ流星ー」
「テメェのせいだよバカ湊。あーほら、ユキも起きちまったじゃねぇか。謝れイチ」
「とってもごめんなさい」
弁解させてほしい。真横に流星さんの顔があったのは確かにびっくりしたけど、叫んだのはそれについてじゃない。
俺が持ってる携帯の通知欄だ。
(ヤバい……マジでヤバい)
昨日の夕方から何百と来てるメッセージ。全部同一人物によるもの。
秀だってこんなに送ってこなかったぞ。
「おーい、ユキー」
「ユーキー。ぽやぽわしてるよぉ〜」
終わりのない通知を遡っていると、流星さんと湊さんは手をひらひらと振り出した。ユキさんの視界に入る位置で。見えてるか? と言いたげに。
気付いたらしいユキさんはもそ……と起き上がって、二人に顔を向ける。ぺこ、と礼をした。
「おはようございます……」
「おう。お目覚めか」
「もう少し寝たい……」
「まだ早いからねぇ。もっと寝ていいよぉ」
「ありがとう……」
ぽてっ。ユキさんはうつ伏せに倒れて眠りの国へと旅立った。
携帯に表示された時間は六時過ぎ。
いつも通りに起きられなかったのは目覚まし時計がなかったせいか、それとも今日のことが億劫すぎるせいか。十中八九、後者だと思う。
(ケトが目を覚ましてくれたら。そしたら、)
「皆さんおはようございます。開けてもいいですか?」
奥の部屋から国生先生の声。
湊さんがどうぞ〜と返して、襖が半分開かれる。閉じていた向こう側が少し見えるようになる。
布団は端っこに寄せられ、代わりに机とが置いてある。
着替えもお化粧も終えている先生は、喋り方からしてもお仕事モードらしい。
「朝早くから大声を出して……いったい何事ですか」
「イチに聞いてくれ」
「すいません先生。ちょっと、その……」
「はい?」
怪訝な表情ではあるけど、国生先生は聞いてくれるらしい。昨日みたいに即怒ると思ったからちょっと安心した。
「昨日、先生が教えてくれた後に秀には連絡してたんですけど……あの、他のみんなに言えてなくて」
「あら、司令官が伝えているはずですが」
「はい。それをわかった上で、あの……長谷川から鬼のような量のメールが……」
画面を見せてみる。上から下まで視線を辿らせた国生先生は苦い笑みを浮かべた。
「少々怖いですね」
少々どころじゃないんだ先生。
「怖すぎるんで未来と一緒に電話します……。起きてますか?」
「いいえ。凪くんの目眩しの効果が続いています。土屋くんの時と同じなら、あと一時間ほどは寝ているかと」
「一時間か……」
待つべきか迷う。
今だってブーブーブーブー、電話が来てますよのお知らせバイブが鳴ってるし。一時間以上経って折り返して余計に怒ってないだろうか。
「あれ? ね〜先生。凪は?」
「司令官に伝えることがあるとのことで、一時間ほど前に電話をしに行きましたよ」
「まだ電話中?」
「おそらく」
長電話って珍しいねと湊さんは不思議そうにする。多分その電話、俺が昨日伝えた夢の内容だろう。
話すのも、凪さんの言う心当たりと照らし合わせるのも、どちらも時間がかかるはずだ。
「なんにせよ、朝ご飯の時間になるまでもう少し静かにお願いします。結衣さんが仕事中ですので」
「……え」
おい俺。今の「え」は失礼だぞ。
だけど気になって、そっと開いてる方の半分から中を見る。
静かに、真剣に、はちゃめちゃに打ってんじゃねぇのと言いたくなるぐらいの動きでタイピング。結衣博士の目線にある青いパネルに凄まじい速さで文字が打ち出されていく。
「マジか……」
「仕事頑張ったら斎くんが褒めてくれますよって言ったんです」
「斎はドーピング剤か何かですか?」
「やらねばならない時はきちんとしてくれるのですけどね。ちょっとご自分の好きを優先してしまうだけで」
一応なのかフォローを入れた国生先生は「閉めますね」と一言添えて襖を動かした。
先生は先生で仕事の続きをするんだろう。
ちらっと見えた未来の枕元にはおキクが寄り添っていた。
◇
「なまらうめぇ……」
仲居さんが部屋の片付けをしてくれて、机が出され運ばれてきた朝食。
色とりどりで美味しい、目も舌も胃も幸せにしてくれる和食にがっついていると、食べ方まで優雅なユキさんが方言を零した。
「ユキさんて、北海道の人だったんですか?」
全く気付かなかった俺は食べるのを一旦やめて聞く。
「道内でも標準語に近い所で育ったんだ。海沿いは訛りが強いけど、気付かれないことも多い」
「だから現地集合だったんだよ。で、元からそっちにいるユキに周辺の死人の対策してもらってたってわけ」
味噌汁を手に流星さんが説明してくれる。
「そろそろ弟と伴侶が二人帰ってくるだろうから……」
『マユ────ッ!! あなたはっ、リィが頑張ってる間に何をしてるんですかぁーっ!』
可愛らしい、アニメ声が聞こえてきた。
「え……なにっ」
机の上を何か白いのが通った。と思ったら、




