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パラレル・整理


あまり好きではない記憶に少し触れる。

罵倒されて、気味悪がられて。バケモノだの死神だの、耳を塞ぎたくなるような言葉と暴力の数々。

耐え難い悪意の視線を、年端もいかない頃から受けていた未来のことを。


今でこそ未来は平和に学校生活を送れているし、友だちにも囲まれてる。でもそれは、周りから蔑まれても、どんなに苦しくてもあいつが我慢して乗り越えてきたからだ。


「大丈夫やよ」

「平気、平気」


何度も聞いた。違うとすぐにわかるような、俺を安心させるための偽りの言葉。

聞くたびに俺は言った。そんなわけないと。こんな目に合わされて、大丈夫なわけがないと。

俺は泣いて謝った。

未来が泣かないから。笑うから。

代わりに泣いたって、謝ったって、あいつの苦しさや痛みを受け取ることはできないのに。ぬぐい去ることもできないのに。


でも、小四のある日を境にして、未来も泣くようになった。

嫌なことや、つらいことがあった時。

痛い思いをしたとか、苦しいと感じた日にも。


多分、実際に現場に居合わせた俺が、大の大人に向かって刃物を突き付けたせいだと思う。

ただ下校をしていただけなのに、青い瞳で未来を死人と決めつけたそのひとは、そばにいた子どもを守るために、手近にあった工具で未来を殴った。

何が起きたのか、すぐにはわからなかった。

ただ、「逃げろ、早く」と。立派な大人のように、勇敢な大人のように言ったその人は、俺に背中を向けていた。

俺を守ろうとして、未来の前に立ちはだかった。


「……私も、泣いていい?」


コトが終わってから、未来は俺に許可を取るようにそう聞いてきた。

レンチで殴られた頭は何針も縫わなければならない重傷で、当時貴重だったノーマでの治療中に。

俺から奪い取った彫刻刀を左手で握り締め、ボロボロと泣きじゃくる俺の手を、右手で繋いでくれていた未来。その時初めて、あいつは涙を見せた。


──演技を、俺がさせてしまったんだ。


いつもみたいに「大丈夫だよ」と言ったら、そんなわけないと俺が否定するから。「平気だよ」と伝えたら、自分のせいなのにと俺が自己嫌悪に陥るから。

ああ、今この場でだけはいつも通りでいてはいけないんだと。これ以上俺を苦しめないためにはどうしたらいいんだろうと考えて。

そうして出てきたのが、求められるはずの感情を見せるという手段。

つらくて悲しい。それを表現しなくてはいけないのだと、あいつは理解した。

弱音を口にせず、大丈夫だと暗示をかけ続けることが、自分の心を守る唯一の方法だったのに。


「弱音を口に出さないことで、その場を乗り切る。その時だけは強くあれる。……そんな、自己暗示にも似た言葉で、あいつは自分の身に降りかかる厄災を跳ね除けようとしていた」

心の声を漏らしてしまえば、耐えられなくなる。幼いながらにそうわかっていた未来は、誰にも「助けて」とは言わなかった。

一番近くにいた俺にも、頼れる凪さんにも。

絶対に、本当はつらいんだよと伝えてはくれなかった。

演技で作り出した涙の中に、口から出せない思いを全て含ませて、混ぜ込んで、流して消し去った。

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