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パラレル・ダイス

 

「あらダイス。嫉妬?」

「えっ?」


 結衣博士の口から出た名称に俺はすぐさま反応した。

 さっきまで机にあったはずの小さな立方体がない。斎のキューブだけが取り残されている。


「そーだよなぁ。せっかく華々しく登場したのにみんなキューブにばっか夢中だったもんな。話も終わって出番かと思いきや、今度はおふくろがぎゃーぎゃー騒ぎ出すし。そりゃ構ってほしいよなー」


 ごめんごめん、と斎に慰められて、ダイスは大きく頷いた。

 震えがおさまったかと思えば今度はひとりでに跳ね始め、重力のせいなのか着地したそこからぺちゃっと潰れてしまう。それからまた形成してジャンプする。

 四角だったこいつは何度も形を変えていく。


「スライムみてぇ……」

「面白いだろ?」

「いや、面白いというか、その……」


 気持ち悪い、とは言えない。言っちゃいけない。


「うお!?」

「隆っ!?」


 べちょ! スライムダイスが俺の顔に張り付いた。

 おいダイス。離れてくれ。お前の主人は俺じゃない。

 俺にはキューブっていう正真正銘の相棒がいるんだよ!!


「いった! 痛てぇって、ダイス!」

「ぶふっ、さすが土屋君。ダイスのお気に入りになっちゃったのねぇ」

「どこが!?」


 吹き出すような笑い方。こんなところまで斎とそっくりだ。


「お、おい誰か! こいつを引き剥がしてくれ、いた……ちょっ、痛っ!!」

「隆じっとして! あんまり暴れると……」

「だああああ髪を絡めとんじゃねぇ!!」


 なんだよ。気持ち悪いって思ったのがバレたのか?

 だったら謝るよ、スライムみたいで可愛いですごめんなさい!?


 ◇


 心の底から安堵したように斎は穏やかな表情になる。

 場の空気が元に戻りつつある中、急にカタカタと音がする。

 カタカタ、ガタガタ。

 音がどんどん大きくなっていく。

 机の上に置かれたダイスが、大きく上下に振動していた。


「ひっ!? た、谷川なにこの子、どうしたの!?」

「ははっ! わかりやすい。ヤキモチ妬いてんだよ」

「ヤキモチ!?」

「そ。せっかく華々しく登場したのにみんなキューブにばっか夢中なんだもん。そりゃ構ってほしくもなるよ」


「なー」という斎の慰めに、ダイスは大きく頷いた。

 震えがおさまったかと思えば今度はひとりでに跳ね始め、重力のせいなのか着地したそこからぺちゃっと潰れてしまう。それからまた形成してジャンプする。

 四角だったこいつは何度も形を変えていく。


「スライムみてぇ……」

「面白いだろ?」

「いや、面白いというか、その……」


 気持ち悪い、とは言えない。言っちゃいけない。


「うお!?」

「隆っ!?」


 べちょ! スライムダイスが俺の顔に張り付いた。

 おいダイス。離れてくれ。お前の主人は俺じゃない。

 俺には正真正銘の相棒がいるんだよ!!


「お、おい誰か! こいつを引き剥がしてくれ、いた……ちょっ、痛っ!!」

「つっちーじっとして! あんまり暴れると……」

「だああああ髪を絡めとんじゃねぇ!!」


 なんだよ。気持ち悪いって思ったのがバレたのか?

 だったら謝るよ、スライムみたいで可愛いですっ!?


「おい土屋じっとせえって。取れんじゃろうが!」

「ごめんっ、でもマジで痛くて! 髪、抜ける……っ!」


 ギャーギャー言いながら床を転げ回る。

 加勢に来た未来に激突した。


「女を轢くな!」

「ぐはっ!!」


 げしっと背中を蹴られ、無理やり俺を仰向けにした加藤の足に動きを止められる。

 俺の目もとにべーーーーったりくっつくダイスを引き剥がしにかかる。


「なんじゃこいつ、ぜんっぜん外れんが!?」

「どうにかしてくれーっ!」

「言われんでもわかっとるわ、情けないやつじゃな! おい谷川! ピンセットかなんか貸しちょくれ!!」

「んー、ここにはないかなー」

「何でもええから! 秋月、阿部も手ぇかせ!」

「見てるの楽しいから、僕はパスで」

「私も……」

「お主らほんに友だちか!?」


 ああ加藤。お前はやっぱ良い奴だな。

 なんでか助けてくれない三人のことは忘れて、俺はお前とランデブーするとしよう。


「はーいお客さんたち、お茶が入りましたよー……って。おやや?」


 カランッと小さな涼しい音がする。

 氷の入った麦茶をおぼんに乗せて、部屋に入ってきた女の人が目を丸くした。


「あ、おふくろ」

「おふくろ!?」


 しまった、声に出た。

 タイミング悪く入ってきた女性は斎のお母さん、結衣博士。ダイスの隙間から見えるその人は斎とよく似ていて、頭のてっぺんにあるアホ毛が斎のちょんまげとリンクして見える。


「お邪魔してます! は・な・れ・ろ! ダイス!!」


 全力で剥がそうと摘んで引っ張るも、全然離れない。どちらかというと皮膚を持っていかれそうになる。

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