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パラレル・グラジオラス

 濡れた服を【蒸発(じょうはつ)】で乾かした後、俺たちは斎に連れられて家の奥まで入っていった。

 夕暮れの光が差し込む廊下。やっぱり家の中とは思えない広さに圧倒されながら、エレベーターへ乗り込み上昇する。

 三階を知らせるアナウンスに合わせ、扉がゆっくりと開き、前方にある景色が広がっていく。

 着いたのはオフィスみたいな空間だった。


 向かい合わせで並ぶ長机や明るい蛍光灯。たくさんの研究員が真剣に向き合っている半透明の画面の中身は、俺にはちょっとよくわからない。

 でも切羽詰まってるとかじゃなくて、わいわい話しながら頑張ってる感じ。本部とは正反対の明るい印象を受けた。

 そんな活気溢れる仕事場を七人ゾロゾロと歩き、顔認証や指紋認証付きの扉を経て通された斎の部屋。


「おうち丸ごと縮小システム?」


 やっとありつけた平和とシュークリームを頬張りながら、俺は斎に聞き返した。


「そー。キューブの保存と輸送機能あるだろ? おキクの家とか、みんなが輸血パックを入れてるキューブ内の空間。あれと同じのをこの家にも使ってる。言わばあの玄関がキューブの入口で、中に入ったら人間も道具も全部小さくなってるってわけ」


 五分の一くらいかな、と斎はさらっと説明した。

 おいこら、そんな簡単に終わらせないでくれ。キューブの成り立ちすら俺にはちんぷんかんぷんなのに、んな現実離れしたことが自分の体にあってたまるか。


「おかげで場所を取らずに研究できるんだけどな。これ見てみ?」


 にわかには信じられない情報に食べる手が止まり、斎に差し出された物を眉をひん曲げた加藤と一緒に見る。

 殺風景な室内の模型。だが妙に既視感があって、なんだろうと指を顎に置いて考える。


「ん……? 谷川。こりゃさっきまでワシらがおった防衛システムの模型か?」

「おっ、加藤正解」

「あぁ。どうりで」


『鉄壁の守り兵』が落ちてくる部屋だった。手のひらサイズの白い模型は至るところに焦げ目が付いている。俺と長谷川が作り出した爆発の影響まできっちり再現されていた。


「この模型にも同じ縮小システム使ってるからさ、実際目で見た方がわかりやすいだろうし試してやるよ」


 最後の一口、カスタードのシュークリームを口に入れた斎は満足気に顔を綻ばせる。同じく癒しの表情で味わい中の、どこかへ飛んでいってしまいそうな未来に声をかけながら軽く手を振った。

 しかし気付く様子はない。


「未来ちー。呼ばれてるよ」


 長谷川に頬を突かれ、やっと現実に戻ってきた未来は目を丸くする。


「なんの話だっけ」

「その模型を使って実際に小さくしてくれるんだって。アタシはなんとなく腑に落ちたけど、わかってなさそーなバカどものために」


 誰がバカだ。


「小さく……」


 話を思い出した未来は俺たちの手もとを見る。長谷川、俺、斎、加藤。みんな食べ終えて手には何も持っていない。

 秀と阿部がいない理由は覚えているようで、最後に折りたたみテーブルに置かれた模型と自分のシュークリームを交互に見て、目をカッと見開いた。


「あげないよ? 最後まで私が食べるもん」

「ぶはっ、違う違う。シュークリームはありがたく頂きました。欲しいのはそっち、相沢の膝に乗ってる人形。その人形貸してくれ」


 渡すもんかと構える未来の表情がかなり本気で、未来を除く四人分の笑いがテーブルを囲う。

 なんで笑ってるのかと文句を言いたげ。だけどシュークリームじゃないと知って顔に安堵を見せた未来は、正座を崩して模型に人形を乗せた。途端──消えた。


「はっ……?」


 笑いも消え、俺の素っ頓狂な声だけが残る。


「いい反応するなー土屋」

「いやっ、だって人形が消えて……」


 そこまで言って、はっとした。


「今のが縮小システム?」

「そう、」


「この模型がな、さっきの部屋と連動してるんだよ」

「連動?」

「うん。何かしらで部屋と王様に異常が出ると、この模型も全く同じ状態に変わる。例えばその焦げ目。土屋が焦がす前はそこも真っ白だったんだぞ」

「……俺だけのせいじゃない」

「アタシは風を作っただけだもーん」


 意地の悪い顔で舌を出す長谷川。

 こいつ覚えてろ。いつかボッコボコにしてやる。


「てことは、カメラで見てたわけじゃなかったのね。暴れて引きずり出してやろーと思ったのに」

「引きずり出すのは成功したろ。あそこまで派手にやられちゃ、さすがに行くしかねーよ」


 本来ならあの王様を倒した時点で家の中の道案内表が出てくる仕様。だけど俺たちがはちゃめちゃにやりすぎたために『キケンジンブツ』と機械に判断され、解錠されなかったんだとか。


「てなわけで、今回初めて来た組は帰りに認証受けてってくれ。次から襲われずに入れるようになるから」


 まだコウモリ人形を抱えている未来はへへと破顔。これ持って帰りたいと斎に頼む。

「前も言ったろ? 我が家のセキュリティくんだから置いてってくれ」

「はーい……」


 ぽわぽわしてる。よっぽどその人形が可愛く見えてるらしい。



「ところでみんな。俺に言いたいことはないか?」

「ん?」


「新しいキューブが完成しました。俺はその内容について今まで詳しく述べていません」


「どんな武器か、見たいか?」


 斎の──

 そらゃ、もちろん。


「見たい!!」

「だよな!」


「斎はしばらく休めんのか?」


 首を横に振られる。


「早々休めねーの、この業界。常にいい方を目指して頑張らなきゃだから」





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