表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/176

三章 没案

りゅう?

りゅう……


意識途切れ途切れ


「私は人間だ…!」


「違うなぁ!僕らは人間じゃない」


「僕らは、バケモノや」


「忌み嫌われし悪魔の子ォオオオオ!!!」


「君は」


「バケモノや」


「…ぅ、ぁ…」


「くふっいいなぁその顔!もっと見せてぇや」


「絶望に落とされる相沢ちゃんの顔ぉ…もっと見せてぇや」


「……」


「…私は…」


「あなたとは違う」


「友達がいる」


「仲間がいる」


「私を、認めてくれる人がいる!」


「認める…?」


「それって、本当にそうなんか?」


髪を掴まれる


「そう思いたいだけやないんか?」


「バケモノは」


「人間とは生きていかれへんねんで」


「君には常識というものがない。人と関わってきてへんからこそ、この場でいうべきこと、いうべきでないこと。ひいては感情の起伏でさえ君は常人のそれではない」

「思ったことはない? 覚えのないことを謝られたり、怒られたり、話を逸らされたり」

「知らんうちに、色んな人から嫌われてたやろ?」

「それはな、相沢ちゃん。君に協調性がないせいや。一人でおりすぎたせいで周りから疎まれる理由に気付かれへん、人をイライラさせる要因に気付かへん自分のせいや」

「誰かがいつもフォローしてくれてたんやない?」

「誰かがいつも、代わりに怒って、代わりに泣いて、君の知らんところで悪意と戦ってくれてたんとちゃう?」

「知ってたんやろ。自分があまり人から好かれるタイプとちゃうことは。でもそれがなんでかどうかは未だに気付けてないんやろ?」

「君は本当に、人と話してて心の底から笑ってるんか? みんなが笑ってるから笑うべきなんやって合わせてるだけじゃないんか?」

「土屋君以外の人に本音をさらけ出せる人がおるわけやないのに、その人たちを『友だち』やなんて、本当に思っとるんか?」



「あーぁ…泣いちゃった」


「いいなぁ」


「もっとボロボロにして、もう二度と立ち上がられへんようにしてあげる」


「また僕と一緒にふたりで生きていこうや」



「僕の大事な子に何してるの」


「未来」


「よく頑張った」


「あとは任せなさい」


「でもよく聞いて」


「今の未来は、意識を失ったらその後戻って来れなくなる可能性が高い」


「だから寝ないで。気を失わないで」


「その目で僕を見ていて」





「未来がお前を殺せなくても」


「僕は殺せるよ」



「絶望しろ」


「自分がバケモノやと自覚してぇ!!」


「私は人間じゃありません。バケモノですって…言わせてあげるわ」


「絶望の闇に落ちて」


「そしたら僕が救ったる」


「綺麗な相沢ちゃんを見たいんや」


「あっははははは!!無様やねぇ相沢ちゃぁん」


「君の噂は聞いてるよ」


「随分楽しく生活してるみたいやなぁ?」


「なんかマダーの中で最強とか言われてるんやっけ?噂の一人歩きも大概にして欲しいよなぁ」


「うぁっ…」


「こんな臆病で怖がりで人に疎まれるバケモノの君がこの国を一番守れる存在やなんて…ありえへんもんなぁ!?」


「ぁああっ…ッ!」


「なぁ、泣き虫な相沢ちゃん」


「虐められて泣いてたな」

「蔑まれて泣いてたな」

「バケモノって非難されるたび泣いてたなぁ?」


「なあ!泣き虫!臆病者!」

ガン

「だから死人に肩入れするんやろ?」

ガン

「人間には理解してもらわれへんから同じ疎まれる存在である死人が大好きなんやろ?」

ガン

「死人が君の心の拠り所なんやよなぁ!?」

ガン

「ふっふははっ!気持ち悪い気持ち悪い!!人間に愛されない君は死人に同情してるんや!同じ忌み嫌われる存在として、奴らの存在が自分と同じなんやって安心してるんや!!」

ガン、ガン、ガン

「…ぅ…あ…」

「なんか言いたそうやな?でも反論できへんねやろ?」

ガンガンガン

「だってそうやもんなぁ!?僕の言うてることが正しいんやもんなぁ!?」

ガンガンガンガンガンガン

「ははははっ!気色悪いねぇ。その青い瞳も、その右腕の傷も、誰からも愛されることは無い」

「そう、僕以外からはね」

「僕なら君のすべてを受け入れられる」

「僕なら君の辛さをわかってあげられる」

「僕なら君が一番綺麗な姿にしてあげられる」

「さあ委ねて。僕に君の体を、心を」

「君の全てを…僕に委ねなよ」


震える。


手が震える。


体が震える。


カタカタと、自分の制御がきかないほど、カタカタと、ガタガタと、震えて、震えて。

体に覆い被さる温かい体温が気持ち悪い。

撫でられる手が気持ち悪い。

少し体が離れて、私を愛おしそうに見るその顔が、とても恐ろしくて気持ちが悪い。


私の震える手に、彼の手が重なる。

力の入らない指に、ゆっくりと彼の指が絡む。

手のひらから、指のあいだから、じんわりじんわりと彼の熱が伝わる。

私の冷たい手が、指が、徐々に温かくなる。

冷たさを、彼の手が奪い取っていく。


脳裏に浮かぶ、友だちに抱きしめられた情景。


人の温もりって、こんなだったっけ。

抱きしめてもらったあの時に感じた温もりって、こんなだったっけ。


こんなにも、恐ろしくて気持ち悪いものだったっけ。


「いい子やね、相沢ちゃん」


私を呼ぶ声は


「ねぇボクの相沢ちゃん」


みんなが私を呼ぶ声は


「綺麗やよ」


こんなにも気持ち悪いものだったっけ。


「やめて……」


震える声で言う。


「もう、やめてください……」


唇が震えて、歯がカチカチと鳴り響く。


「もう、わたしを……」


許して。許して。

あなたを傷つけた罪を

あなたから逃げた罪を

あなたに恩を返さなかった罪を



「じゃあ聞くで?」


「君には感情がない」

「君には個性がない」

「君が心を動かすことができるのは死人に対してだけや」

「周りと比べてみぃ?」

「君は感情があるふりをしてるだけや」

「普通の人間の振りをした無個性を表現してるだけや」

「周りが心を揺さぶられてることを瞬時に把握して同じ反応をしてるだけや」


「へぇ、そのミミ本物と繋がってたんか」

「ええ声したなぁ」

「右腕、引き裂いた時よりもいい声出したんとちゃうか?」



「お前さ……未来の、理解者だったんだろ」

「未来も、お前も理解者だろ!?」

「なのになんで!」

「なんであの時裏切った!?」

「……知らん時と、知った時。対応が変わるんは当たり前やろ?」

「相沢ちゃんは、この世におったらあかん存在や」

「僕はあの子を殺す。絶対にな」


「頼むから……ッ!」


「未来をっ! これ以上あいつを傷つけないでくれ!!」


「頼むから……っ!」


力いっぱい、押し込もうとする。だけど、届かない。

ケタが違いすぎる。


「ごめんなあ、土屋君」


「ボクは、君のこと嫌いなんよ」


「だからボクは、君には優しくせぇへんよ?」


腹を一発。


「やめ、て……。やっと、やっと……楽しく、過ごせてんだよ……」


「楽しく……ねぇ」


「がっ!!」


「【炎症えんしょう】!」


「くっ……!!」


「へぇ、傷口を悪化させて継続ダメージを追加してきてんのやね。おもろい使い方すんなぁ? おかげさんでジンジンズキズキしとるわぁ」


おかしい。


「でもなぁ土屋君」


そんな、ジンジンズキズキなんてレベルの痛みじゃないはずなのに。


「これくらいで僕を動かれへんように出来ると思ってんなら、甘いでぇえええっ!!!」


なんで……なんでこんなに、笑ってるんだ。


「じゃあ、もう一回言うで」

「君は、人間でないモノとしてひとりで生きていかないといけない。今までも、これからも。この先ずっと」

「もう一回聞くで。相沢ちゃん」

「君は、何者や?」

「私は……私は、バケモノです」

「人間では、ありません」

「……はい。よくできました」


ああ。未来が泣いてる。

やめてくれ。

やめてくれ。

泣かせないでくれ。

また……

また、一人で生きていかなくなる。

また、人と関わっちゃいけないんだって思ってしまう。


また守れないのか。

守る守ると言って、今までにそうできたことがあったか?


……ない。

ずっと、ずっと逆だった。

俺が守られる側だった。

守られてばっかだった。


だけど……今、未来は泣いてる。

泣いてるんだ。


今助けなくてどうする。

今立ち上がらなくてどうする。


痛いだ?

苦しいだ?

……ほざけ。

だからなんだ。

それが未来を守らない理由になんのか。

……ねぇよなあ……っ!!

決めたんだろう、自分で。

立て!!


守る為なら

たとえ俺もバケモノと言われたとしても。


「おかしいなぁ。致命傷、与えたつもりやってんけど」


「ということはやっぱり……なぁ、土屋君。きみ、()()なんやな?」


「キューブ以外の能力。相沢ちゃんが死人のガラス玉の能力を使えるように、やっぱり何か隠してんやなぁ」


「死人として生まれたボクが何も知らんと思っとるんか? 逆やで。全部、この世の成り立ちから今に至る全ての(ことわり)を、全てをボクは知っとんねん!」


「せやからボクはこの子を殺そうとするんや。せやからそれを邪魔するキミも殺すんや。全て全てこの国の為やねん!!」


「この()()の連鎖を断ち切るためになあ!!」


つうしんきばき


碧眼は!ぼくらのもんや!!



「この子がこのまま生きていくことが、どれだけこの子の負担になるんかわかっとんやろ?」


「せやったらわかるやろが!! それでどれだけこの子が辛い思いをするかぐらい!!」


「それがどれだけこの子を傷付けることになるんか、わかってへんやろが!!」


「相沢未来はここで殺す。この子の為に、キミの為に、この国の為に!!」


「この国の為に未来を殺す? ふざけんのも大概にしろよ。お前にどんな事情があれ、それが正しいことである根拠を言え! 本当にコイツの命を奪う必要があるのか、そうしない対処法は本当に無いのか!!」


「呪いだと言ったな。わかってるよ、その可能性がある事は!」


「じゃあコイツが死んだ後この国は変わるのか? その後死人というモノがひとつ残らず消えるのか? コイツの犠牲だけでこの国の全てが解決できるって言うのかよ!?」


口先だけの正義なんていらんねん。

見せかけの正義なんて要らんねん!


「お前がどこまで知ってるのか、俺は知らない。だけど、俺が言いたいのも、心に決めてるのも、ただ一つだけだ」


「俺は未来を守る。このふざけた世界から、脅威から」


そして


「コイツの命を脅かすお前からも!!」




──未来を守れ。


「」


守れ。


守れ。


例え己の体が朽ちようとも。


「私情なんて捨て去れや!!」



おでこ

「今のはちょっと痛かったかな。初めての感覚だよ」

「だけどね」

「この程度で僕を殺せるなんて、まさか思ってないよね?」



「弥重ッッ!!!」


ハッとしてすんででとまる


「くふっいいんやで? そのまま殺っても……くひひっ」


手が震える。


「ひひっ! 普段感情を隠してる奴の本性は怖いなぁ? 本気で殺そうとするなんてホンマ……どっちが化け物やねんて話やろぉ?」


「なぁ、怒りにまみれた先導者。そんなにも相沢ちゃんの事が大事なん?」


「やのに、僕に取られそうになって怒り剥き出しにするとかさぁ……」


「嫉妬深い男はきらわれるでぇ?」


「【】ッ!!!」


1ミリ


「はぁっ……!はぁっ……!」


「……弥重」


毒抜く



「ごめん……ごめん、僕は……」


「大丈夫。大丈夫だ、弥重」


「あんなの、誰だってそうなる」



1ヶ月という期間の予定だった遠征を、半分に短縮しての2週間での強行突破。そこまでしたのに、誰ひとりとして生きていなかったーーから急いで帰還した直後に、心身を極限まで傷付けられたガキんちょの姿。そして、あの煽り方。むしろ、言葉だけで殺そうとしたのを止められたのは、弥重だったからこそだろう。




「よく言った。隆一郎」

「僕の大事な子たちに何してるの」


「凪、さん」


「よく頑張ったね」

「もう大丈夫」


「僕が来るまでよく耐えた」

「あとは、僕に任せなさい」


「でもなぁ土屋君。よぅ覚えときや」

「僕は呪いの根源でも無ければ産月(うみつき)でもない。僕に勝たれへんようじゃ、今後相沢ちゃんを守るなんて無理やで」

「まあもちろん、産月と同じぐらいの歳は生きてるけどな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ