没案・キューブについて
「キューブが、使用者を殺すと言うんですか」
無惨な死体。その死に方は、死人に殺されたマダーと似た風貌を持っていた。
あまりにも、残酷。残酷。残酷。
非道にも程がある、そう言いたくなるほど残虐で痛々しい、見るに堪えないその死体は、人の手で殺されたものとは似ても似つかない。
人以外の何者かに、人以外の脅威に、人を守ってきたはずの神の産物に、殺された。
「別におかしな話じゃねぇだろ」
流星さんはこちらには振り向かない。
腕から滴る血を巻き戻して、体内に吸収しながら静かに続けた。
「危なくない武器が存在しねぇのと同じだ。刀は自分に向けたら刺さって怪我するし、相手を爆弾で追い込んだら自分も巻き込まれる可能性がある。銃をぶっ放せばかえりだまでこっちが死ぬかもしれねぇ」
「どんな武器だって、人を殺せるもんである限りそれを扱う自分も死ぬ覚悟をしてなきゃなんねー」
「キューブも一緒だ」
こちらにゆっくりと顔を向ける。
「キューブには好き嫌いがある。完成されたキューブは好みの使用者を見つけ、そいつを主として一つの文字を与える。そうして戦場に迎え入れる」
「それがキューブだ」
「そいつを『好んで』選ぶんだ。使用者を好めなくなったら。使用者が使用者の資格を持っていないとキューブが認識したら。使用者の存在である必要がなくなれば」
「キューブは、使用者を殺して自滅する」
「キューブは人間の脳みそ使って能力を生み出すんだぞ。こいつらは最初っから、俺らの脳を人質に取ってんだよ」
「こんな戦場だ。いつ自分が死ぬかも分からない環境で、周りで仲間が死んでいく」
「自分もそのうち同じようになるんだろう。自分も近いうちに殺されるんだろう」
「そんな恐怖を抱いてまで、命をかけてまで、そいつに守りたいものがあるのか」
「ねぇだろ。大抵の人間は自分が可愛いんだから」
「人を守る?国を守る?選ばれた人間だから自分の身を放り出して化け物と戦いに行け?」
「ほざけ。そう思うだろ」
「望んでもいない戦争に駆り出されて、いざ自分の命が奪われそうになった瞬間、死にたくないなんて思うヤツはいねぇんだよ」
「ただ死にたくないだけならいいんだ。その時に、思わなければ」
「キューブに選ばれさえしなければ、生きていられたのに……ってな」
「キューブは、自分を裏切る使用者を許さない」
「こいつらは、奴ら死人を葬る力を持つ兵器であると共に、自我を持つ悪魔なんだよ」
「わかったら死ぬ気でやれ。キューブに殺されないように」
「ありがとうございます、流星さん」
「言われなくても、覚悟はしていました」
「前線に連れていってください」
「俺にはその権限はない」
「そこに弥重がいる。前へ行きてぇなら直談判してこい」
「……止めないんですか」
「俺は、あいつほど慎重じゃないだけだ」
「お前は十分、前で戦っていけると思ってる」
「ありがとうございます」
「……来たね」
「明朝、ここを出る」
「その先で行く戦いで、お前の覚悟を見せてもらう」




