監査団、静かに踏み込む
監査団との静かな心理戦回です。
声を荒げない強さを描いています。
王都公式監査団は、朝靄の中を進んできた。
紋章入りの馬車。
記録官、魔術測定官、護衛。
形式は整っている。
名目は“安全確認”。
本音は牽制。
「ようこそ」
ハルはいつも通りだった。
門もない。
壁もない。
隠す気配もない。
それが逆に、監査官の警戒を強める。
「我々は王都より派遣された監査団だ」
「うん、聞いてる」
緊張が、拍子抜けする。
測定が始まる。
土壌魔力濃度。
水質。
作物の魔力反応。
精霊の同調波。
数値が次々と記録される。
「……異常値なし」
測定官が小さく呟く。
「安定しすぎている」
それが逆に気味が悪い。
ルナが静かに問う。
「何を疑っていますか」
監査官は答える。
「人工的な魔力操作」
「王都に脅威となる可能性」
レイナが一歩前へ出る。
「脅威?」
空気がぴんと張る。
だがハルが軽く手を上げる。
「落ち着け」
エリシアが穏やかに説明する。
「精霊との共鳴は、強制ではありません」
その証拠に、監査官の肩にも小さな光が触れる。
拒絶はない。
恐怖もない。
ただ、柔らかい。
監査官は思わず息を止めた。
心理戦は続く。
「生産量を増やす予定は?」
「ない」
即答。
「市場支配の意図は?」
「ない」
「軍事利用は?」
「ない」
あまりにも簡潔。
嘘をつく者の挙動ではない。
だが監査官は言う。
「意図がなくとも、影響は出る」
リリアが一歩出る。
「だからこそ供給制限をしています」
「価格も安定維持」
ダリオが補足する。
「急激な市場操作はしていません」
理詰めで返す。
焦らない。
怒らない。
揺れない。
沈黙のあと、監査官が言う。
「明日、最終確認を行う」
まだ終わらない。
だが、崩せない。
森の空気は、静かに保たれていた。
疑いは、ぶつかるよりも“測る”形で来ました。
次回は、作物そのものの証明へ。
月灯り庵




