甘さに群がる者たち
外部のざわつき強化回です。
森は穏やか。
外は焦る。
この温度差が物語を加速させます。
王都中央市場。
精霊の森の米は、三日連続で完売していた。
「次はいつ入るんだ!」
「予約できないのか!?」
商人ギルドの前は人で溢れている。
ダリオは冷静に告知板を張り替える。
“数量限定・抽選制”
焦らせない。
煽らない。
森との約束だ。
だが、その様子を遠くから見つめる影があった。
ヴァルツ侯爵。
「……面白くない」
低い声が石畳に落ちる。
「一商人に流通を握らせるとは」
側近が言う。
「独占状態です」
「違う」
侯爵は首を振る。
「問題はそこではない」
市場が森を“必要”とし始めている。
それが問題だ。
王都上層区。
貴族の食卓でも、精霊の森の名が飛び交う。
「噂以上ですわ」
「魔力の巡りが整う気がする」
「これを定期供給させよ」
命令が飛ぶ。
金が動く。
噂が膨らむ。
甘さが、価値になる。
商人ギルド本部。
重役会議。
「精霊の森の流通を再編すべきだ」
「ダリオを外せ」
「価格を釣り上げろ」
焦りが、声を荒げる。
だが別の声が言う。
「急げば、森が供給を止める」
沈黙。
彼らはまだ知らない。
森は“売らない”選択もできることを。
その頃、森では。
「今日も静かだな」
ハルがのんびり空を見上げる。
レイナが笑う。
「王都は騒いでるらしいぞ」
「へえ」
本当に他人事。
ルナが言う。
「供給量は増やさない」
「うん」
「値段も維持」
「うん」
「焦らない」
「うん」
即答。
森の中心は、揺れない。
だが風が少し変わる。
エリシアが空を見上げる。
「精霊がざわついています」
リリアが報告書を握る。
「反対派が、監査強化を検討中」
ハルは立ち上がる。
「来るなら来ればいい」
静かな声。
だが軽くはない。
「隠すことないし」
その言葉に、精霊がふわりと舞う。
王都。
ヴァルツ侯爵が命じる。
「次の出荷日に合わせ、公式監査団を送れ」
「名目は安全確認だ」
本音は、牽制。
甘い村を、管理下に置くための一歩。
市場では。
噂が噂を呼ぶ。
「精霊の森の野菜も入るらしい」
「果実酒も出るとか」
価値が膨らむ。
期待が増幅する。
甘さは、止まらない。
夜。
森は静かだ。
火を囲みながら、ダリオが言う。
「王都が揺れています」
「揺れればいい」
ハルは穏やかに答える。
「俺たちは揺れない」
ルナが微笑む。
「揺らがない甘さ」
レイナが拳を鳴らす。
「来るなら歓迎」
リリアが静かに決意する。
「守ります」
精霊の森は、変わらない。
だが世界は、甘さを巡って動き出している。
甘さは魅力。
魅力は、争いの種にもなる。
次回――
公式監査団、到着。
精霊の森はどう迎えるのか。
月灯り庵




