御用商人、覚悟を問われる
御用商人、正式審査回です。
甘い村ほど、信用を重くします。
ダリオ・クラウゼは、精霊の森の小屋の前で深呼吸をしていた。
「商談は何度もしてきた……」
「だがこれは、商談ではない」
これは――審査だ。
森の空気は甘い。
だが、その中心に立つ者たちは、甘くない。
小屋の中。
円卓のように座る四人。
ハルはいつも通り穏やかだ。
だが、両隣。
ルナとレイナ。
そして向かいにエリシア。
逃げ場がない。
リリアは少し後ろで書類を整えている。
完全に裁判構図である。
ルナが静かに口を開く。
「ダリオ」
「は、はい」
「あなたは森の価値を売ると言った」
「ええ、言いました」
「では確認するわ」
視線が冷える。
「価格が高騰した場合、どうする?」
「……需要が増えれば、通常は――」
「通常は?」
ダリオは一瞬迷い、言い直す。
「価格を上げます」
レイナが腕を組む。
「森はどうなる?」
「……貴族の独占市場になります」
「正直ね」
怖い。
エリシアが続ける。
「もし王都の有力者から圧力があったら?」
「優先的に回せ、と」
「ええ」
ダリオは答える。
「断ります」
即答。
空気がわずかに動く。
「なぜ?」
ルナが問う。
「この森の信用を失う方が、長期的に損だからです」
打算。
だが理性的。
ルナはじっと見つめる。
嘘はない。
レイナが椅子にもたれる。
「じゃあさ」
「はい」
「ハルが狙われたら?」
核心。
商人の顔が、初めて真剣になる。
「……全力で隠します」
「隠す?」
「流通情報を偽装し、取引経路を分散し、所在を曖昧にする」
リリアが少し目を見開く。
「本気ですね」
「私は生き延びるのが得意です」
沈黙。
ルナが静かに言う。
「最後の質問」
ダリオの喉が鳴る。
「あなたにとって、この森は何?」
商人は答えを探す。
利益か。
名誉か。
だが、思い出す。
初めて食べた米。
あの空気。
笑い声。
「……誇り、です」
言ってから、自分で驚く。
「守りながら売れる唯一の品です」
静寂。
精霊が、ふわりと舞う。
拒絶はない。
ハルがぽつりと言う。
「俺は難しいこと分からないけど」
ダリオが顔を上げる。
「裏切らないなら、それでいい」
単純。
だが一番重い。
ルナが小さく頷く。
「条件付きで、正式に御用商人と認める」
レイナがにやりと笑う。
「裏切ったら森全員敵だからな」
エリシアが穏やかに言う。
「覚悟を持ってください」
リリアが書類を差し出す。
「契約書です。透明性条項付き」
商人は受け取る。
手が少し震えている。
ダリオは深く頭を下げた。
「精霊の森の名を、傷つけません」
それは商人の誓い。
金ではなく、信用の誓い。
外へ出る。
空を見上げる。
「甘い村だと思ったが……」
「怖いな」
だが同時に。
胸が熱い。
「面白い商売になりそうだ」
精霊の森に、商いの根が下りた。
甘さはそのまま。
だが、守る者がまた一人増えた。
精霊の森は、利益より信頼。
でも信頼は、最大の価値になります。




