王都視察団、襲来(でも甘い)
今回は王都視察団回でした。
緊張→安心→友好へ。
なろう的に「主人公格上げ確認回」です。
「……来るらしい」
ローベルトが真顔で言った。
ハルは畑で土を触っていた手を止める。
「何が?」
「王都から視察団です」
空気が一瞬止まる。
レイナがぴくりと反応する。
「敵?」
「公式には友好視察です」
「公式には、って何」
ルナが静かに問う。
ローベルトはため息をついた。
「王都はまだ半信半疑なのです」
三日後。
馬車が三台、森へ入ってきた。
先頭には若い伯爵。
後ろに文官、護衛、記録官。
空気は張り詰めている。
「ここが……」
伯爵が呟く。
森の空気に触れた瞬間、表情がわずかに緩む。
「……柔らかい」
ハルは小屋の前で手を振った。
「いらっしゃい」
その一言に、文官が戸惑う。
「え、門番は?」
「ない」
「検問は?」
「ない」
伯爵が小さく笑う。
「なるほど」
案内される一行。
水路を見て、文官が目を丸くする。
「水質が王都基準以上……?」
畑を見て、記録官が震える。
「魔力浸透率が安定しすぎている」
エリシアが静かに言う。
「自然に整えただけです」
「自然でこれですか?」
昼食。
ルナが静かに料理を並べる。
レイナが堂々と肉を運ぶ。
エルフたちが整然と配膳する。
伯爵が一口、米を食べる。
止まる。
「……これは」
文官も食べる。
「甘い……?」
「いや、優しい」
表現に困る。
ローベルトは横で腕を組む。
(分かるだろう)
視察団は観察する。
ハルの周囲に自然に集まる精霊。
ヒロイン三人の距離感。
笑い声。
緊張が、溶ける。
だが。
護衛隊長が低く言う。
「統率者の能力を確認したい」
空気が少しだけ張る。
レイナが一歩前へ出る。
「必要?」
伯爵が制止する。
「形式です」
ハルは首をかしげる。
「能力って?」
「精霊同調の実演を」
ハルは困った顔をする。
「実演って言われても」
少し考え――
畑へ向かう。
「水、少し欲しいな」
精霊がふわりと動く。
水が流れ、風が通る。
土が柔らかくなる。
派手ではない。
だが、空気が変わる。
伯爵が息を呑む。
「……森が応えている」
視察団は理解する。
これは支配ではない。
共鳴だ。
奪えない。
命令できない。
「危険ではない」
伯爵が静かに言う。
「むしろ――守るべきだ」
夕暮れ。
伯爵がハルに向き直る。
「精霊の森は、王都と友好関係を結びたいか?」
ハルはあっさり答える。
「争わないなら、いいよ」
単純。
だが揺るがない。
ルナが微笑む。
レイナが腕を組む。
エリシアが目を細める。
帰りの馬車。
文官が呟く。
「甘すぎませんか、あの村」
伯爵が笑う。
「甘いが、芯がある」
ローベルトが小さく言う。
「精霊の森は、攻める場所ではない」
「育てる場所です」
誰も反論しなかった。
森。
「なんか大事になってない?」
ハルがぽつり。
ルナが肩をすくめる。
「あなたが何もしないからよ」
レイナが笑う。
「何もしてないのに強いって、ずるくない?」
精霊がくるくる回る。
今日も森は穏やか。
だが。
外の世界は、確実に動き始めている。
精霊の森は、ただ甘いだけではありません。
甘くて、強い。




