王都に芽吹くもの
今回は世界が一段広がる回でした。
村の甘さが、王都に波及します。
なろう的には「主人公無自覚で勢力拡大」要素です。
王都・中央庁舎。
重厚な石造りの会議室で、数人の貴族と官僚が円卓を囲んでいた。
「精霊の森の報告書だ」
書類が回る。
・作物品質:特級相当
・魔物被害:確認ゼロ
・内部統治:安定
・外部への敵意:なし
「異常だな」
ひとりが言う。
「あるいは、理想的か」
別の声が返る。
ローベルトは静かに立っていた。
「現地を再訪しました」
「結論は?」
「危険性は低い」
ざわめき。
「むしろ、王都の安定に寄与する可能性が高い」
「どういう意味だ」
ローベルトは言葉を選ぶ。
「精霊の森は“奪う勢力”ではない」
「与える勢力です」
沈黙。
若い伯爵が興味を示す。
「与える?」
「高品質作物は王都の食糧安定に貢献します」
「精霊同調の研究価値も高い」
「さらに」
ローベルトは少し間を置く。
「統率者が極めて穏健」
「野心なし」
「支配欲なし」
年配の公爵が鼻を鳴らす。
「そのような人間がいるものか」
ローベルトは淡々と答える。
「います」
そして心の中で付け加える。
(甘すぎるほどに)
会議後。
廊下で、若い伯爵が声をかける。
「ローベルト卿」
「は」
「私は興味がある」
「精霊の森と、穏やかな関係を築きたい」
ローベルトは目を細める。
「本気ですか」
「王都は疲れている」
伯爵は小さく笑う。
「争いと税と陰謀に」
「……あの森の報告書は、妙に温度があった」
ローベルトは一瞬だけ驚く。
「温度?」
「文字の隙間から伝わる」
伯爵は静かに言う。
「あなた、あそこを守りたいのだろう?」
ローベルトは否定しなかった。
数日後。
王都内で小さな動きが始まる。
「精霊の森との協調を検討すべきだ」
「無用な干渉は避けよ」
「友好交易路を整備する案を」
小さな声。
だが確実に広がる。
やがてそれは――
“精霊の森派閥”と呼ばれ始める。
その頃、森では。
「ハル、また精霊が増えてる」
ルナが言う。
「え?」
レイナが笑う。
「人気者だな」
エリシアは空を見上げる。
「外の流れが、少し変わりましたね」
ハルは首をかしげる。
「なんかした?」
「何もしてない」
「いつも通り畑やってただけ」
ルナが微笑む。
「それが一番怖いのよ」
王都。
公爵が呟く。
「甘い村だ」
伯爵が返す。
「甘いが、腐ってはいない」
ローベルトは静かに言う。
「甘さは、強さです」
誰も反論しなかった。
精霊の森は、今日も変わらない。
笑い声。
穏やかな水路。
月明かり。
だが王都では、確実に“風向き”が変わり始めている。
静かに。
確実に。
甘さが、政治を動かし始めていた。
精霊の森は、ただ守られる存在ではありません。
気づけば影響を与えている。
静かに、しかし確実に。




