再び森へ ― 甘さに触れた者
今回はローベルト味方化回でした。
外部との橋渡し役ができると、物語は一段安定します。
数日後。
精霊の森の入口に、ひとりの男が立っていた。
「……また来てしまったな」
ローベルトである。
王都への報告は、穏やかに書いた。
だが上層部は完全には納得していない。
「現地の空気を、もう一度確かめろ」
そう命じられた。
だが彼自身も――
もう一度、あの空気を確かめたかった。
森へ足を踏み入れる。
前回と同じ。
いや、それ以上に――
空気が柔らかい。
水路の水が澄み、畑は整い、人々の声が穏やかに響く。
そして。
「おや」
ローベルトに、気づいた者がいた。
ハルだ。
「この前の人だよな?」
警戒が、ない。
無防備すぎる。
「……また調査か?」
「いえ、今日は正式な訪問です」
ハルは少し考え、あっさり言う。
「じゃあ、茶でも飲むか?」
ローベルトは固まる。
「……いいのか?」
「隠すものないし」
笑顔。
それが一番困る。
小屋の中。
ルナが静かに紅茶を淹れている。
レイナは腕を組みながら観察。
エリシアは、やわらかく微笑む。
「本日は、どのようなご用件でしょう」
エリシアの言葉は丁寧だが、牽制も含んでいる。
ローベルトは正直に言う。
「王都は、貴村の“安定性”に関心を持っています」
レイナがぴくりと反応する。
「関心って?」
「支配ではない」
即答。
「少なくとも、私はそう動かすつもりはない」
ハルは首をかしげる。
「俺たち、ただ畑やってるだけだぞ?」
「それが異常なのです」
ローベルトは真顔で言う。
「魔物被害ゼロ。作物は高品質。内部対立なし」
ルナが淡く笑う。
「対立はあるわよ」
レイナが即反応。
「ちょっと!」
空気が一瞬、和む。
ローベルトは思わず小さく笑った。
気づく。
自分が、笑っていることに。
「……私は」
ローベルトはゆっくり言葉を選ぶ。
「この森を“危険指定”から外したい」
空気が静まる。
「ただし条件があります」
「条件?」
「外と、最低限の繋がりを持ってください」
孤立は疑念を生む。
それが王都の論理だ。
ハルは腕を組む。
「繋がりって?」
「交易。情報交換。形式上の協力関係」
ルナが静かに問う。
「それは支配ではないの?」
「違います」
ローベルトはきっぱり言う。
「私は、この森を壊したくない」
本音だった。
沈黙。
やがてハルが言う。
「じゃあさ」
「はい」
「ローベルトさんも、たまに来ればいい」
全員がハルを見る。
「え?」
「外との窓口ってやつ?」
「俺、政治とか分からないし」
あまりにも自然。
あまりにも信用しすぎ。
ローベルトは胸が熱くなるのを感じた。
「……私を、信用するのか」
「今のところ、悪い人じゃなさそうだし」
レイナがぼそっと言う。
「裏切ったら殴るけど」
ローベルトは苦笑する。
「肝に銘じます」
そのとき。
精霊が、ふわりとローベルトの肩に触れた。
温かい。
拒絶ではない。
受け入れ。
ローベルトは小さく息を吐いた。
「……分かりました」
「私は、精霊の森の“外側の盾”になります」
ハルが笑う。
「頼もしいな」
その言葉に、ローベルトは初めて――
この森の一員になれた気がした。
夕暮れ。
丘の上。
ローベルトは森を見下ろす。
甘い。
穏やか。
だが、確かに強い。
「守る価値がある」
そう、心から思った。
精霊の森は、少しだけ外と繋がった。
甘さは変わらない。
でも土台は、確実に広がっている。
精霊の森は、閉じた楽園ではありません。
守るために、少しだけ開く。
それが本当の強さ。




