月明かりの下で、ちゃんと言葉にする
今回は甘さ強化回でした。
静かな告白。
穏やかな独占欲。
精霊の森らしい、やさしい甘さです。
夜の精霊の森は、昼とは違う顔を見せる。
虫の音が静かに響き、木々の間から月の光が落ちる。
ハルはひとり、小屋の前に座っていた。
「……今日は、なんか騒がしかったな」
昼間の“おにぎり事件”を思い出して、少し笑う。
そのとき。
「隣、いいかしら」
ルナが現れた。
銀色の髪が、月明かりに溶ける。
「どうぞ」
ハルが少し場所を空ける。
ルナは静かに座った。
しばらく、無言。
でも嫌な沈黙ではない。
森の音が、間を埋めてくれる。
「……ねえ、ハル」
「うん?」
「今日、困っていたでしょう?」
ハルは苦笑する。
「まあ、ちょっとな」
ルナはくすっと笑う。
「あなた、誰にも選べないのよね」
「選ぶってなんだよ」
「分かっているくせに」
少しだけ、真面目な空気になる。
「私ね」
ルナが月を見上げる。
「独りだった時間が長いの」
ハルは黙って聞く。
「だから、誰かと並んで座る時間が……まだ、少しだけ怖い」
その声は、静かだった。
「でも」
ルナはハルを見る。
「あなたといると、怖くないの」
ハルは、少しだけ目を丸くする。
「……それは、嬉しいな」
ルナが微笑む。
「だから、少しだけ欲張りになる」
「欲張り?」
「ええ」
そっと、ハルの袖を掴む。
「あなたの隣は、できれば私の場所であってほしい」
真っ直ぐな瞳。
逃げない言葉。
ハルはしばらく黙って、月を見た。
そして、ゆっくり言う。
「ルナ」
「なに?」
「俺は、誰か一人を特別扱いするのが上手くない」
「知ってるわ」
「でもな」
ハルは視線を戻す。
「隣にいて落ち着くのは、ルナだよ」
ルナの呼吸が、ほんの少し止まる。
「それは……どういう意味?」
ハルは少し照れながら笑う。
「そのままの意味」
「静かで、強くて、でも優しい」
「……」
「俺はルナといる時間が好きだ」
真っ直ぐ。
逃げない言葉。
ルナの指先が、少しだけ震える。
そして。
「……ずるいのは、あなたよ」
小さく笑う。
そのまま、肩にそっと寄りかかる。
「少しだけ、こうしていていい?」
「いいよ」
月明かりの下、二人の影が重なる。
遠くの木の上。
レイナが腕を組んで見ていた。
「……はあ」
ため息。
でも、怒っていない。
エリシアが隣に立つ。
「今は、あの時間を尊重しましょう」
レイナは鼻を鳴らす。
「分かってるよ」
そして、ぽつり。
「でも次は、私の番だからな」
エリシアがくすっと笑う。
月が少し高くなる。
ルナが小さく呟く。
「ありがとう、ハル」
「何が?」
「ちゃんと、言葉にしてくれて」
ハルは空を見る。
「言わないと分からないこともあるだろ」
ルナは、静かに目を閉じる。
「……あなたは、本当に森に愛されているわ」
「森より先に、ルナに愛されたいけどな」
一瞬、沈黙。
そして。
「……ばか」
でも、その声は甘かった。
精霊たちが、静かに光る。
今日の“にこにこ”は、少し特別だった。
言葉にすること。
隣にいること。
それだけで、世界は少し満ちます。




