静かな火花と、甘いおにぎり
人気が出やすい“軽い火花回”ですが、
本作はあくまで優しい世界。
争いではなく、想いのぶつかり合い。
その日の精霊の森は、やけに平和だった。
ハルは畑で作業を終え、小屋へ戻る。
すると――
「ハル、お疲れ様」
ルナが湯気の立つお茶を差し出す。
「ありがとう」
ほっと一息。
そこへ。
「ハル! こっちも見て!」
レイナが元気よく駆け寄ってくる。
「今日の見回り、完璧だった!」
「おお、頼もしいな」
レイナの耳がぴくりと動く。
「でしょ?」
その様子を、ルナが静かに見ている。
「……そういえば」
ルナが穏やかに言う。
「今日の昼食は、私が用意したわ」
テーブルの上には、綺麗に並んだおにぎり。
「おお、美味そう!」
ハルが嬉しそうに座る。
そこへ、レイナがにやりと笑う。
「実はさ」
「ん?」
「私も作ってきたんだよね」
どん、と別の包みが置かれる。
空気が、ほんの少しだけ張る。
エリシアが、静かにお茶を飲みながら観察している。
(……始まったわね)
ハルは両方を見比べる。
「どっちから食べようかな」
ルナ、微笑み。
「好きなほうからどうぞ?」
レイナ、にっと笑う。
「迷うくらいなら、私のからでいいよ?」
目は笑っている。
でも。
火花が、ちりっと見えた気がした。
ハルは一口。
「……うまい」
ルナのを食べる。
「優しい味だな」
レイナのを食べる。
「お、こっちは元気出る感じ」
両方を見て、素直に言う。
「どっちも好きだな」
沈黙。
ルナとレイナが同時に言う。
「……ふーん?」
レイナが腕を組む。
「ねえ、ハル」
「ん?」
「どっちが“毎日”でもいい?」
ルナがさらりと続ける。
「そうね。毎日作るなら、どちらがいい?」
エリシアが小さく吹き出しそうになる。
ハルは、きょとん。
「毎日?」
「うん」
「ええ」
ハルは少し考え、笑った。
「じゃあさ」
「交代で」
一瞬、静まる。
「……ずるい」
ルナが呟く。
「平等主義かよ」
レイナが笑う。
だが次の瞬間。
ルナが言う。
「なら、明日は私の番ね」
レイナが即答。
「その次は私」
「週三は私」
「多くない!?」
ハルが慌てる。
エリシアが穏やかに言う。
「では、私はお茶係で」
「それも参加なの?」
「当然よ」
しばらくして。
三人は並んで座る。
「ねえ、ルナ」
レイナがぽつりと言う。
「なんだかんだ、あんた料理うまいよね」
ルナが少し驚き、それから微笑む。
「あなたも、思ったより丁寧だったわ」
レイナがむっとする。
「思ったよりって何!」
ハルが笑う。
「仲いいなあ」
二人が同時に振り向く。
「仲良くない!」
その声が重なる。
そして――
精霊たちがくすくす笑う。
夜。
ルナがぽつりと呟く。
「……でも」
レイナが横目で見る。
「なに?」
「譲る気はないわよ」
レイナがにやっと笑う。
「私も」
静かな火花。
でも、その火は暖かい。
精霊の森は、今日も平和だった。
人気が出やすい“軽い火花回”ですが、
本作はあくまで優しい世界。
争いではなく、想いのぶつかり合い。




