秘密の旅支度
王城、東塔の私室。
夜の灯りの下で、リシェリアは地図を広げていた。
王都から港町ラディア。
そしてその先、精霊の森。
線は細い。
だが確実に繋がっている。
「本気ですか?」
侍女のアナが小声で言う。
「はい」
迷いはない。
だが無謀でもない。
リシェリアは冷静だ。
「公式訪問では、森は構えるでしょう」
「極秘でなければ意味がありません」
教育係グラディウスの警戒は理解している。
だからこそ、準備する。
勢いでは行かない。
まずは身分。
王女としてではなく、学徒として。
王都学術院の地方視察名目。
港町経由。
護衛は最小限。
信頼できる者のみ。
「陛下はご存知で?」
アナが問う。
リシェリアは小さく微笑む。
「半分だけ」
完全な秘密ではない。
だが正式許可でもない。
父は止めなかった。
それが答えだ。
机の上に、森からの書簡の写しがある。
簡潔な文。
『暮らしを守るのみ』
その一文が、頭から離れない。
王都は制度で守る。
森は暮らしで守る。
違いを、この目で見たい。
「危険かもしれません」
アナが言う。
「はい」
リシェリアは頷く。
「でも、知らない方が危険です」
王女は未来を背負う。
知らずに判断することはできない。
数日後。
港町への公式視察が発表される。
王女リシェリア、海産振興の勉強のため出立。
誰も疑わない。
港町は今、話題の中心。
森は表には出ない。
出発前夜。
リシェリアは窓辺に立つ。
遠くの闇。
その先に森がある。
「急がない」
森の在り方を、真似るように。
焦らず、しかし止まらない。
その頃、森では。
ソラが「みな」と小さく声を出す。
ミナが笑う。
カイが光に触れる。
ハルは畑を整える。
森は、王女の旅支度を知らない。
だが未来は、静かに近づいている。
王城、東塔の私室。
夜の灯りの下で、リシェリアは地図を広げていた。
王都から港町ラディア。
そしてその先、精霊の森。
線は細い。
だが確実に繋がっている。
「本気ですか?」
侍女のアナが小声で言う。
「はい」
迷いはない。
だが無謀でもない。
リシェリアは冷静だ。
「公式訪問では、森は構えるでしょう」
「極秘でなければ意味がありません」
教育係グラディウスの警戒は理解している。
だからこそ、準備する。
勢いでは行かない。
まずは身分。
王女としてではなく、学徒として。
王都学術院の地方視察名目。
港町経由。
護衛は最小限。
信頼できる者のみ。
「陛下はご存知で?」
アナが問う。
リシェリアは小さく微笑む。
「半分だけ」
完全な秘密ではない。
だが正式許可でもない。
父は止めなかった。
それが答えだ。
机の上に、森からの書簡の写しがある。
簡潔な文。
『暮らしを守るのみ』
その一文が、頭から離れない。
王都は制度で守る。
森は暮らしで守る。
違いを、この目で見たい。
「危険かもしれません」
アナが言う。
「はい」
リシェリアは頷く。
「でも、知らない方が危険です」
王女は未来を背負う。
知らずに判断することはできない。
数日後。
港町への公式視察が発表される。
王女リシェリア、海産振興の勉強のため出立。
誰も疑わない。
港町は今、話題の中心。
森は表には出ない。
出発前夜。
リシェリアは窓辺に立つ。
遠くの闇。
その先に森がある。
「急がない」
森の在り方を、真似るように。
焦らず、しかし止まらない。
その頃、森では。
ソラが「みな」と小さく声を出す。
ミナが笑う。
カイが光に触れる。
ハルは畑を整える。
森は、王女の旅支度を知らない。
だが未来は、静かに近づいている。
未来を背負う者は、知らずに決めてはいけない。
王女は動き出しました。
森と王都の距離は、少しずつ縮まっています。
―― 月灯り庵




