王女の好奇心
王女が森に興味を持つ回です。
政治ではなく、純粋な好奇心。
未来同士が、まだ出会わない段階です。
王城、東の塔。
王女リシェリアは、窓辺に立っていた。
年は十六。
聡明で、慎重で、そして少し退屈している。
王都の教育は完璧だ。
規律、歴史、外交、戦術。
だが最近、耳にする言葉がある。
――精霊の森。
「またその書簡ですか?」
侍女が微笑む。
リシェリアは軽く肩をすくめる。
「港町が継続を宣言」
「森は組み込まれず」
「王は観察を選択」
それは政治の話。
だが彼女の興味は別のところにあった。
「子どもが、精霊と共鳴するらしい」
ぽつりと呟く。
侍女は少し困った顔をする。
「誇張では?」
「かもしれない」
だが報告は一貫している。
支配していない。
囲っていない。
拡張していない。
それでも広がる。
「なぜ?」
リシェリアは小さく笑う。
王都では、広げるには力が必要だ。
規律が必要だ。
命令が必要だ。
だが森は違う。
命令がない。
それが、気になる。
その夜。
王女は父王に尋ねる。
「森は危険ですか?」
王は静かに茶を置く。
「今は、いいえ」
「将来は?」
王は少しだけ微笑む。
「未来は、揺れ次第だ」
答えになっているようで、なっていない。
だがリシェリアは感じる。
父は森を恐れていない。
むしろ、見ている。
「行ってみたいと思うか?」
突然の問い。
リシェリアは驚く。
だがすぐに目を細める。
「はい」
即答だった。
理由は言葉にできない。
ただ――
知りたい。
命令で動かない場所を。
「まだ早い」
王は言う。
「だが、いずれな」
リシェリアは頷く。
急がない。
森は急がないらしいから。
その頃、森では。
ソラが揺り籠で小さく声を出す。
ミナが微笑む。
カイが光に触れる。
ハルは畑を耕す。
森は王女を知らない。
だが王女は、森を知り始めている。
窓辺に立つリシェリア。
遠い森を思う。
「広げないのに、広がる……」
それは脅威ではなく。
羨望に近い感情だった。
精霊の森は、今日も静か。
だが王女の中で、ひとつ芽が生まれた。
力ではなく、在り方に惹かれる心。
森は王女の視界に入りました。
いずれ交わるのか、それとも。
―― 月灯り庵




