38. 異世界の酒場で
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「――で、これは枝豆みたいなやつ、これは焼き鳥みたいなやつ。これは……うーん、あんま似た食べものないかもな……」
「なるほど、いただきます」
私は目の前に並ぶお皿の中から、黄色い野菜を手に取ってみる。
皮の部分を押してみると、確かに枝豆のように中から実がにゅっと出てきた。
口に入れてみると、ガーリックにも似た風味の味付けがされていて、おいしい。
「結構うまいだろ、ここの店いいんだよなー」
そう言ってエイジさんが笑顔でジョッキを煽る。
その隣で、ミネアさんはフライドポテトのようなものを黙々と食べていた。
今日はエイジさん、ミネアさんと共にこちらの世界の酒場に来ている。
先日レオニーダさんが来てくれた時に、エイジさんと逢う許可をもらったのだった。
「他の勇者の方がこちらの世界で過ごすことをどう考えているのか、話を聞いてみたいんです」
そう伝えると、レオニーダさんは少し考えるような表情になる。
その後暫く黙っていたけれど、ミネアさんが同席することを条件にOKしてくれた。
その旨をミネアさんに連絡すると、その日の内にミネアさんから翌日決行の返事があった。
「もしアカリさんがよろしければ、今回はこちらの世界の酒場に行くのはいかがでしょう。アカリさんの絵にも活かせるかも知れませんし」
「えっ、いいんですか? 是非!」
そしてとんとん拍子に話が進み、私はエイジさんの家の近所にある酒場にやってきた。
雰囲気は現代日本でいうビアホールのような印象だ。
皆楽しそうに杯を交わしている。
「わぁ……すごく盛り上がってますね」
「エイジから話を聞く限り、こちらの世界はアカリさんたちの世界に比べると娯楽の種類も多くないのだと思います。なので、おいしい食事とお酒は何よりの楽しみなんですよ」
そう話すミネアさんも心なしか嬉しそうだ。
もしかしたらミネアさんもお酒が好きなのかも知れない。
「ミネア、アカリちゃん、こっちこっち!」
私たちの姿を見付けたエイジさんが元気な声を上げる。
酒場の奥、壁際に陣取ってくれていた。
席に着くと早々に「アカリちゃん、何飲む?」とエイジさんが笑顔で尋ねてくる。
「えっと……エイジさんは何を飲むんですか?」
「まぁとりあえずビールだな」
「こちらの世界にもビールがあるんですね」
「あぁ、名前はアールっていうんだが似たようなもんだよ。味は薄めで海外のビールみたいな感じだけどな。アカリちゃんもそれでいい?」
「はい」
こちらの世界でお酒を飲むのは初めてだ。
そんなに強いわけではないけれど、決して嫌いなわけではないので私はワクワクしながらアールの到着を待つ。
「ミネアさんもアールなんですね。お酒は好きなんですか?」
「そうですね、嗜む程度です」
そう言ってミネアさんは微笑んだ。
大体『嗜む程度』という人ってお酒強いんだよね……なんてことを考えていると、程なくしてジョッキに入った黄金色の飲みものが3つ運ばれてくる。
「それじゃ、アカリちゃんに乾杯!」
「「乾杯!」」
エイジさんの元気な乾杯の挨拶で場がスタートした。
ごくりと一口飲んでみると、確かに味はビールだ。
すっきりしていてとても飲みやすい。
飲み過ぎないように注意しよう。
そしてジョッキを置いたところで――目の前のエイジさんのジョッキが半分程減っていることに驚く。
「えっ、早くないですか?」
「いやー、今日暑かったからさ。酒が進むわ」
エイジさんは上機嫌だ。
聞きしに勝るお酒好きなのかも……そんなことを思いながら私ももう一口ごくりといただく。
うん、確かにおいしい。
「あっ、すいません! こっちアール2杯追加で!」
……2杯?
ジョッキを持ったままエイジさんの隣に視線を移し、私は思わず「えっ」と声を出してしまう。
――そこに座っていたミネアさんのジョッキは既にからっぽだった。
私の驚いた顔に気付き、ミネアさんが微笑む。
「アカリさん、食事はこちらで適当に頼みますね。何か苦手な味などありますか?」
「あ、いえ、大丈夫です……ミネアさん、お酒強いんですね」
「いえいえ、そうでもないですよ」
このビール……いや、アールのアルコール度数はそんなに高くないのだろうか……それともこちらの世界の人たちのアルコール耐性が高いのだろうか……そんなことを考えつつ、私はアールをちびちび飲んだ。
「アカリちゃん、最近どう? 何か面白いことあった?」
てきぱきとミネアさんが店員さんにオーダーする隣で、エイジさんが笑顔で話しかけてくる。
面白いこと……何かあっただろうか。
私は記憶を辿りながら口を開く。
「そういえば、この前シンくんと一緒にディアナさんがいらっしゃいました。魔術団副団長の」
「あぁ、ミネアから聞いた。あの副団長美人だよなー、俺と歳同じくらいらしいけど」
エイジさんが残りのアールを口に流し込みながら言った。
「え、エイジさんっておいくつなんですか?」
「今年で45。気付けばあっという間だよ」
45歳……私のいた世界の課長と同じくらいだろうか。
ディアナさんはもっと若く見えるけれど、副団長というポジションを考えると確かにそのくらいなのかも知れない。
「そうなんですね。確かにレオニーダさんより長く魔術団にいるとか」
「レオニーダからすると歳上部下か。俺はこっちの世界に来て上司も部下もいなくなったから、本当楽でいいわ」
そう言ってエイジさんは豪快に笑った。
その様子を見て、シンくんの言葉が頭を過る。
『こっちの世界の方が好き? ずっとここにいたい?』




