28. 異世界の街中で
そしてミネアさんと私は街までやってきた。
「わぁ、結構人がいますね……!」
街中は人々でにぎわっている。
王城を出て今の家にたどり着く際にはスミスさんに馬車で送ってもらったのでよく見ていなかったが、それこそファンタジー映画に出てくるような街並みがそこにはあった。
石畳の敷き詰められた道の両脇に家や店が並んでいて、活気がある。
「アカリさんが元々いた世界とは違いますか?」
ミネアさんがこそりと私に話しかけた。
私は「はい、結構」と小声で返す。
もしかしたらヨーロッパの観光地などにはこういう景色が残っているのかも知れないけれど、行ったことがないのでわからない。
ただ一つ言えることは、見るものすべてが新しく、とても楽しいということだ。
「あの、ミネアさん。もし絵を描きたくなった時は、少しだけお時間頂いてもいいですか?」
「はい。アカリさんのお仕事の話は聞いておりますので、お好きなだけどうぞ」
快諾してもらえてほっとする。
実際には王様に頼まれているのはあちらの世界を描いた絵なので仕事にはならないけれど、せっかく見た景色をいつかまた再現できるように書き残しておきたかった。
さすがにスケッチブックを広げて優雅にスケッチをするわけにはいかないので、かぶっていたローブの中にノートと鉛筆を忍ばせる。
そう、今日の私は『旅人』風の格好をしていた。
騎士団員と一般人が並んで歩くのは少し違和感があるそうで、ミネアさんから「騎士団員が旅人の引率をしている体でいきましょう」とアドバイスをもらったのだ。
それが功を奏し、特段トラブルなく私は街歩きを楽しむことができた。
どの風景も私にとっては新鮮だけれど、特に店先をながめるのは楽しい。
並べられた野菜や果物は陽の光を反射してどれもつやつやおいしそうに輝いている。
真っ青だったり発光していたり、あちらの世界では見慣れない色の果実もあったりして、一体どんな味がするのだろうと興味を惹かれた。
「王城の食事では、こういう色の食べものは出てこなかったなぁ」
絵を描きながらそうつぶやくと、ミネアさんが「恐らく皮を剥いたからですね」と返してくれる。
「実自体の色は違いますよ。食べてみますか?」
「えっ、いいんですか?」
ミネアさんのご厚意できらきら光る果実を一つ買ってもらった。
間近に見ると、まるでビーズでできているかのようにきらきらと光を放っている。
ミネアさんが手持ちのナイフで器用に皮を剥くと、中からアイボリーがかった色の実が顔を出した。
「アカリさん、どうぞ」
半分切って手渡されたその果実を思い切ってかじってみると、ほのかな甘みが口の中に広がる。
きらびやかな見た目に反してとても優しい味だ。
強いて言えば、りんごに似ているような気がする。
「ほっとする味ですね、おいしいです!」
「それはよかったです。エイジには不評だったので、安心しました」
「そうなんですか?」
「はい、『見た目が派手な割に味薄いな!』といつも文句を言っています」
エイジさんが口を尖らせている様子が目に浮かび、思わず「言いそう……」と苦笑してしまった。
まぁ私と違ってエイジさんはここに来てからずっとこちらの世界の食べものを食べているので、不満を感じることもあるのだろう。
続いて露店を見て回る。
薬、雑貨、アクセサリーなど様々な商品を取扱っていて、店の前を通る度に「安くしておくよ」と店主たちから声をかけられた。
ふと、置物が並べられた露店の前で足が止まる。
それを見逃さなかった店主のおじさんから「旅人さん、王都のおみやげにいかが?」と投げかけられた。
「全部手作りだよ。よかったら手に取って見てみてくれ」
「――ミネアさん、ちょっといいですか?」
「えぇ、ごゆっくり」
しゃがんでその置物たちをながめてみる。
それらは色々な動物の形をしていた。
どれも手作りかと思うとなんだか親近感が湧いて、私は手前にあった置物を手に取る。
手触りからして木彫りだろう。
5センチ四方の大きさのそのドラゴンを模した赤い置物は丁寧に仕上げられていた。
――瞬間、頭の中をルーファスにまたがったレオニーダさんがよぎる。
「……これ、ください」
しばらく吟味した上で、私は選りすぐりの置物を2体購入した。
そのあとも小休憩を挟んで見学を続けていると、段々と空が赤く染まってくる。
夢中になってしまっていたけれど、いい時間になってきたようだ。
「ミネアさん、今日はお忙しい中ありがとうございました。そろそろ夕方になりますし帰りますね」
そう申し出ると、ミネアさんが「わかりました」と頷いた。
「それでは家までお送り――」
「おっ、いたいた。ミネア!」
いきなり背後から響いた声に慌てて振り返る。
すると、そこには――そう、エイジさんが立っていた。
「――え、エイジ?」
「今日いねぇからどこ行ってたのかと思ったら、旅人の引率か? おまえも忙しいねぇ」
そして近付いてきたエイジさんが私の方を見て――あれ、と目を丸くする。
「アカリちゃんじゃん。どしたの? その格好」
私は何も言えず、ハハハと笑うことしかできない。
今回はエイジさんに逢う予定ではなかったので、レオニーダさんにも外出を伝えていなかった。
ひとまずお暇しようとした私に、エイジさんが笑顔で話しかけてくる。
「そうだ! アカリちゃん、これから飲みに行くけど一緒行く? こっちの飲み屋行ったことないでしょ」
「あー、えっと……」
「何バカなこと言ってるんですか。急に行けるわけないでしょう」
ミネアさんが呆れた顔で言って、エイジさんが「えー、楽しいのに……」と眉を下げた。
本当に二人は仲がいいなぁ。
そんな思考を切り裂いたのは、誰かが上げた大声だった。
「――君、待ちなさい!!」




