27. 魔術団長の評判 -ホットケーキとともに-
「あぁ、恐らく魔術団長はエイジがあまり好きではないのです」
ミネアさんはそうさらりと言って、ホットケーキをぱくりと食べた。
もぐもぐしながら、普段冷静な顔が少しだけほころぶ。
「えっ、そうなんですか?」
そんなミネアさんを見ながら、私はコーヒーを口に運んだ。
今日はミネアさんと一緒に街にお出かけすることになっている。
先日渡されたアイテムで連絡を取ったところ、すぐに都合をつけてくれたのだった。
何かお礼がしたいと思っていたところ、ミネアさんから「差し支えなければ、アカリさんのお料理を頂いてもいいでしょうか」と言われ、現在に至る。
集合時間が午前中だったこともあり、ブランチ的なイメージでホットケーキを焼いてみた。
あちらの世界にいた時にはたまに週末の朝食べていたのだけれど、今日はお出かけということもあり、なんだか休日気分で楽しくなる。
ホットケーキだけでは足りないかと思い、サラダと目玉焼きもつけてみた。
「はい。先日お逢いしておわかりかと思いますが、エイジはどちらかというと距離感が近く、馴れ馴れしい性格です。魔術団長はあの通りの真面目人間ですから合わないのでしょう」
そこまで言ってから、ミネアさんが「ところで」と続ける。
「アカリさん、これおいしいです。もう少しつけてもよろしいでしょうか」
ミネアさんが指差したのはオレンジマーマレードだ。
正直なところ手作りしたことはなかったのだけれど、以前本でジャムなどを作る時にはお砂糖とフルーツを煮詰めればできると読んだことがあったので、やってみたら上手くできた。
ストレートな「おいしい」の言葉に思わずにやけてしまう。
「もちろんです! おいしかったですか、よかったです」
「はい。甘いだけでなく少しほろ苦くて、とても好きです」
私もマーマレードをひと匙取ってホットケーキに塗ってみる。
つやつや輝くオレンジ色に誘われて口に入れると、爽やかな柑橘類の香りが口の中いっぱいに広がった。
うん、味見はしていたけれど、初めてでこれなら上出来では。
「確かにレオニーダさんとエイジさんは全然タイプが違いますものね。これまでに接点はあったんですか?」
「多くはないと思います。エイジは戦場に出たわけでもないですし、基本的に彼の面倒は行きがかり上私が見ることが多いので」
「行きがかり上、ですか」
「エイジの初仕事は武器調達でしたから、こちらの世界に来てしばらくは騎士団に所属していました。今は業務の幅が広がったので王国付きのような形になりましたが」
ミネアさんが目玉焼きにナイフを入れる。
とろりと流れ出した黄身を見て首をかしげたので「ホットケーキを付けるとおいしいですよ」と伝えると、ミネアさんは素直にホットケーキの切れ端を浸し、口に入れた。
ミネアさんは少しだけ目を見開いたあと、新たな切れ端を作って黄身をまぶす。
どうやら気に入ってくれたようだ。
「接点は多くないけれど、レオニーダさんはエイジさんに苦手意識があるんですね」
「多分原因は魔王討伐の祝賀会ですね。エイジは酒場の近くに家を構える程酒好きなのですが、あの時はだいぶ飲んでいてうるさかったですから。あまり酒をたしなまない魔術団長が苦々しい顔をしていたのを覚えています」
そう言って、ミネアさんも苦々しい顔をする。
……うん、もしかして。
「……もしかして、ミネアさんもレオニーダさんのことあまり得意ではないですか?」
ぴたりと動きが止まった。
――まずい、ストレート過ぎただろうか。
少しだけ沈黙の時間が流れたあと、ミネアさんが静かに口を開いた。
「……まぁ、得意か苦手かで言えば苦手ですね。あの若さで魔術団長まで昇り詰めていて優秀なのはわかりますが、どこか威圧感がありますし、何を考えているかよくわかりません。私のような一介の騎士団員が魔術団長と直接話す機会も少ないですし」
うーん、威圧感……確かに初対面の時は私も怖かったような。
少なくとも、誤解されやすいのは確かだろう。
「そうなんですね、変なこと聞いちゃってすみません」
「ただ、アカリさんの前ではいつもと様子が違うので驚きました」
「えっ」
想定外の言葉に思わず声が出た。
「王城ではないというのもあると思いますが、雰囲気がいつもよりやわらかいように感じました」
「そうですか。確かに、気をつかってくれているのかも知れないですね」
「……というより、アカリさんのお蔭ではないでしょうか」
「私の?」
ミネアさんはサラダをもぐもぐ食べている。
「はい。アカリさんはとても話しやすいです。まだ私は今日が3回目ですが、ここに来ておいしい料理を食べるとほっとします。この前の様子だと魔術団長はよくこちらに来ているようですし、きっと居心地がいいのでしょう」
それならいいのだけれど。
ただ、レオニーダさんではなくミネアさんの口からそう聞くことができて、なんだかほっとした。
そうこうしている内に、ミネアさんのお皿が空になる。
「おいしかったです、ありがとうございます。エイジにも今度食べさせてやりたいな」
「よかったです。エイジさんにも……そうですね、レオニーダさんにOKもらえたら、また是非」
「それはかなりの時間がかかりそうですね」
ミネアさんの台詞に、思わず二人で顔を見合わせて苦笑した。




