26. 魔術団長の提案
「今日はいきなりミネアを連れてきてすまなかった。実は、ミネアから私に提案があったんだ」
「提案、ですか?」
「あぁ。異世界から勇者を召喚している話はしたと思うが、実はミネアはその勇者の一人と懇意にしている。だから色々と気付くこともあるのだろう」
頭の中にエイジさんの顔が思い浮かぶ。
エイジさんとミネアさんの仲がいいことはレオニーダさんも認識しているということがわかった。
「そうなんですね。私以外の勇者の方の話、初めて聞きます」
しらばっくれるのも悪いなと思いつつ、嘘は言っていないし……と自分に言い聞かせて続きを促す。
「ミネアの懇意にしている勇者は王国における調達企画全般に携わっている。その働きは魔王討伐のみならず、現在の王国の運営にあたっても良い効果をもたらしていると言っていいだろう」
レオニーダさんが淡々と続けた。
これはエイジさんとミネアさんから聞いた話と変わらない。
やはりエイジさんは凄腕のバイヤーらしい。
頭の中のエイジさんが得意げな顔になる。
「そうなんですか、すごいですね」
「……まぁ、そうだな」
レオニーダさんは微妙なリアクションだ。
どうしたのだろう。
「それで、ミネアがアカリ殿の護衛をする件だが――ミネアはもしアカリ殿が望むのであれば、その勇者と逢ってもいいのではないかと言っている」
「あっ、そういうことですか?」
なるほど、ミネアさんはエイジさんと私がおおっぴらに逢えるようセッティングしてくれたのだ。
このアイデアがミネアさんのものなのか、それともエイジさんのものなのかはわからないが、話し相手が増えるのは純粋にありがたい。
――しかし、レオニーダさんの眉間には何故か深い皺が刻まれている。
「……レオニーダさん?」
私が呼びかけると、レオニーダさんは「……いや、なんでもない」と言葉を濁した。
「まぁ、気が向けばまずはミネアと街に行ってみるといい。アカリ殿にとっていい気分転換になるだろう」
「はい、ありがとうございます!」
そう笑顔で返すと、レオニーダさんが少し口ごもったあとで目を伏せる。
ミネアさんがいた時といい、何だか今日はいつもと様子が違う――気がした。
「あの、レオニーダさん。どうかされましたか?」
「……いや、そのミネアが懇意にしているという勇者なんだが」
「……はい」
脳内には得意満面な笑顔のエイジさん。
――しかし、それは続くレオニーダさんの言葉であっという間に消し飛んだ。
「――正直、私はアカリ殿が逢うのは心配だと思っている」
「……はい?」
レオニーダさんが続ける。
「エイジ殿――その勇者の名前だが、彼は素行があまり良くない。ミネアがいるから大丈夫だとは思うが、もしエイジ殿と逢うことがあれば私にも教えてくれないか」
「えぇ……」
まだ一度しか逢っていないが、そんなに悪い人には見えなかった。
しかし、目の前のレオニーダさんは苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。
恐らく『素行不良』とされる何かがあったのだろう。
ふと、エイジさんとミネアさんが来た時のミネアさんの台詞を思い出す。
『今回みたいな突撃訪問は失礼でしょう――魔術団長に知られたら何を言われるか』
ミネアさんは知っていたのだ。
レオニーダさんがエイジさんをあまり快く思っていないということを。
いずれにせよ、すぐにエイジさんと逢わなければいけない用事があるわけでもない。
まずはミネアさんと街に出かけてみて、訊けそうならその時に事情を教えてもらうことにしよう。
「わかりました。レオニーダさん、色々お気遣い頂いてありがとうございます。今のところエイジさんにすぐ逢いたいわけでもないですが、もし何かあれば、レオニーダさんにご相談しますね」
そう答えると、レオニーダさんが少しだけほっとしたように表情を緩めた。
……エイジさん、一体何をやらかしたのだろう。
「それから、もしアカリ殿がまたこちらの世界の絵が描きたくなったら、良ければ私にも声をかけてくれ」
またもや意外な発言だった。
魔術団長の具体的な業務は知らないけれど、これまで聞いた話を踏まえるとかなりの激務に違いない。
そんな中、毎週末来てもらっているだけでありがたいというのに……。
「レオニーダさん、ありがとうございます。でもただでさえお忙しいのに申し訳ないです」
「いや、その――単に私が行きたいんだ」
「えっ」
レオニーダさんが少し慌てたように続ける。
「以前アカリ殿と森に出かけた時、君が絵を描くところが見られて……その、とても貴重な経験ができたから。普段の外出はミネアと行ってもらって構わないが、たまには私にも声をかけてほしいと思っている」
思いがけない言葉だった。
もちろん私にとってもあの日の経験はかけがえのないものだ。
それでも、レオニーダさんもそう思ってくれていたなんて思わなかった。
「……は、はい、是非! こちらこそよろしくお願いします!」
慌ててそう答えると、レオニーダさんは穏やかに頬を緩める。
そんなレオニーダさんを見て、私も思わず笑顔になった。




