25. いつもと違う魔術団長 -きくらげ玉子炒めとともに-
テーブルの中央にごとりと大皿を置く。
ごはんをよそっていると「アカリ殿」と声がかかり、振り返るとレオニーダさんが立っていた。
「私にできることはあるか」
「えっ」
そんなことを言われると思わなかったので、思わず声が出てしまう。
すると、レオニーダさんは「それを運ぼう」と続けてくれた。
一瞬申し訳ない気持ちがよぎりつつ、確かに温かい内に食べてほしいなと思い直してお茶碗を渡す。
「はい、お願いします」
次は汁物――今日はシンプルにコンソメスープ、具は薄切りにした玉ねぎだけ。
つぎ終えたところでレオニーダさんがまた取りに来てくれて、二人で食卓まで運ぶ。
席に着くとミネアさんが「ありがとうございます」と頭を下げた。
「それでは――」
「「「いただきます」」」
今度は皆で綺麗にハモって、なんだか嬉しくなる。
ふふっ、と思わず笑ってから二人の顔を見ると、気のせいかも知れないけれど表情が優しく見えた。
二人が思い思いに食事に手を伸ばす。
レオニーダさんはごはんから。
ミネアさんはサラダから。
それを見届けて、私はスープを取った。
ふわりと舞うコンソメの香りを楽しみながら、こくりとスープを飲む。
よく煮た玉ねぎが舌の上で溶けた。
野菜を一緒に煮込むだけでこんなにおいしくなるんだから、食品企業さんの努力は素晴らしい。
コンソメ顆粒、あの日買っておいて良かった。
次はサラダ、箸でざっくりとつかみ取る。
レタスの瑞々しさにコーンのぷちぷち感とほのかな甘み、そしてもう一口。
しょうゆドレッシングの塩気とトマトの甘酸っぱさのバランスも好きだ。
そしてメインのきくらげ玉子炒めにいこうと視線を向けると、レオニーダさんが自分の器に取り分けていたところだった。
そして取ったあと、私の方に手を差し出す。
「アカリ殿」
「……えっ? あ、自分で取りますよ?」
「いいから」
その赤い瞳に見つめられ「じゃあ……」と根負けしてお皿を手渡した。
手際よく料理を盛る姿がなんだか新鮮だ。
今日のレオニーダさんはいつもと違う……ような気がする。
「ありがとうございます」
「ミネア、皿をくれ」
レオニーダさんはミネアさんにもぱぱっとついでお皿を返す。
そしてすべてを終えたあと、自分のきくらげ玉子炒めを箸でつまんで口に入れ、小さく頷いた。
もう一口、今度はすぐにごはんも食べる。
レオニーダさんは「うん」と言ったあと、こちらを向いた。
「アカリ殿、今日もうまい」
「本当ですか? よかったです」
どんどん食べ進めるレオニーダさんの様子にほっとしたので、私も頂くことにしよう。
玉子にはしっかり火を通したけれど、ほんの少しだけ半熟っぽいとろみが残っていて食欲をそそる。
固まりきらない内に、とろとろの部分を慎重に取ってごはんの上に載せた。
続いて豚肉ともやし、そしてぷりぷりのきくらげ。
役者が揃ったところでごはんごとぱくり。
歯をきくらげの弾力が力強く押し戻してくる。
負けずに噛み締めるとぷつりと切れた。
じわりと広がるうまみを一緒に口に入れたごはんが受け止める。
豚肉の油もおいしいけれど、それをもやしのじゃくじゃくした食感が中和してくれた。
――うん、確かにおいしい。
初めてつくるメニューだったけれど、上手くできてよかった。
気付けばミネアさんのお茶碗が空になっている。
「あ、ミネアさん、おかわりいかがですか?」
「……よろしいんですか?」
おかわりを渡すとミネアさんは少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
どちらかというとクールなイメージがあったので、なんだか私まで嬉しくなる。
特段会話はなかったけれど、穏やかな雰囲気で食事を終えた。
***
「アカリさん、ごちそうさまでした。それではまた」
外に出ていくミネアさんを見送り部屋に戻ると、レオニーダさんが私の絵を見ている。
今週のノルマの5枚と、そして新たな食材たちのものだ。
「アカリ殿、今日はこれで全部か?」
「はい、毎回すみません。お仕事のあとにここでも魔法を使わせてしまって、大変じゃないですか?」
「問題ない。私も恩恵を受けている」
涼しい顔でそう答えて、食材の絵をじっと見つめる。
「……これは野菜ではないな」
「はい。お肉があれば作れるメニューが増えるかな、と思いまして」
今回描いたのは鶏肉と牛肉だ。
とはいえ調理前のものなので、レオニーダさんに再現してもらってもすぐに食べて確かめることはできない。
そして生で食べたことがないので、あくまで伝えられるのは火を通した状態の味になる。
「こちらのお肉はぷりぷりやわらかいです。火を通すと白くなって、味もこれまでお出ししていた豚肉よりさっぱりしているイメージです」
「……なるほど」
「こちらのお肉は味が濃く、食べ応えがあります。脂が乗っていて、火を通すと赤から茶色に変化します」
焼肉屋さんで食べた時のことを思い出しながら説明を続ける。
一通り話し終えると、レオニーダさんが少し考える仕種をしながら右手をぱっと振った。
――瞬間、皿に乗った鶏肉と牛肉が姿を現す。
「おぉー……何回見てもすごいです……!」
その見た目だけでしかまだ判断できないけれど、見事な再現度だ。
「味が再現できているかはわからないが、まずはこれで試してみてくれ」
「わかりました、ありがとうございます」
早速何を作ろうか想像を巡らせていると、レオニーダさんがじっとこちらを見ていることに気付く。
「……何かありましたか?」
私の問いかけに、レオニーダさんが少しだけ申し訳なさそうに眉を下げた。




